忙中有閑
今日から11月になりました。11月は、厚生労働省が「ゆとりの創造月間」に指定しています。これは1985年から始まったことですから、もう40年近くになるイベントです。
そこで今回は、「忙中有閑」(ぼうちゅうかんあり・ぼうちゅうゆうかん)というお話です。
この言葉は、東洋思想家で、昭和の時代の「宰相の知恵袋」と言われた安岡 正篤氏が残した言葉「六中観」の1つで、忙しい中でも心の余裕を見つけることです。
ちなみに、「六中観」とは、
「忙中有閑」:忙しい中に真の閑あり。(忙しい中でも心の余裕を見つける。)
「苦中有楽」:苦労の中に楽しみ有り。(苦しい時でも楽しみを見つける。)
「死中有活」:死んだつもりで頑張る。(身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある。)
「壷中有天」:自らの生活に別天地有り。(どんな境遇にあっても、自分だけの世界を作る。)
「意中有人」:理想の人が心中に有り。(心から尊敬する人を持つ。)
「腹中有書」:確かな哲学が腹中に有り。(身心を養って経綸に役立つ学問をする。
人間、ゆとりや余裕がないと、仕事ではストレスが溜まって病気になったり、人間関係がギスギスしたり、その結果、思いやりの心や新しい発想が生まれにくいと思います。
ノートルダム清心学園理事長で、マザー・テレサが来日した時の通訳をされた渡辺 和子さんは、「心の中に他人の気持ちを受け入れるゆとりを持ちましょう。愛はそこから生まれるのです」と述べています。
しかし、毎日することは山ほどありますから、閑が出来たらやろうと思っても、なかなか閑にはなれません。
余裕を持つには・・・
中国春秋時代の武将で、兵法書で有名な孫子が、「善く戦う者は勝ち易きに勝つ者なり」という言葉を残しています。王様や力のある者ほど、余裕を持って勝つものだということです。もちろん、そのために、日頃の鍛練や努力が必要なのは言うまでもありません。
野球の世界では、「下手な選手ほど、ファインプレーをする」と言われます。下手な選手はぎりぎりのところでプレーするからファインプレーに見えるのですが、上手な選手は余裕を持ってプレーするので、傍目にはファインプレーに見えないのです。
かつての名横綱、双葉山は不滅の69連勝という大記録を残し、12回の優勝を果たした力士です。双葉山と相撲を取った力士の多くが、「いけると思って一気に寄って出るが、終わってみると土俵の上にたたきつけられている」というようなことを語っています。したがって、双葉山は、「そんなに強い力士ではなく、ただ、その相手よりも、常に一枚だけ強かった」と評されています。双葉山は、常に余裕を持って戦っていたと言えるでしょう。
仕事も勉強も同じことです。あっぷあっぷしていい成績が残せるはずはありません。余裕をもって出来るように、早くから準備をスタートする習慣をつけましょう。
ゲーミフィケーション
さて、今回は、今は看護師をしている、私の次男の中学時代の話をします。
彼は、勉強が少し苦手で、テストであまりにひどい点数を取ってくるものですから、仕方なく、何回か、(特に英語を)教えようとしました。ところが、やる気がないものですから、ほとんど記憶として定着せず、親子喧嘩に至るのが常でした。
テスト直前のある日、部屋を覗くと、案の定、勉強もせず、テレビゲームをしていました。
私が「勉強は嫌いか?」と聞くと、
「嫌い。」と言います。
「ゲームは?」と聞くと、
「大好き。」と言うので、
「じゃ、どうして?」と聞くと、
「勉強はすぐ嫌になるけど、ゲームだったら一日中でも熱中出来るから……」と答えます。
「だから、それがなぜか考えてみなさい。学校の勉強なんて、ゲームみたいなもんだぞ!」
と言うと、なぜか腑に落ちたようで、翌日、「勉強をゲーム化したらよさそうだ」と言ってきました。
それから、しばらくほっておいたのですが、成績がめきめきと伸びてきました。
「一体、どうしたんだ?」と聞くと、
「達成目標を決めたこと、そのためのスモールステップを作ったこと、友達と競うようにしたこと、目標を達成した時に報酬をもらえるようにしたことで、勉強もゲームも同じやり方で征服出来ると悟った」と言うのです。
少しばかり感心しました。ゲームの要素やデザインを社会活動やサービス開発に組み込むことを「ゲーミフィケーション」というそうです。
勉強をゲーム化するために必要な要素は、次の4つです。
①適切な目標(クエスト)の設定
②友達と競ったり助け合ったりするコミュニケーション
③簡単すぎず、難しすぎない丁度良い難易度
④目標を達成した時にもらえるご褒美
要するに、ゲームの仕組みと同じように、「楽しさ」「興味」「目的意識」などを与えることによって熱中度を高め、勉強の効率を上げるのがゲーミフィケーションです。
仕事でも勉強でも楽しくやれば効率がよくなり、成果も挙がります。嫌々机に向かうより、ゲームをするようにワクワクしながら楽しく知識や技能を向上出来れば、しめたものです。
嫌な「勉強」をゲームのように楽しんでやるということを覚えると、将来、「仕事」においても、ゲームのように熱中して楽しんで出来るかもしれません。
勉強や仕事をゲーム化する。
実は、私は、これまで職場の先生方にも、「ゆとりある公私混同」「遊ぶように傍楽(はたらく)」という話をしてきました。
ゲームデザイナーのジェーン・マクゴナガルによれば、現在、若者はオンラインゲームに週30時間を使っているそうです。今日、ゲーム文化が強い国の平均的な若者は、21歳までにオンラインゲームで10,080時間を費やしています。アメリカの子供にとって、この10,080時間というのは 小学5年から高校卒業まで 無欠席の場合に学校で過ごす時間と同じだそうです。
もはや、誰も「ゲーム」という存在を無視はできません。ゲームは子供のやるものでも、暇人のやるものでもなく、「人を熱中させる装置」として真面目な研究が必要な分野なのです。
