-「英語を制する者は受験を制す」の実践例-
あらまし
中学校の英語学習においては、国際化の進展に対応し,国際社会の中で生きるために必要な資質を養う観点から、特に「実践的コミュニケーション能力」を育成することが重視されている。
しかし、本校55回生では、1年時、オーラルスピーキングに力を入れ、書くことや反復練習をなおざりにした極端な英語授業がなされた結果、学年末考査の英語の平均点が「35.0点」で、英語嫌いが過半数を超える危機的な状態に陥ってしまった。
「英語を制する者は受験を制す」という言葉があるように、進路の成功に向けて英語の学力を高めることは、非常に重要な要素であると考えられる。
そこで、2年後の高校受験に向け、英語学習を中核にし、学年をあげて進路指導を進めることにした。
まず、「書く」ことを中心においた授業改善を行い、週3時間の英語授業と週1時間の選択英語授業で、予習の習慣化と反復練習を重視した。また、授業以外の場で、バズ学習形式での教え合い学習,英単語級別テスト,雨天時の英単語課題プリント(雨降り英語)などを実施した。さらに、スキー実習での外国人インストラクターとの交流や国際理解教育を行うことによって、英語学習に対する意欲・関心を高めるようにした。
これらの結果、生徒たちは、「やればできる」という自信と学習に対する意欲を徐々に高めていき、3年生に進級してからは、長期休業中の補充学習や早朝自主学習会にも積極的に参加するようになった。
また、英語に対して「とても好き」,「まあ好き」と答える生徒が過半数を超えるようになり、これらの取り組みに付随して、生徒同士の共感度が高まり、お互いを理解し合あう温かい人間関係を構築できるようになった。
さらに、英語のテストの平均点も、学年が上がるに従って向上する傾向がみられた。英語検定試験にも、多くの生徒が積極的に受験し、合格した。
そして、高校入試においては、公立高校推薦入試・特色選抜入試で高い合格率をあげたのをはじめ、私立高校入試や公立一般入試では、ここ数年の本校の卒業生の中で、最も多い合格者を出すことになった。
本論文は、本校55回生の進路の結果に好影響を及ぼしたと考えられる,2年間の英語学習への学年としての取り組みをまとめたものである。
1.はじめに
平均点「35.0点」,これは平成17年2月に実施された、本校55回生の1年時、学年末考査の英語の平均点である。5クラスあるうち、平均点が32点にも満たないクラスもあった。
一般的に、英語のテストの平均点は、中学校入学時は高い。しかし、本校の場合、平成14年、52回生の1年3学期に実施した学年末考査の英語の平均点は78.5点であったし、同じく平成14年度の2年生の英語の定期テストの平均値も、年間を通して70点代をキープしていた。これは、平成11年、本校12代校長として就任したU校長の提案で実施してきた「25分授業」注1)や「T-T授業」注2),さらには「少人数制授業」注3)などの成果によるものであった。また、この頃、英語検定試験にも積極的にチャレンジするよう呼びかけをし、平成15年2学期末の時点で、当時の3年生は、3級取得者41名,4級取得者43名,5級取得者22名と、半数近い生徒たちが英語検定試験に合格していた。
ところが、それから2年余しかたっていないのに、55回生の場合、入学後の1学期の英語の平均点はさほど悪くなかったが、2学期に入ってからの平均点が急激に下がってきていた。2学期末に行った生活・学習アンケートの結果をみると、英語を「とても好き」と答えた生徒が12.2%,「まあ好き」と答えた生徒が25.9%しかおらず、「あまり好きでない」(42.6%),「全く好きでない」(16.0%)と半数以上の生徒たちが英語嫌いになっている状況であった。英語の授業では、オーラルスピーキングに力を入れており、日常生活の中で、生徒たちは“Excuse me.”とか“Pardon?”という言葉を使えるようになってはいたが、単語をきちんと書けない生徒が多いように感じられた。また、2学期期末の英語のテスト問題が、英語検定試験に倣って、全て記号で解答させる問題であったので、担当英語教諭に、英単語や英文を書かせる問題を作成するように指導したところ、平均点「35.0点」となった学年末考査は、全て記述式の問題で出題されていた。平均点が「35.0点」というのは、殆どの生徒たちが理解しているとはいえない状態であり、生徒たちの学習意欲にも多大な悪影響を与えるとして、学年をあげて英語力向上に取り組むことにした。
英語という教科は、教科の特性上、生徒同士でトーキングをするなど、活動場面が多い。実技教科的な要素をもつことから、教師の指導力が非常に必要とされる。英語は中学に入学してから学び始めた教科であり、生徒たちにとって新鮮な出会いがあるはずである。しかし、活動を要する英語の授業が「よくわからない」,「おもしろくない」となると、生徒たちの学習そのものに対する意欲や関心に大きく影響すると考えられる。筆者は、英語の授業の成否で、学校が荒れることも十分にあり得ると考えている。
