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学校における評価…その評価、本当に必要ですか?

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法的根拠

学校評価には、学習者(児童・生徒)によるもの、教師によるもの、保護者によるもの、学校関係者や第三者によるものがあり、その対象は、児童・生徒の成績はもちろん、授業や学校行事、学校経営に関わるものなどがあります。

昔は、進路選択のために、教師が児童・生徒の成績をつけるための評価だけがなされており、児童・生徒が授業を評価したり、保護者が学校経営を評価したりするようなことはありませんでした。

1950年代、アメリカの統計学者、エドワーズ・デミングがPDCAサイクル「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認)→ Act(改善)」を提唱し、日本科学技術連盟が産業復興のために品質管理の手法として広めました。これがやがて学校の中にも取り入れられ、学校評価が様々な場面で拡大されてきました。

平成19年に学校教育法が改正され、第42条で学校評価に関する根拠となる規定、第43条で学校の積極的な情報提供についての規定が設けられています。これが、「説明責任を果たせ」といわれる根拠です。

学校教育法第42条

小学校は、文部科学大臣の定めるところにより当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況について評価を行い、その結果に基づき学校運営の改善を図るため必要な措置を講ずることにより、その教育水準の向上に努めなければならない。

学校教育法第43条

小学校は、当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力の推進に資するため、当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする。

 (中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校も準用)

この規定を受けて学校教育法施行規則も改正され、自己評価の実施・公表(第66条),保護者など学校関係者による評価の実施・公表(第67条),それらの評価結果の設置者への報告(第68条)が規定されています。

また、今後、「自己評価」や「学校関係者評価」に加え、法的にはまだ義務化されていませんが、「第三者評価」も導入される方向性が示されています。

学校教育法施行規則第66条

小学校は、当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況について、自ら評価を行い、その結果を公表するものとする。 2 前項の評価を行うに当たつては、小学校は、その実情に応じ、適切な項目を設定して行うものとする。

学校教育法施行規則第67条

小学校は、前条第一項の規定による評価の結果を踏まえた当該小学校の児童の保護者その他の当該小学校の関係者(当該小学校の職員を除く。)による評価を行い、その結果を公表するよう努めるものとする。

学校教育法施行規則第68条

小学校は、第六十六条第一項の規定による評価の結果及び前条の規定により評価を行つた場合はその結果を、当該小学校の設置者に報告するものとする。

学校行事の生徒評価を真摯に受け止めよう。

以前、勤めていたK中学校で体育大会のチーフをしていた時、男子の組体操演技で「6段ピラミッド」と「5段タワー」に挑戦しました。当日はみごとに成功し、退職間近の校長先生から、「これまで見た中で一番素晴らしい組体操だった。今後、先生方もこんなみごとな組体操を見ることはないでしょう」と絶賛して頂きました。私は少し鼻を高くし、生徒たちの体育会の感想文を読んでいますと、5段タワーの一番上に乗ったS君の作文が目にとまりました。

とあり、「体育会は楽しかったですか」の自己評価は5段階の「」としていました。

その他の生徒たちの感想を見ると、「よかった」という生徒がいる反面、「しんどかった」や「苦しかった」という感想も少なからずあり、前年度と比較すると、「楽しかった」という平均評価は下がっていました。

私は、いくら先生方が「素晴らしかった」と言ってくれても、生徒たちにとってはそうではなかったということに気づかされました。

生徒の授業評価は謙虚に受け入れよう。

現在、日本の大学では、FD(ファカルティ・ディベロップメント)が普及し、受講学生に対して授業評価アンケートをとるのは当然のこととなっています。小中学校では、まだまだ授業の評価を取り入れていませんが、私自身は早くから自分の体育授業に取り入れていました。

自分の授業評価・改善のために、生徒たちから授業評価のアンケートをとるというのは、兵庫教育大学大学院の小林篤先生から教わった手法でした。小林先生は、ご自分の大学の体育授業にも、学生からアンケートを取っておられました。

その手法は、楽しい体育の「高田・小林四原則」として、全国に広く流布されています。

高田・小林四原則」というのは、体育授業後に、以下のような4観点について、それぞれ、5段階で評価をしてもらい、その記録を分析するものです。

❶精一杯、全力を尽くして運動ができたか【活動欲求

➋今までできなかったことができるようになったか【技術向上

❸『あっ、わかった』とか『あっ、そうか』と思うことがあったか【発見・工夫

➍友だちと力をあわせて、仲良く学習することができたか【協力・連帯

多くの子どもたちは、体育の授業後、「楽しかった」と答えますが、それが単に、「汗をかいて楽しかったから」とか、「友だちと仲良くできたから」というだけではレベルの低い授業だといえます。やはり、「わかる」ことと「できる」ことが統一された楽しさを得る授業でなければなりません。