一方で「学校の勉強」は極めて評判が悪く、多くの子どもにとって、「つまらない」「やる気がでない」「意味がない」という状況です。ゲーム用語でいえば、まさに「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」「クソゲー(クソみたいなゲーム)」というわけです。
そのくせ「勉強で良い成績をとること」は、現実的に多くの人にとってそれなりに重要なことであるので、余計、始末に終えません。勉強で挫折して世の中を恨むなんては、世の中にとっても本人にとっても不幸なことです。
だから、「勉強」をどうしたらゲームのようにできるのか。ひいては「仕事」においても、どうしたらゲームのように熱中できるのか、というのを考えることは、私たちにとって極めて重要な課題であるといえます。
「勉強」をゲーム化する際の10のルール
人が勉強を「面白い」と感じる主要因は「コンテンツ」、つまり「良い教材を使って学ぶ」ではなく、「勉強のやりかた」および、「誰と勉強するか」です。勉強に熱中するために採用を検討したいルールは以下の通りです。
1.勉強の目標は自ら決める。
「志望校に合格」「模試で偏差値65」「友達に勝ちたい」など、何でも良い。「将来就きたい職業がある」でも構わない。結局のところ「自分が決めた目標」でなければ面白さはありません。人間がなにか行動を起こすときには「理由」が必要なのです。
「良い先生」が雑談がうまいのは偶然ではありません。良い先生は雑談を通じて様々な生徒に目標の選択肢を提示し、「行動」を促しているのです。
2.小テストを頻繁に行う。
大きな目標は大事ですが、それは大義名分に過ぎません。これだけではモチベーションの維持にはつながらないのです。モチベーションのために重要なのは、「憶えたことを試せる機会」です。ゲームでも新しいスキルを獲得したら、強い武器を手に入れたら試したくなるのと同じです。このために、少なくとも週に3回程度のミニテストが効果的です。
3.友達と競う。
純粋に「同条件で競う」ことは、ゲームと同じくモチベーションの維持につながります。小テストの結果は比べられるといいでしょう。実際、ランキングは人を引きつけます。なお、個人レベルで競うのではなく、ユニット(グループ、チーム)を作り、ユニットレベルで競う仕掛けを作れば、ユニットの中で助け合いやノウハウの共有も期待できるでしょう。
なお、ミニテストのランキングは「テストの点数」だけではなく、「受けた回数」や、「かかった時間」などでも表示するとよいでしょう。様々な切り口を用意すれば、それだけ多様な競争が発生するため、競うのが面白くなるのです。
4.実力を記録、視覚化し、本人へフィードバックする。
自分のレベルを認識することで、「更にレベルを上げる」ことへの欲望がわきます。問題を説くのにかかった時間を記録することや、小テストなどの出来はできるだけ視覚化し、記録によって自らにフィードバックが行えるようにしましょう。
小学校などで採用されている「スタンプ」や「シール」を集めさせるのもよいでしょう。100点は金のシール、90点以上は赤のシール、80点以上は黄色のシールなど、色分けしてコレクションさせるのもよいでしょう。
「自分がどこまでできるようになったのか」という情報を与えずに、技能を向上させることは出来ません。
5.イベントを作る。
「三角関数王者決定戦」「計算マラソン」などの特殊イベントを設定し、飽きないようにします。また、王者には「称号」を付与するなどのリワードがあってもよいでしょう。
つまらない練習であっても、イベント化することで面白くなることは数多くあります。また、リワードはハードルの低いものから高いものまで段階を追って用意します。「コンプリート欲」が原動力になるのです。
6.射幸性をうまく活用する。
「小テストを10日間連続で行ったら、くじを引いて景品が提供される」などのしくみを提供します。リワードはバーチャルなもの、例えば「ログイン画面の色が変えられる」「アバターの服装を変えることができる」などでも構いません。
「確実に提供されるもの」よりも、多少運の要素が絡む物のほうが、希少性が高く、「欲しい」と思わせる力が強くなります。「ガチャ」で、レアアイテムやレアキャラが用意されているのは、射幸性を喚起する良い手段だからです。
7.つまづいた時に、直ぐに質問ができるようにする。
ある問題がわからなくてつまづいた時、自分だけで考えることは時間のムダであるし、勉強を嫌いになるきっかけになってしまいます。「疑問はアツいうちにうて」という言葉を実践しましょう。
ゲームにおいて「攻略サイト」が良くできていれば、そのゲームから離脱する人を防げるのと同じことです。
8.授業はできるだけ受けなくて済むようにする。
授業はゲームで言う「チュートリアル」であるから、授業はできるだけ受けずに済むようにします。本来であればごくカンタンなテスト(いわゆる実戦)から勉強を始め、必要に応じて授業を受けたい人が受けるようにすれば、退屈することはありません。
テキストがテストを中心に構成されており、授業を受けずとも公式などを憶えられるようになっていることが極めて重要です。
9.「集中できる場所」は人によって異なるので、場所を固定せずに勉強できるようにする。
勉強を家でやりたい人もいれば、図書館や学校、カフェが良い人もいます。場所にとらわれず勉強できるようにするため、テストやテキストはwebなどをうまく活用します。
また、勉強できる場所に関する情報を提供するのも良いでしょう。
10.スキマ時間を活用して勉強できるようなツールを提供する。
電車にのっている時間、あるいは昼休みなどのちょっとした空き時間など、10分15分位の空き時間は頻繁にあります。その時に「ちょっとした勉強」ができるようなツールを提供することです。
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