皆さん、おはようございます。
バレーボールは、1895年、W.G.モルガンが、その4年前にネイ・スミスが考案したバスケットボールの反省から、老若男女が一緒に楽しめるスポーツとして考案されたものでした。
当時は「ミントネット」と呼ばれており、モルガンが最初に考えたルールは、次のようなものでした。
私は、選手として10年、指導者として28年、そして今も研究者として、長くバレーボールに関わってきました。
選手としては大した戦績を残すことはできませんでしたが、中学生の指導者としては、全国大会に出場させたり、県の選抜チームの監督も務めたりしてきました。また、バレーボール雑誌への執筆や体育関係の学会で数々の発表もしてきました。特に、バレーボール学習開始の適時期の研究から、戦後長きに渡って小学校の体育カリキュラムに入ってなかったバレーボールが授業に取り入れられる基礎資料を提供することができたのは、研究者としての誇りであります。
ただ、バレーボールの楽しさや素晴らしさは十分にわかっているつもりで、バレーボールの「教材価値」は十分に認めますが、バレーボールの「教育的価値」は低いと思っています。
バレーボールの教育的意義
ボレー操作
バレーボールは、空中でボールを落とさずに仲間でつなぎ合うという「ボレー操作」に大きな特徴があります。
たとえば、バスケットボールでは、一人のスーパースターがいれば、ワンマンドリブルをしてシュートすれば試合に勝てるのですが、バレーボールでは、そういうわけにはいきません。ボレーによる操作は,バスケットボールのようにボールを保持できないので、必然的に仲間との協力が要求され、社会的態度が育成されやすいと考えられます。
バレーボールは仲間の協力や連帯感を育てるのに素晴らしいスポーツなので、新入社員の歓迎スポーツ大会や自治会対抗の競技としてバレーボールが行われるのもそのためでしょう。
状況判断能力
バレーボールのボレー操作においては、味方の動きからボールの飛ぶ方向を瞬時に必然的に予測して準備しなければならず、状況判断能力を養う可能性が高いと考えられます。
バレーボールの相手コートはゴールとみなすことができ、バレーボールは、サッカーやバスケットボールと同様に、「シュート型」スポーツの特徴を持っています。そのシュートの機会はサッカーやバスケットボールよりも多く、技能の低いプレーヤーに自然にボールのいきやすい構造をもったゲームであるところにも特徴があります。
また、ネットを境にした「地理的攻防分離型」スポーツであるので、自チームでの連携プレーは相手ディフェンスの影響をほとんど受けずにチームで立てた作戦を遂行しやすいという特徴をもっています。
これらのことから、バレーボールは。「いかにパスをつないでシュート(攻撃)するか」ということが学習課題となるスポーツで、仲間と共に、状況判断能力を養うのに適切な教材であると考えられます。
頸反射に抗する身体操作
バレーボールは、高いネットをはさんでラリーを楽しむスポーツであるので、目の位置より上方のボールを空中で扱うことが多くあります。上方から落ちてくるボールを目より高い位置で手で扱う際,頭部を後屈する必要があるので頸反射が誘発され、これに抗した型で四肢を動かす動作が要求されます。ここにバレーボールの技術習得の難しさがあると考えられますが、このような反射を抑制する身体操作(頸反射に抗した型での身体操作能力=目より高い位置における「空間領域でのボール操作」)は、神経系の発達の著しい時期に身につけておく必要があると考えられます。
ルールを変更して楽しめる。
バレーボールのゲームは、人数、ネットの高さ、コートの大きさ、使用するボールなど、ルールを変えることで、老若男女、いろんな人が楽しむことができます。パラリンピックでは、障がい者のための「シッティングバレーボール」が採用されており、障がい者だけでなく、健常者も参加できる「ローリングバレーボール」や「フロアバレーボール」なども実施されています。
学校の体育授業でバレーボールを取り入れた際、「ルールを変えれば、皆が楽しめる」という経験をさせることを通じて、「『きまり』を工夫すれば、楽しい社会生活を送ることができる」ということを学ばせることができます。
バレーボーラーの性格形成に「異議」あり!
