「走れ、走るんだ! しんどい自分に負けるな。」
皆さん、おはようございます。
上の文「走れ、走るんだ!・・・」は、兵庫県のある教護院施設の正門前に大きく掲示されていた言葉です。
この施設では、思春期にいる子どもたちの教育の一環として、「持久走」授業を積極的に取り入れています。
実際にその授業を見学してきました。
東都大学野球部が大切にしている言葉に、「走姿顕心」(そうしけんしん)というのがありますが、走る姿を見れば、その時の心が顕れます。施設の生徒たちは皆、一生懸命走っていました。特に私がかかわってきた生徒Kさんは、とても真剣な目つきで走っていました。私は安心して帰ってきました。
生徒指導面でしんどい学校の生徒たちは、持久走を大変嫌がります。途中でエスケープしたり、なにかと理由をつけては休もうとしたりします。
次の「持久走~べからず集」に該当する生徒は要注意です。
1.少しの理由で休む,見学する。
(たかだか十数分の運動が頑張れない。)
2.走る前から言い訳をする。
(「今日は(…)だから走れない」などと言う。)
3.周りの意欲をそぐ発言をする。
(人の足を引っ張る。)
4.手抜きをして走る。
(何事にも全力を出さないことが習慣になっている。)
5.友達と一緒のペースで走る。
(独立心・自立心が育っていない。)
6.走っている時のペースが大きく変わる。
(急に速く走ったり、途中で歩く。)
7.走った結果を人のせいにする。
持久走を走る力と学力は比例する!?
下のグラフは、ある年の大阪府の公立高校の持久走と学力の学校平均を散布図にしたものです。
縦軸が学力、横軸に持久力得点をとると、もののみごとに相関がでています。(p<0.05)
私は以前、県中学校体育研究部の理事長を長くやっていたので、公立中学校・高校のスポーツテストの学校別平均値を知っていましたが、これは絶対㊙でした。
なぜなら、特に持久走の平均値は、もののみごとに学校の学力差を示す資料となるからでした。市内の中学校においても、持久走の記録のいい学校と全国学力調査の上位校は殆ど全く同じでした。
ところで、兵庫県にある県立長田高校は、体育の授業で毎回、持久走を取り入れていることで有名です。3年間、水泳以外のどんな授業でも、最初に男子3000メートル、女子2000メートルの持久走を行っています。また、冬場や雨天時の体育授業では、男子10キロメートル、女子8キロメートルの持久走を行います。
その結果、高校3年生の持久走の平均値をみると、男子1500m走タイムは仙台育英高校に次いで全国2位、女子1000m走タイムは全国8位という結果だったこともありました。
長田高校は、2016年、第88回選抜高等学校野球大会に出場するなど、部活動も大変盛んですが、進学の方でも、公立高校で県下1位の大学進学率を誇っています。
生徒の学力を高めるのに、持久走を頑張らせる指導をすると効果的だと思います。
人生マラソンを走っていくと・・・
「人生はマラソン」だといわれます。
日本仏教アソシエーションの長南瑞生氏が、仏教Web通信講座の『生きる意味七つの間違い』の中で、「走っていくと、やがて見えてくるのは崖っぷち」と述べています。
しかし、「走姿顕心」という言葉があるように、走る姿を見れば、その人の心の内がわかります。「走姿顕心」はスポーツ選手への戒めの言葉でもあります。
ホノルルマラソン
毎年12月の第2日曜日に開催されるホノルルマラソンは、ニューヨークシティーマラソン、ボストンマラソン、シカゴマラソンと並ぶ、全米4大マラソン大会の一つで、全世界を通じても参加人数で、6番目の規模の大会です。
このホノルルマラソンには時間制限が設けられておらず、満7歳以上の健康な人なら誰でも参加できることから、「世界一の市民マラソン大会」「ジョガーの祭典」と言われています。
しかし、マラソンとしては、高温下で風の強い中で行われるという気象条件に加え、コースのアップダウンが厳しいため、「世界記録が決して出ないコース」とも言われています。2012年に行われた第40回大会では、参加者31,106名、うち16,296名が日本人でした。2022年は第50回の記念大会でした。
さて、教え子のH子は、中学時代、女子バレーボール部のキャプテンを務めていましたが、ぽっちゃり体型であったこともあって、持久走がとても苦手でした。特に部活動で体育館の使えない日の練習に持久走をすることも多かったのですが、イヤイヤ走って(歩いて?)いました。
しかし、そんなH子が私の体育の授業で持久走を経験してから、走る楽しさや喜びを知り、走る魅力に取りつかれるようになったのです。バレーボール部を引退してからは、自主的に家でも走るようになり、なんと、高校卒業後から25年連続でこのホノルルマラソンに参加しています。
「スポーツ・ハイ」を体験する。
私の体育の授業では、タイムを測定したり、競争もさせたりもしますが、主に「スポーツ・ハイ」を体験させることに主眼においていました。
走り出して数分たつと、最も苦しい場面(デッドポイント)に入ります。脇腹が痛くなったりすることもあります。これを「ファーストスティッチ」といいます。