表1.平成10~14年度の生徒指導上の問題行動発生件数と長欠生徒数
生徒数 問題件数 対教師暴力反抗 長欠生徒 |
平成10年度 799人 768件 21件 --人 平成11年度 754 656 19件 51 平成12年度 681 368 14件 50 平成13年度 618 278 0件 26 平成14年度 577 324 1件 24 |
「英語を制する者は受験を制す。」という言葉があるように、英語は、受験生にとっても、重要な教科といわれている。また、英語は、学習に取り組む質と量が多ければ、それに伴って成果の出やすい教科で
もあると考えられる。本論文では、55回生の1年時の危機的な状態を改善し、2年後の受験に向けて、英 語学習を中核にして進路指導を進めた実践例をまとめてみた。
2.55回生の英語学習への取り組み
(1)「書く」ことを中心においた授業改善
①予習を習慣化した正課の英語授業での取り組み
2年生から英語を担当したH常勤講師は、授業前にノートに本文を写させ、授業ではどんどんノートに書き込みをさせるという形式で授業を展開した。ノートの左半分には英文、右半分にはその和訳を書くようにさせた。1年時の英語の授業では、「書く」という習慣がなかったので、当初は戸惑いもあり、時間もかかったが、次第に生徒たちはこの授業形式に慣れてきた。
また、授業のはじめは、チャイム開始前から英語係が教室の前に出て予習ノートの確認し、教科書を読むようにさせた。1年時の英語の授業は常に騒がしい状態であったが、授業規律が整い、予習をする習慣が身についたことで、授業が「わかる」ようになり、授業中の生徒たちの目の輝きが日に日に増してきたように感じられた。
②英単語の反復練習を中心にした選択英語授業での取り組み
2年時からは、週3回の正課の英語授業の他に、週1回の選択英語授業をN教諭が担当した。
まず、英語は世界で最も易しい言葉であることを理解させ、「やればできる」ことを説いた。しかし、それには英単語を覚える努力をする必要があり、五感をフルに使い、繰り返し、繰り返し、単語を覚えなければならない。「学問に王道はなし。」と言われるように、36回頭に叩き込めば、記憶の定着がするといわれているので、「何でも36回」という言葉を学年のキャッチフレーズにした。
また、英単語を覚えるコツとして、武藤たけ雄氏の提案した「英単語連想記憶術」を紹介し、毎週、30の英単語を語呂合わせで覚えさせ、そのうち20単語を選んで小テストを実施した。その際、以下のことに留意した。
・単語は、できるだけ、文章の中で覚えるように、文例を暗記させた。
・正しく発音し、「発音記号」と「アクセント」も覚えさせた。
・「派生語」「反意語」「同意語」「関連語」「慣用句」も覚えさせた。
小テストは、20点満点中、当初は16点以上を合格としていたが、3年生になった頃には、20点満点で合格にできるまで、生徒たちの取り組みが高まった。また、不合格の生徒については、間違った単語や例文を36回書く作業をさせた。この授業を通して、多くの生徒が反復練習をすることの大切さや36回という目標をもって「やればできる」という自信をつかんだようであった。
(2)「教え愛」学習
月に1~2回の学校裁量の時間を使って、教え合い学習を実施した。基本的に三人一組でグループを作らせ、一人が先生役をし、あとの二人に教えるというかたちの「バズ学習」を行った。
学年テーマが「よく学び、共に生きよう-その2.愛する-」であったので、この学習を「教え愛」学習と名付け、3年生の1学期終了時まで実施した。「バズ学習」は、その様子が蜂の巣をたたいた際の蜂のブンブン騒ぐのに似ているため、この名がつけられたと言われているように、生徒たちの話し声が大きくなる可能性がある。そこで、一教室に4~5グループ,すなわち12~15名までを限度とし、できるだけ広い空間を与えて実施した(写真1)。
写真1.「教え愛」学習
教えることは理解を深めることであり、先生役の生徒たちにとっても非常に効果的であった。また、教えてもらう側の生徒にとっても、気軽に質問ができ、この時間を楽しみにする生徒も多かった。この「教え愛」学習を通して、生徒たちの相互理解が深まり、男女を問わず、仲のいい学年に成長したように思う。3年生の受験を控えた時期になり、「受験は個人競技ではなく、集団競技だ」という話をした時、生徒たちの共感と理解を得たのも、この「教え愛」学習がベースになっていたと感じている。
(3)英単語級別テストの取り組み
英単語の習熟をはかるため、1~100級までの級別単語テストを取り入れた。(図1)