①甘えん坊で、自立できない性質
バレーボールのゲームは一人ではできません。いくらアタック能力の高い選手が一人いたとしても、レシーブをし、トスを上げる仲間がいないと、チームとしては機能しません。したがって、チームワークが大切で、仲間意識が育ちやすいのではないかと思われますが、その反面、自分のミスを誰かがカバーしてくれることということがマイナスに働くことがあるのではないでしょうか。
バレーボールを長くやってきた人には、甘えん坊で無責任、誰かに相談しないと自分では決定できないという性質を持つ人が多いように感じています。
②勝てば官軍。勝ち負けが全て。
バレーボールは引き分けのない過酷なスポーツです。サッカーやラグビーのように同点引き分けというゲームはありません。必ず、決着をつける、アメリカ合理主義から生まれたスポーツです。サッカーやラグビーでは、ゲームの終了を「ノーサイド」と言います。ゲームが終わったら、敵・味方関係なく、仲良くしましょうと握手をします。しかし、バレーボールは違います。ゲームの終了は「ゲームセット」で、勝った方が賞賛されるのです。
そのためか、バレーボーラーの中には、勝ち負けにこだわる人が多いように感じます。
しかし、人生においては、負けるが勝ちということもありますし、勝敗をつけない方がいいことも多々あるでしょう。
ところで、日本の将棋も、面と向かい合って白黒はっきりつけるという点では、ネットで向かい合って対戦するバレーボールと共通しています。バレーボールの指導者たちが口にすることと、将棋の名人が言うこととに共通することがたくさんあるのはそのためだと思います。
③敵味方を作る。
②であげたように、「勝てば官軍」という勝利至上主義が過ぎると、徹底的に敵を攻撃するという性格になってしまいます。大学までバレーボールをやってきたというような人には、すぐに敵味方を作るという人が多いように感じます。仲間だと思うと大切にしますが、敵だと思うと徹底的に嫌うのです。
したがって、長くバレーボールをしてきてチームワークの大切さを学んできたはずなのに、チームを分裂するキーパーソンになっていることが少なくありません。当然、社会人としては失格です。
④1ミリにこだわり、何でもきっちりしないと気がすまない。
バレーボールでは、ライン際に落ちたボールが、1ミリでもラインにかかっていたらボールインです。また、ブロックした手の爪の先に少しでもかすっていたら、ワンタッチボールです。9m四方のコートの中で、1ミリにこだわったゲームが展開されています。
そのためか、バレーボールを突き詰めた人には、「まあ、いいか!」と言えない人が多いように感じます。いつも、All or Notihng(全か無)で物事を考えると、人間関係においてはマイナスに働きます。なぜなら、本来、人間はデジタル的ではなく、アナログ的な生き物だからです。
⑤チーム内でいじめ発生
アメリカ合理主義から育ってきたバレーボールでは、下手な選手は排除されがちです。たとえば、6人制のバレーボールでは、一般に12人の選手がベンチに入りますが、選手交代の機会も少なく、控え選手の中にはほとんど(全く)ゲームに出場しない選手もいます。当然、レギュラー選手であるか控え選手であるかで、チーム内の争いが起こるでしょう。
特に小学生や中高生のチームで人間関係のゴタゴタが多いのは、バレーボールというスポーツの特性の一つなのです。子どもたちのチームばかりではありません。ママさんバレーのチームでも、全日本クラスのチームでも、人間関係のトラブルが絶えず、昨日まで仲良くしていると思っていたのに、今日になるとトスもあげないなどといったことがあると、元全日本監督のM氏が語っていました。
⑥腰痛・膝痛・指関節障害
どんなスポーツにもけがはつきものだと思いますが、長く、しかもハードにバレーボールをやってきた人は、腰痛や膝痛で苦しんでいる人が多くいるように感じます。また、突き指や指の骨折の経験があり、指関節に悩みを抱えている人も多いようです。
そのスポーツをしている時の外傷だけでなく、生涯を通じて、スポーツ障害について考慮しなければなりません。バレーボールは、スポーツ障害の危険性が高いスポーツだと思います。
⑦監督(コーチ)と選手の関係
最後に、監督(コーチ)と選手の関係について述べたいておきたいと思います。
試合になったら、観客席で見守るラグビーと違い、バレーボールは、練習も含め、監督(コーチ)と選手の距離が近く、主従関係になってしまうことが多いと思います。
そのため、監督(コーチ)の影響を強く受けるので、特に小学生や中高生では、人格形成においても多大な影響を受けることがあるでしょう。また、女子チームにおいては、男女問題に発展してしまうケースも、他のスポーツより多いように感じています。
追記:夫婦関係?
進言…これからバレーボールをしようとする人に…
バレーボールは数あるスポーツの中でも、老若男女、皆でワイワイと楽しめることのできる素晴らしいスポーツです。考案者のモルガンも、そのことを一番に願っていたと思います。
しかし、人間形成において、勝利至上主義のバレーボールばかりをやってきた人は、大きなマイナス面があることを意識する必要があると思います。
これから、バレーボールをしようと思う人に、私はあえて言いたいと思います。
「覚悟して、バレーボールをしましょう!」
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