ところが、その時間を過ぎると、呼吸が一定になり、急に楽になる場面に出くわします。これを「セカンドウィンド」とよんでいます。個人差がありますが、12,3分~20分くらいで、「セカンドウィンド」になります。この状態では、新しい発想が生まれたり、ひらめいたりすることもよくあります。
そして、この状態で走り終わると、やり終えたという満足感や達成感を感じ、気分がよくなります。これが「スポーツ・ハイ」です。適量のお酒を飲んだ状態と同じで、ストレス解消に大変役立ちます。
将来、いろんなストレスの解消法があるけれども、酒を飲んでストレス解消するよりも、走って汗をかいてストレスを解消するような人になってほしいと思って、持久走の授業をしていました。
人は持久走が得意
本来、長距離を走るのに適した動物は、ホモ・サピエンス、つまり、私たち人間なのです。
ヒトは、二足歩行ができたことによって、大殿筋とアキレス腱を発達させ、走ることができるようになりました。また、走る際に頭部を安定させるために存在する項靱帯がよく発達しています。さらに、体内で発生した熱エネルギーを効率よく排出できる優れた冷却システムである発汗による熱の発散という能力をもち、長時間、発熱や呼吸をコントロールできることから、「持久狩猟」が可能だったのです。
人間はほとんどの動物と比べて速く走ることはできません。しかし、獲物を追い立てて走らせ、熱によるオーバーヒートを起こして倒れるまで執拗に追いかけまわして狩る方法で生きながらえてきたのです。
参考までに、世界最速の人といえば、ジャマイカのウサイン・ボルト選手、100mの世界最高記録は、今9秒58です。これを時速に直してみると、37.5kmにしかなりません。
いろんな動物と比較してみましょう。
ボルト選手100m 9.58秒 時速 37.5km 人類最速
ゾウ 100m 9.2秒 時速 39km 現生最大の陸上哺乳類
ワニ 100m 9.0秒 時速 40km 淡水域生態ピラミッドの頂点
ラクダ 100m 9.0秒 時速 40km 乾燥地帯に適した家畜
イノシシ 100m 8.0秒 時速 45km 鼻が敏感で神経質
カバ 100m 8.0秒 時速 45km ヒトを最も殺している獰猛
サイ 100m 7.8秒 時速 46km 鋭い臭覚と聴覚と角をもつ
ネコ 100m 7.5秒 時速 48km 一日の大半を寝て過ごす動物
ハイエナ 100m 7.2秒 時速 50km 死肉をあさる草原の掃除屋
水牛 100m 7.2秒 時速 50km 体重1トンを超える草食動物
キリン 100m 7.1秒 時速 51km 長い首で高い木の実をとる
オオカミ 100m 6.5秒 時速 55km 日本ではシカ駆除の益獣?
クマ 100m 6.4秒 時速 56km はちみつ好き?
ライオン 100m 6.2秒 時速 58km 百獣の王?
ウサギ 100m 5.6秒 時速 64km 月に住む?
カンガルー100m 5.5秒 時速 65km ボクシング選手
ダチョウ 100m 5.2秒 時速 69km 物真似もできる走る鳥
犬 100m 5.1秒 時速 70km ドッグレースの犬の場合
馬 100m 5.0秒 時速 72km サラブレッドの場合
ガゼル 100m 4.0秒 時速 90km チーターの餌?
チーター 100m 3.2秒 時速112km 最速!
もっとも、これらの動物のスピードは一瞬の最高速です。ウサイン・ボルト選手は200m走の後半のトップスピードでは、ゾウと同じ100m、9.2秒,時速39kmで走っています。それにしても、人間のスピードはいかに遅いかがわかりますね。
しかし、長距離を走るとそうではないのです。動物界最速のチーターは、せいぜい500mしか、そのスピードを維持できないといわれていますし、馬も時速70㎞を維持できるのは約10分間と言われています。馬の場合、その後も走り続けるとすれば20㎞以下に減速しなければ命を落とす危険さえあるそうです。ただ、これらの動物の中で、ハイエナだけは、時速50kmのスピードで2時間も走ることができるそうです。
そして、最も長距離を走るのに適した動物はホモ・サピエンス。ホモ・サピエンスは「知恵のあるヒト」という意味ですが、私たち人間なのです。40キロ以上の長距離では、ほとんどの走る動物よりも長く速く走ることができるのです。その意味では「人間は動物界最速のマラソンランナー」といえるでしょう。
持久走を好きになるコツ
最後に、持久走を好きにするコツを6つあげておきましょう。
(これから自分の生活の中にジョギングを取り入れようと思う方も同じ手順です。)
①走る前の心身の準備に時間をかける。走る目的を明確にし、意識づけをする。
⇒②「呼吸法」を教える。
⇒③「走るペース」を教える。
⇒④「フォーム」を教える。
⇒⑤結果をフィードバックする。
⑥日常の健康管理を意識する(体重コントロール,睡眠,食事,etc.)。
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