男女共習ハンドボール授業(T中学校):全市研究発表

T中学校では、教務主任を長くやっていたので、授業の評価を学校全体に取り入れ、積極的に取り組んできました。

全学年、全教科の授業アンケートを毎学期末に実施し、9教科別の評価を比較検討するようにしていました。生徒たちの私の保健体育の授業評価は非常に高く、生徒たちの「一番好きな教科」も、「楽しい教科」も、「わかりやすい教科」も群を抜いて、すべて第1位を独占していたので、私は少しばかり天狗になっていました。

ところが、次にA中学校に転勤になって、同じように授業評価をさせてみたところ、なんと、私の保健体育の授業評価は下から2番目でした。私の保健体育の実技授業では、多くのプリントを資料として配布し、ノートに記述や記録をさせたり、レポートを課したりするという、いわば科学的な授業だったのですが、A中学校の生徒たちには合わなかったのでしょう。

男女共習ハンドボール授業(A中学校):全市研究発表

「A中学校の生徒たちはレベルが低い!」「前任の体育教師は一体何を教えていたのだ?」と、自分の授業のことは棚にあげ、腹立たしさを感じていました。しかし、よくよく考えてみると、悪いのは生徒でも前任者でもなく、自分の授業が生徒の実態と合っていなかったということなのです。謙虚に反省し、受け入れるまで、まる1年を要しました。

学習指導要領において明言されている通り、「指導」と「評価」を一体化することが大切です。「指導」と「評価」にズレがないようにすることが、児童・生徒にとっていい授業になるかどうかのポイントだと言えます。

保護者による学校評価を生かすには?

今は、多くの学校で、年度末や学校行事の度に、保護者に学校評価が実施されています。これらの保護者の意見は実際、どのように扱われ、どのように生かされているのでしょうか?

教頭で赴任したT中学校では、保護者アンケートには、いつも学校への不満などがボロカスに書かれていました。実際はそれほど荒れた状況の学校でもなかったのですが、よくよく保護者の意見や感想を読んでみると、自分の子どもだけの不満であったり、自分の経験だけの思い込みであったりするものが多くありました。「率直な意見」だと評価すればいいのでしょうが、これらのマイナスの意見を真に受けると、教師たちが疲弊すると感じました。

同じく教頭で赴任したM中学校は、大規模校で、保護者アンケートを読むだけでも大変だろうと思っていましたが、保護者の意見は殆ど何も書かれていません。そこで、PTAの会合などでそのことを取り上げると、保護者たちの本音が見えてきました。「子どもは人質、学校に文句を言ったら、損する」と考えている保護者が多かったのです。いくらアンケートをとっても、これは無駄だなと感じました。

次に赴任したN中学校では、行事の度に保護者アンケートが実施されていましたが、その結果は誰の目にも触れることなく、闇に葬られていました。当然、保護者からの不満は溜まる一方で、「学校は変わらない、学校に何を言っても無駄」と考える保護者が多いように感じました。

保護者の学校評価を実施することは義務であり、質問内容を吟味しつつ、アンケートの取り方を工夫しながら、実施すべきです。その際、次のことに注意しておきましょう。

なお、「第三者評価」も導入される方向性が示されていますが、保護者の学校評価と同じような対応を心がける必要があると思います。

教師による学校評価の扱いは・・・?

安易に職員アンケートを配り、何でも自由に反省や意見を書いてくださいとやると、次のような様々な問題が発生します。

 評価項目が明確でなく、評価者によって評価にばらつきが生じやすい。

 評価者の価値観や経験によって評価が異なり、公平性に欠ける場合がある。

 評価結果が適切にフィードバックされず、教員自身の課題や改善点を知ることが難しい。

 評価結果が不当に低い場合や、評価が昇進・昇格に繋がらない場合、教員のモチベーションが低下する可能性がある。

 評価結果が低いと、教員の自己肯定感を低下させ、自信を失わせる可能性がある。

 評価に対する不満や不信感が広がり、学校全体の雰囲気が悪化する可能性がある。

評価項目が実際の教育活動と乖離している場合、評価の意味が薄れてしまう。

評価作業が教員の負担を増やし、本来の教育活動に支障をきたす可能性がある。

評価結果が改善策に繋がらず、形骸化してしまう可能性がある。

評価制度に対する不信感が根強く、評価そのものが機能しない可能性がある。

 教師が学校評価をすることで、改善どころか、学校経営が悪化するのです。このような問題が発生しないようにするには、以下のことに留意する必要があると思います。

 評価項目を明確にし、評価者間のばらつきを減らす。

 評価結果を適切にフィードバックし、教員の成長を促す。

 評価結果を改善策に活かし、教育活動の質を向上させる。

 教員の意見を聞き、評価制度に反映させる。

 評価が教育活動と乖離しないように、評価項目を見直す。

また、評価方法の改善だけでなく、教員の意識改革や学校全体の教育に対する意識改革も必要となるでしょう。

いずれにしても、慎重かつ計画的に、少なくとも2~3年の動向も把握しながら、学校評価を実施しなければなりません。

安易に学校行事のたびに反省アンケートを配るとか、職員定数の増加や授業数カットなど実現不可能な要求が頻出するような学校評価なら、最初からしない方がいいと思います。

職員の学校評価は義務ではありませんから・・・。

校長による人事評価

公務員の勤務評定については、1950年の地方公務員法成立時から実施されてきました。2014年の改正により、勤務評定は廃止され、現在は人事評価制度が導入されています。

