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中学生の道徳性を育む教育に有効な担任の取組について

タイトル 道徳・学級通信
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-学級通信の発行が問題行動に及ぼす影響から-

はじめに・・・道徳教育の必要性

 小中学校では、従来、「道徳の時間」を週1回、教科外活動として設けていた。2015年に学習指導要領の一部が改訂され、道徳は「特別の教科」(道徳科)として位置づけられるようになり、小学校では2018年度から、中学校では2019年度から学習指導要領が全面実施されている。

 道徳が教科化に至った背景には、「いじめに関する痛ましい事案」(松野博一文部科学大臣)がある。2010年代、中学生のいじめを苦にした自殺や少年らの暴行によって死亡した事件が社会に大きな衝撃を与えた。

 これまでの道徳教育は、読み物の登場人物の気持ちを読み取ることで終わってしまっていたり、「いじめは許されない」ということを児童生徒に言わせたり書かせたりするだけの授業になりがちであった。そこで、現実のいじめの問題に対応できる資質・能力を育むために、いじめ問題を自分自身のこととして多面的・多角的に考え、議論していく「考え、議論する道徳」へと転換することが求められた1)

 また、道徳が教科化された理由として、道徳が教科外活動であったために他教科と比べて軽視され、実際は「道徳の時間」にほかの科目の授業が行われているという指摘もあった。道徳の教科化によって年間35時間の授業が確保されることで、この問題は解決されると考えられている。

 しかしながら、道徳教育は、豊かな心をはぐくみ、人間としての生き方の自覚を促し、児童生徒の道徳性を育成することをねらいとする教育活動なので、道徳の時間の授業だけでなく、各教科や外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動など教育活動全体を通じて行わなければならない2)

 ところで、道徳教育の成果は学級担任の力量によることが多く、担任の普段の姿勢が影響すると考えられる。すなわち、道徳の授業時間だけでなく、朝夕のショートタイムや学級通信の発行、休み時間や放課後の生徒との関わりなど、担任の教育観や学級経営力によって、道徳の成果が大きく違ってくるのである。

問題提起

 筆者は、2015年~2019年の5年間、神戸市の3校で教頭を務めてきた。その間、計81クラスの担任の指導を1年間サポートしてきた。

2015年度・2016年度 M中学校 各学年8クラス 延べ48クラス

2017年度・2018年度 N中学校 各学年3クラス 延べ18クラス

2019年度        K中学校 各学年5クラス 延べ15クラス

 いずれの学校も、生徒指導面では全体的に落ち着いた雰囲気であったが、個々のクラスでは様々な問題行動が発生した。ただ、1年経つと、クラスによって、問題行動が減ってくるクラスとそうでないクラスに明らかに分かれる。それが担任の指導力だといえるが、その一因を明らかにしたい。

 なお、生徒の問題行動には、無断欠席・遅刻,反抗的な言動,服装・頭髪違反,怠学,授業妨害,器物損壊,喫煙,飲酒,窃盗,賭けごと,無免許運転,不純異性交遊,無断外泊・家出,危険物・凶器の所持,違法薬物の所持・販売行為,痴漢行為,放火,強制わいせつ,強盗,など、犯罪や非行に直結するものと、対人トラブルや不登校がある3)。退陣トラブルに関するものでは、言葉によるからかい,無視,攻撃的な言動,仲間はずれ,悪口・陰口,いじめ,暴言・誹謗中傷行為,脅迫・強要行為,暴力・傷害行為,恐喝行為,などがあげられるが、これらは、道徳教育と密接な関係をもつと考えられるので、1年間の問題行動の発生件数の推移を学期ごとに、内容ごとに分析した。

結果と考察

教師の経験年数と問題行動

図1は、担任の経験年数と問題行動の年間件数,図2は、担任の経験年数と人間関係トラブルの年間件数の関係を示したものである。

図1.担任の経験年数と問題行動の年間軒数の関係(相関係数0.08)

図2.担任の経験年数と人間関係トラブルの年間件数の関係(相関係数0.13)

いずれも相関は認められず、担任教師がベテランであれ、若手であれ、問題行動は必ず起こるということを示している。

学級通信の発行頻度と問題行動発生

 表1は、担任の学級通信の発行頻度と、問題行動の学期ごとの発生件数,年間合計数,平均数,および1学期と3学期の発生件数の増減率をしめしたものである。

 学級通信を毎日発行するクラスが10、週1回程度の発行するクラスが14、月1回程度の発行するクラスが16、学期に1回程度の不定期発行のクラスが17、全く発行のないクラスが24であった。

表1.担任の学級通信の発行頻度と問題行動の学期ごとの発生件数(相関係数0.96)

 問題行動の年間合計数は、全体平均27.8件で、毎日発行するクラスが21.1件、週1回程度の発行するクラスが20.2件、月1回程度の発行するクラスが27.6件、学期に1回程度の不定期発行のクラスが29.9件、全く発行のないクラスが33.8件と、発行頻度が多いほど少なくなる傾向が認められた。

 特に、1学期と3学期の発生件数の増減率では、毎日発行するクラスが-79.9%、週1回程度の発行するクラスが-81.7%と著しく減少したのに対し、全く発行のないクラスでは、+2.4%と微増していた。

学級通信の発行頻度と人間関係トラブル発生

 表2は、担任の学級通信の発行頻度と、いじめやけんかなどの人間関係のトラブルの学期ごとの発生件数,年間合計数,平均数,1年間の問題行動件数に対する割合(いじめ率),および1学期と3学期の発生件数の増減率を示したものである。

表2.担任の学級通信の発行頻度と人間関係トラブルの学期ごとの発生件数(相関係数0.92)

 人間関係のトラブルの年間合計数の平均件数、いじめ率は、学級通信の発行頻度との明らかな関係は認められないが、1学期と3学期の発生件数の増減率では、毎日発行するクラスが-94.8%、週1回程度の発行するクラスが-97.5%と著しく減少したのに対し、全く発行のないクラスでは、+21.2%と増加していた。

おわりに

 児童生徒の問題行動の態様・背景は、年々、多様化・複雑化しており、学校では、管理職・生徒指導主任のリーダーシップのもと、迅速・的確かつ組織的な対応が求められている。

 近年、教師の「働き方改革」の一環として、学級通信を出さないことを指示する管理職が多くなってきた。

 今回、5年間、3校に渡って調査したクラス(計81クラス)においても、24クラス、約3割のクラスは、1年間全く学級通信を発行していなかった。

 しかし、結局、学級通信を発行する手間をかけなかったことが、1年経てみると、問題行動、特に人間関係のトラブルが一向に減らず、むしろ増加することになってしまい、かえって教師の多忙化につながっていたという結果になっていると考えられた。

 学級通信の発行は、無用なトラブルを減らし、業務改善につながると断言したい。

参考文献

1)文部科学省(2016)いじめに正面から向き合う「考え、議論する道徳」への転換に向けて(文部科学大臣メッセージ)

2)庭山和貴(2020)中学校における教師の言語賞賛の増加が生徒指導上の問題発生率に及ぼす効果―学年規模のポジティブ行動支援による問題行動予防―:教育心理学研究/68 巻1 号

3)文部科学省(2010):生徒指導提要

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