これは、10問の英単熟語のスペルとアクセントを書き、採点者の前で正確に読めば合格とし、次の級に進めるというシステムで、早朝や休み時間、放課後など、随時実施した。問題カードは廊下に置き、いつでも取れるようにした。合格すれば、廊下に掲示した氏名欄に合格印を押すことにした。採点者は基本的には英語教師であるが、各クラスに英語の得意な生徒6名を選び、その6名には合格印を渡して、サブマーカー(補助採点者)とした。サブマーカーは、自分が合格した級以下の採点ならば、誰の者でも採点できることとした。
休み時間になると、「採点してください」と言って、問題カードを持って列を作る場面もあった。また、サブマーカー同士も競って合格印をもらうようになり、一般の生徒たちも気心のしれたサブマーカーを探しては合格印をもらうようになった。100級まで到達したのは、数人しかいなかったが、英単語を正確に書き、発音することの習慣が身についたように感じ取られた。
(4)雨天課題
「晴耕雨読」という言葉があるが、雨の日、生徒たちは教室で過ごさざるを得ないが、することなく、特に昼休みなど、時間をもてあましているように感じられた。また、こういう日に限って、教室で騒ぎ、ガラスが割れるという事件も発生したので、学年協議会で雨の日の過ごし方を検討させたところ、自主学習プリントをしたいとの意見が出たので、図2.のような英単熟語を書くプリントを作成した。30問の英単熟語を「見て書く」「読んで書く」「じっくり書く」「素早く書く」「覚えて書く」「しつこく書く」と6回書かせる内容とし、雨天時の朝に配布し、放課後までに提出するようにさせた。
それまで、休み時間、教室で教科書を開いたり、ノートを書いていると、級友たちから冷やかされたりする場面もあったが、この雨天課題を取り入れてから、天候に関わりなく、休み時間に勉強している姿が当然と思われるような雰囲気ができたことが、最も大きな収穫であった。
(5)スキー実習での外国人インストラクターとの交流
平成18年2月22日(水)~2月24日(金)、55回生は、2年時にハチ高原スキー場での2泊3日のスキー実習を実施した。その際、スキーインストラクターは全てニュージーランド人に依頼し、国際交流を兼ねた実習を行った。スキー実習中はもちろん、夜の宿舎でもインストラクターとの交流会を行い、できる限り、英語を使うように指導した。(写真2)
写真2.ニュージーランドインストラクターとの交流会の様子(2年時スキー実習)
スキー実習に行く直前に、生徒たちにアンケートをとったところ、英語を使わなければならないことに対して不安感を持っていた生徒もいたが、ニュージーランド人特有のフレンドリーな雰囲気にすぐに打ち解け、終了後のアンケートでは、「とても楽しかった」が83.0%,「まあ楽しかった」が17.0%を占め、「あまり楽しくなかった」,「全く楽しくなかった」と答えた生徒は全くいなかった。生徒たちがスキーだけでなく、英語に対して嫌悪感を一掃し、興味を持つようになった大きなきっかけになった学年行事となった。
(6)国際理解教育
55回生の中には、タイ生まれタイ育ちの生徒や中国籍の生徒,アメリカでの生活経験のある生徒などが在籍していた。また、教師の中にも、韓国籍の教師や研修や旅行で海外経験のある教師が複数いたことから、年に1~2回、「世界に生きる」と題して、国際理解教育を行った。(写真3)
写真3.「世界に生きる」国際理解教育
現行の学習指導要領において外国語科は選択教科から必須教科となったが、国際化の進展に対応し、国際社会の中で生きるために必要な資質を養う観点から、特に「実践的コミュニケーション能力」を育成することを重視する方向にあり,「実際のコミュニケーションを目的として外国語を運用することができる能力」を最重視している。本校の生徒でタイ語や中国語を話せる生徒は、英語に対する関心も大変高いことを評価し、今後、国際人に育つためにも、英語学習に力を入れなければならないことを説いた。
1年時、主張大会を行った際、「僕は日本人だから、英語なんて勉強しなくてもいいと思う。」と書いていた生徒が、3年生になって英語検定試験に何度もチャレンジするようになるなど、一生懸命、英語を学習するようになったのには、この国際理解教育の影響もあっただろうと考えている。
(7)補充学習
本校では、長期休業中と試験1週間前に、学年ごとに補充学習を行っている。テスト結果の芳しくなかった生徒と希望する生徒を対象に、20~30名ほどの生徒をピックアップしているが、55回生では、2年時から特に英語の補充学習に力を入れることにした。
英語の補充学習は、できるだけプリント学習にせず、授業形式で行った。1年生での理解が不十分な生徒が多かったので、成績下位の生徒にとって効果が高かったように思う。
(8)早朝自主学習会
