一人ひとりに応じた指導・支援
皆さん、おはようございます。
私が中学校の生徒指導担当教師をしていた頃、こんな男子生徒(A君)がいました。
1.中学入学時は、目立たないおとなしい生徒でした。
2.中学1年生の時、「職業調べ」で親の仕事を調べてくる課題が出されたのですが、どういうわけか、提出してきません。
3.担任の先生は「お父ちゃんにちゃんと聞いてこい」と厳しく叱りました。
4.しかし、課題をやってくるどころか、それ以降、担任にことごとく反抗するようになり、転落の道を歩むのです。
実は・・・
A君の家庭は再婚家庭で、実父ではなかったのです。継父に馴染めず、A君は父親の職業を聞くという課題をすることができなかったのです。
「中1の担任の先生は、俺のこと(家庭事情を)知っておいてほしかった・・・」、
後に改心したA君の言葉です。
「クラス全員にちゃんと言っておいたから・・・」とか
「事前に学校だよりやホームページに載せておいたから・・・」
と言って、その通りに生徒たちが全員できることなど、ほとんどありません。
生徒一人ひとりに応じた指導・支援が必要です。
困っている生徒や問題を起こす(可能性のある)生徒にこそ、支援をする・・・それが、本来の教師の仕事ではないでしょうか!?
生徒理解(アセスメント)のために・・・
生徒理解(アセスメント)は、生徒にどのような指導・援助をするのか(しないのか)を決定するために必要な情報を収集・共有・判断・検証するプロセスです。
生徒理解(アセスメント)のために、3つの分野の情報を集めます。
①「その生徒個人」の情報
□ 学習面、進路面、生活面において、いいところや苦しんでいるところは?
□ どのような状況の時、どのように感じ、考え、行動したか?(具体的に)
□ 得意なことや興味があること、優れている点、ウリは?(「資源」、強い点)
②「その生徒を取り巻く環境」の情報
□ 家族構成や家族の特徴は?
□ これまでの学校生活での特徴的なエピソードは?
□ これまでに同じような経験は? そのときの乗り越え方や有効だった方法は?
③「その生徒と他者や環境とのかかわり」の情報
□ 問題行動が起こったり、継続したりする場面状況は?
□ 誰が、どのようにその児童生徒をサポートしたり、力になれるか?
□ これまでのかかわりの中で、効果的だったことや役に立ちそうなことは?
いずれも、傾聴・受容・共感をもって、日常の生徒観察やカウンセリングが必要です。
家庭事情を知らずにトラブルになった不用意な発言・言動例
●母親のいない生徒に、「家に帰ったら、お母さんにもちゃんと言うとけよ。」
●夜勤のある看護師の母親のいる生徒に、「明日の朝までにお母さんのサインをもらっといて。」
●整形外科の父親のいる生徒がけがをして、「その程度のけがなら、冷やしておけば大丈夫だ。」
●N高校に通学している兄のいる生徒に、「通信制の学校なんて進路先に考えちゃいけない。」
●就学援助家庭の運動部の生徒に、毎週、高額の交通費のかかる対外練習試合を計画する。
●教育扶助家庭の吹奏楽部の生徒に、高額の楽器を「個人で買った方がいい」と勧める。
●「お前の親は学校の先生やろ。」「(いじめをした生徒の)親の顔が見たいわ。」などの発言etc.
最大の罪
ただ、児童・生徒理解のために、アセスメントをした結果、大きなミスをしてしまうこともあります。
たとえば、「ひとり親家庭だから、〇〇をしても仕方ないよね」とか、「親の仕事が□□だから、△△のような考え方をするんだ」というような、レッテルをはってしまうことです。
生徒にレッテルをはることは、生徒の成長を止めることで、教師として「最大の罪」だと思います。
目の前に子どもがいなくても、こんな話題を何気なくしていませんか?
×「あいつは、勉強できるけど、人間的にあかんわ。」
×「うちの学年は学力がないから、公立のトップ校には一人も行けないね。」
×「うちのクラスは音痴な子ばかりなんで、音コンでは勝てないわ。」
抱鯉の術
さて、池の鯉を捕まえようと網を持って池の周りや池の中を追いかけても、鯉は逃げ回って、なかなかうまく捕まりません。ところが、鯉捕りの名人は、まず水の中に入り、鯉の動きに合わせてゆっくりと歩くことから始めます。次に、鯉の泳ぐ方向に一緒に歩き、少しずつ近づきます。そして、鯉の横に並び、片方の腕で自分の体の方にゆっくり引き寄せ、抱え込むようにして歩きます。もう一方の手で網を鯉の前に差し込むようにすると、やがて鯉はおとなしく網に入るのだそうです。これを「抱鯉の術」と呼んでいます。
教育や子育ては、まさにこの「抱鯉の術」と同じではないでしょうか。
私たちは水に入らず、池の端であれこれと子どもたちに言葉で指示や命令をしがちではないでしょうか。人生経験の少ない子どもたちの行動は、大人からみれば、歯がゆく、口をいれたくなることがたくさんあります。しかし、子どもたちは子どもたちなりに工夫したり、努力したりして、悩んでいるのです。この悩みを少しでも解消してあげるためには、大人が子どもたちの立場や考えに腰と目線を落として、子どもたちと同じ位置で話を聞き、共に考え合う方が、子どもに多くの示唆を与えることができるのではないでしょうか。
子どもたちに、時として高所からの命令も必要ですが、普段は、極力子どもたちの心と行動に歩み寄って、抱え込むような教育を進めたいものです。
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