私たちの仕事は、生きた人間を相手にしています。一人ひとり、顔が違い、複雑な精神構造をもった人間を相手にしているので、全く同じ方法で対応することはできません。従って、私たち教師は、ケース・バイ・ケースに応じて、臨機応変に対応する能力をもっていなくてはなりません。
生徒指導において、この方法が万策だというものはありません。
時代に応じ,地域や学校事情に応じ,また、個々の児童・生徒に応じて、常に柔軟な頭をもって対応していこうという姿勢が大切です。
生徒の「心」をつかむコツ
担任として最も大切なことは、生徒たちから「信頼」されることです。
どんないい実践をしても、また、いい話をしても、生徒たちから信頼されていない教師の言動は、何の教育効果も生みません。
ところで、生徒たちが好きな先生と嫌いな先生のタイプをあげてみましょう。
- ① 気楽に相談でき、親身になってくれる先生
- ② ユーモアがある反面、要所では引き締めてくれる先生
- ③ 勉強や運動などが「できる」「できない」だけで差別しない先生
- ④ 勉強をわかりやすく熱心に教えてくれる先生
- ⑤ 部活動や各種の行事の時、生徒と一緒に活動してくれる先生
- ① 生徒の意見を無視する先生
- ② 怒りっぽい先生
- ③ ユーモアのない先生
- ④ 厳しさがなく、優しすぎる先生
- ⑤ 差別(ひいき)をする先生
- ⑥ 人前で恥をかかせる先生
- ⑦ くだらないことを長談義する先生
- ⑧ 不潔で、だらしない格好をする先生
- ⑨ 暴力をふるって叱る先生
- ⑩ 約束を守らない先生
しかし、お互い、人間ですから、好き嫌いの感情はあるでしょう。どんな立派な教師でも、100人の生徒がいて、100人全員から好かれるなんてことはあり得ません。しかし、何人かの生徒たちから嫌われていても、信頼されていれば、担任として務まります。私の教え子に、こんな生徒がいました。
「先生は、私や母を捨てて家を出ていった憎いお父ちゃんに顔がそっくりやから嫌いや。でも、先生のことは信用している。」
では、次に生徒たちから「信頼」されるコツをあげましょう。
生徒たちから「信頼」されるコツ
1.保護者から信頼されること。
いくら生徒から好かれていても、家に帰って親から、「うちの担任はあかん」と言われていたら、その生徒から信頼されることはありません。最近の親は、高学歴のため、教師という職業を羨望しつつも、見下している傾向にあります。不景気でもリストラされることもなく、安定した職業であることに妬みをもっている親もいます。社会面を賑わす一部の心ない教師の事件で、信頼をなくしている親もいるでしょう。中には、親自身が生徒の時に、教師から差別を受けたりしたために、恨みをもっている場合もあります。それでも、「うちの担任はいい」と思われる努力が必要です。
親とのよい人間関係を作る最も早道は、直接会ってよく話をすることでしょう。「足で稼げ」といわれる通り、問題が生じた時、電話一本で事を済ませてしまうようなことがないように、家庭訪問を怠ってはいけません。家庭訪問は、親との心の交流のチャンスです。
また、授業参観は保護者が学校生活を知るチャンスですし、学級懇談会や保護者会は、保護者同士が結び合ったり、担任や学校に協力を得たりする絶好のチャンスです。こういう機会を大切に演出する必要があるでしょう。
さらに、学級と家庭との架け橋になるのが、「学級通信」です。学級通信は、担任の考えや生徒たちの様子,保護者の意見などを具体的に記事にすることで、担任・保護者・生徒を有機的に結びつけることができます。私の経験では、学級通信が40号を越える頃になると、クラス全体が自分の手中に入ってくるように感じています。
2.生徒一人ひとりを大切にすること。
生徒は差別(ひいき)してはなりません。人格・個性の尊重を口にしながら、いつの間にか、気の合った生徒だけを回りに集めていることはよくあることです。生徒は、差別されることに非常に敏感で、ひいきする教師を嫌います。