教育公務員の場合は、職務内容の特殊性のために勤務評定は実施困難とされていましたが、1958年に強硬採決され、その後、勤務評定闘争に発展しました。2016年に教師の能力や業績を評価する人事評価制度の導入が義務化され、様々な問題を抱えながら、現在に至っています。

教育公務員の人事評価の法的根拠

地方公務員法第23条の2

職員の執務については、その任命権者は、定期的に人事評価を行わなければならない。

2 人事評価の基準及び方法に関する事項その他人事評価に関し必要な事項は、任命権者が定める。 3 前項の場合において、任命権者が地方公共団体の長及び議会の議長以外の者であるときは、同項に規定する事項について、あらかじめ、地方公共団体の長に協議しなければならない。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律第44条(人事評価)

県費負担教職員の人事評価は、地方公務員法第二十三条の二第一項の規定にかかわらず、都道府県委員会の計画の下に、市町村委員会が行うものとする。

人事評価に関して、私の校長時代の失敗談をひとつ紹介したいと思います。

ある学校に校長として赴任したら、各学年1~2クラスしかない小規模の中学校でした。4月に着任して、6月には、来年度の教師の異動と管理職希望者を調査せよと教育委員会からの指示がありました。

それまで、管理職になるには、12月~1月頃に筆記試験や面接などが行われていたのですが、その年から制度が変わり、無試験で本人の意思と校長の推薦によって決定するというように変わったのです。

中学2年生を担任していた40歳過ぎの教師Aが、教頭になりたいと希望を申し出てきました。小規模の学校だったので、教師Aは担任だけでなく、教務主任も兼任していました。指導困難校での勤務経験もあり、そつなく業務をこなしていたので、「まあ、大丈夫だろう」と思い、最高の評価を委員会に送りました。

しかし、その後、よくよく仕事ぶりをみていると、教師としての資質に欠ける言動が目につくようになりました。事務的な仕事や授業は淡々と進めていたのですが、特に生徒との関係がよくありません。

案の定、年度末の3月、3人の保護者が別々に私のところにやってきて、来年度の担任を変えて欲しいという欲求を言ってきました。

小規模校で教師の数も少なく、2年間担任をしていた教師Aを外すというのは、困ったことだと思っていたところに、教師Aの教頭昇進の連絡がありました。表向きには「残念なこと」に、しかし実際は、「ラッキー」なことに、担任交代となりました。

そもそも、4月に赴任して、6月に人事評価を出すこと自体に無理があったと言わざるを得ません。教師Aは翌年、教頭として新しい学校に赴任しましたが、教師からの不信によって1年で転勤となっていました。私は、人間関係をうまく構築できない教師Aを教頭に推すべきでなかったと反省しています。

評価の目的を明確に!

さて、評価は本来、何のためにするのでしょうか? まず、その目的を明確にしておかなければなりません。

教師にとって;学習指導の改善

評価結果を分析することで、児童生徒の理解度や課題を把握し、より効果的な指導方法を検討することができます。

児童生徒にとって;学習意欲の向上

適切な評価なら、児童生徒の努力や成長を認め、学習意欲を高めることができます。

自己評価の促進

評価結果を児童生徒にフィードバックすることで、自己の学習状況を理解させ、主体的な学習を促すことができます。

より高いレベルの教育の提供

学校全体の教育活動の成果を評価し、改善につなげることで、より質の高い教育を提供することができます。

明確な目的のないまま学校評価を実施したり、アンケートをとったりすることは、学校運営にとって、かえってマイナスとなります。

また、教師は「チェックマン」ではありません。「指導と評価の一体化」が大切だと言われるように、指導に生かす評価をすべきです。

以上、児童・生徒による評価、保護者による評価、教師による評価、校長による評価を取り上げてみましたが、いずれにせよ、本当に必要な評価なのかをよく検討して実施するようにしましょう。業務改善の視点からも、必要でない学校評価は思い切ってカットすべきだと思います。

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学校評価には、学習者(児童・生徒)によるもの、教師によるもの、保護者によるもの、学校関係者や第三者によるものがあり、その対象は、児童・生徒の成績評価、授業や学校行事、学校経営に関わるものなどがあります。

今は、学校の積極的な情報提供についての規定が設けられています。これが、「説明責任を果たせ」といわれる根拠です。

その中で、生徒による学校行事の評価や授業評価は重く謙虚に受け入れなければならないと思います。

また、保護者や第三者による学校評価は、可能な限り、フィードバックが必要です。

ただ、保護者は自分の子どもを通して学校を評価する傾向が強いので、個別の対応が必要です。

教師による学校評価は、学校経営が悪化する要素もあるので、慎重かつ計画的に実施しなければなりません。

いずれにしても、評価の目的を明確にし、本当に必要な評価なのかをよく検討して実施するようにしましょう。必要でない学校評価は思い切ってカットすべきだと思います。