しかし、一方、子どもというのは、「自分だけ特別に大切にしてもらっている」と感じると、心を開いてくるという二面性をもっています。
個性の強い生徒や問題行動の多い生徒,また、あまり目立たない生徒にこそ、積極的に話しかけ、個別に接していくことが大切です。生活日誌や個人ノートを利用するのも有効的です。時には、家に励ましの電話をかけたり、長期休業中に暑中見舞いの葉書を出したりすることも、効果があるでしょう。
勿論、生徒一人ひとりの氏名(フルネーム)を覚えておくことは、言うまでもありません。さらに、誕生日や家庭状況,習い事,性格や行動の記録など、出来る限りの情報を手に入れておくことが必要です。生徒が提出する生活日誌に、「今日は誕生日だったね。おめでとう。」と書くだけでも、生徒が心を開いてくるものです。
3.話上手であること。
教師の仕事の殆どは「話す」ことです。体で教えることよりも、言葉を媒体にして伝え、指導することの方がずっと多いと思います。担任として、生徒たちに話す機会はたくさんありますが、話下手は致命傷です。
いい話をするには、行き当たりばったりで話をするのではなく、事前に、何を話すのか、よく考えることが必要でしょう。それには、一度は、原稿を書いてみることを薦めます。
特に、朝と帰りの短学活の時間には、単に連絡事項を伝達するだけでなく、いい話をするようにしたいものです。ある学校で突然担任した中学2年生のクラスでは、帰りの短学活になると、4月当初、「先生、早く終わろうや。」「俺、早く部に行きたいから。」と全く担任の話を聞こうとしない雰囲気でした。しかし、短学活の時間に担任の話の時間を設け、事前に話の内容を考えて原稿を書くように心掛けていましたら、1学期も半ばになると、しっかり担任の話に耳を傾けるような雰囲気のクラスに変わり、学年の終わりの頃には、たまに話をしないと、「先生、今日は話がないのですか?」と怪訝そうな顔をされるようになりました。
4.授業が上手であること。
教科指導だけでなく、道徳や学活の指導も含めて、担任は授業が上手でないといけません。同じ話をしても、生徒たちから信頼されている教師の話は、生徒も納得して聞くものです。授業を上手になるには、教材研究をしっかりやり、研修の機会を多くもつことが大切でしょう。
5.「温かさ」と「厳しさ」を兼ねた厳正な姿勢で接すること。
問題行動の多い生徒や集団の外にいる生徒に対しては、特に温かい目を注ぎ、人間としての優しさを教師自らが示すことが大切です。一緒に清掃をしたり、雑談を交わしたり、補助的な仕事を与えたりする中で、共感的理解が深まり、生徒の心が開かれていくものです。
その一方、自分勝手な行動やきまりを破るような行動,また、人を傷つけるような行動に対しては、毅然とした態度で「何が悪いのか」「どうすればよいのか」を生徒に理解させ、よりよい方向に進むように励ましていくことが大切です。たった一人の生徒でも、問題行動を見逃したり、甘やかしたりすると、小さな水漏れから堤防が決壊するような勢いで、正義の通らないクラスになってしまいます。
昔から「三つ叱って、七つ褒めよ」と言われますが、「ほめる指導」と「叱る指導」をうまく使い分けることが大切です。その際、褒める時はおだてることにならないように,また、叱る時は怒ることにならないように注意しなければなりません。生徒たちは、教師の毎日の言動を注意深く観察しています。
【まとめ】
生徒から信頼されるには・・・
①授業が上手であること。
教材研究・研修の機会を持つ。
②保護者から信頼されること。
「足で稼げ」(家庭訪問)
保護者の来校をチャンスに。
一方通行でない学級通信
③話上手であること。
行き当たりばったりでなく、話す前に原稿を書いてみる。
短学活(ST)の時間を大切に。
④生徒一人ひとりを大切にする。
ひいきはせずに特別に扱う。
個別に接する。(生活日誌や個人ノート,電話,暑中見舞いの葉書)
生徒の個人情報をしっかり把握
⑤温かさと厳しさを兼ねた厳正な姿勢で接する。
「三つ叱って、七つ褒めよ」
・・・「ほめる指導」と「叱る指導」をうまく使い分ける。