3年生の2学期に入ってから、早朝7:30~8:00まで教室を開放し、自主学習会を行った。一応、5教科のプリントを用意したが、基本的には自分で課題を持ってくるようにさせた。毎朝、30名の生徒たちが、卒業時まで積極的に参加していた。また、ホームルーム教室も朝7:30には開放するようにしたが、各クラス数名の生徒たちが、早朝から黙って自主学習に取り組んでいた。
特筆すべきことは、これらの生徒たちの多くは、自主学習で英語に取り組んでいたことである。その理由を聞くと、英語は勉強した分だけ、テストの結果に即効的に反映されやすいということであった。
55回生では、2年時から様々な形で英語学習に力を入れてきたが、当初は無理矢理やらされていると感じている生徒も多かったように思うが、学年が進むにつれて、英語学習に自主的に取り組むようになってきた。
3.成果
(1)英語のテスト結果
図3は、55回生の3年間の英語の主な定期考査,実力テストの平均点および標準偏差を示したものである。前述の通り、1年時3学期期末考査の平均点は35.0(±34.5)点であったが、2年時後半には、2学期中間考査48.8(±32.1)点,2学期期末考査46.8(±33.3)点,3学期期末考査48.9(±28.8)点など、50点に近い平均点をとれるようになってきた。さらに、3年生では、2学期中間考査50.9(±26.0)点,2学期期末考査50.4(±27.2)点,3学期期末考査56.4(±28.0)点など、50点を超えるようになり、実力テストにおいては、1学期実力59.8(±28.1)点,3学期実力60.3(±26.5)点などの高得点を取れるようになった。
平均点だけで生徒たちの学力を評価するのは危険であるが、1年時3学期末から学年が上がるにしたがって、生徒たちの英語力は徐々に向上していったことが推察された。
(2)英検合格者
英語検定試験は、他者との比較ではなく、絶対評価で合否が決定されることから、努力の報いられる試験である。また、英語検定に合格することで、英語に対する自信も生まれ、学習意欲の向上に効果的であると考えられる。さらに、4級以上を取得することで、高校受験の際、有利になることもある注4)。
前述したように、平成15年2学期末の時点で、当時の3年生は、半数近い生徒たちが英語検定試験に合格していた。そこで、55回生の生徒たちに対しても、英語検定試験のメリットを訴え、受験を勧めていた。
しかし、平成17年に着任したK教頭の意見により、校内での英語検定が行われなくなってしまい、55回生は、2年時に受験者が激減し、英検合格者は3年生の2学期末の時点で約3割しかいなかった。しかし、2級や準2級を取得した生徒が、数名いたり、3級合格者の割合は、その2年前の生徒たちよりもはるかに多いなど、英語検定試験に対する取り組みは深まっているように感じ取られた。
(3)進路結果
55回生の進学結果は、表2.の通りである。
2月に行われた公立推薦入試・特色選抜入試には、65名が受検をし、6割という高い合格率であった。また、私立高校入試には166名が受験し、163名が合格した。私学志向の高まる時代の中、私立高校専願受験者は男子28名,女子12名であった。男子生徒の中には、有名私立高校合格者もいた。
そして、3月に行われた公立一般入試では、全日制に96名,定時制・多部制・通信制に13名が受検をした。上位校では殆ど取りこぼしがなく、ここ数年の本校の卒業生の中で、最も多い合格者を出した。最終的に、全日制公立高校への進学者は、全体で65.2%,特に女子は在籍者101名中80人(79.2%)が全日制公立高校に進学した。
4.考察
55回生では、2年生から、英語学習への取り組みを変えることで、予習をする習慣が身につき、規律ある授業ができるようになった。生徒たちは、反復練習の大切さを体感し、「やればできる」という自信と学習に対する意欲を徐々に高めていったと推察される。
また、「教え愛」学習や英単語級別テストなどを通して、生徒同士の共感度が高まり、お互いを理解し合えるようになり、温かい人間関係も構築されるようになった。
さらに、多くの生徒達は、スキー実習での外国人インストラクターとの交流や国際理解教育を通して、英語の大切さを理解し、英語学習により力を入れるようになった。
1年時2学期末に行った生活・学習アンケートでは、半数以上の生徒たちが英語を「嫌い」(「あまり好きでない」:42.6%,「全く好きでない」:16.0%)と答えていたが、3年時1学期末に同じようなアンケートを行ったところ、「とても好き」(19.3%と)と「まあ好き」(31.5%)と答えた生徒が過半数を超えるようになった(図4)。
これらの結果、3年生になってからも、早朝自主学習会に積極的に参加するなどし、進路に対する取り組みのよい状態で、入試本番に臨めた。
入試の結果は、公立推薦入試・特色選抜入試で6割の高い合格率であったのをはじめ、私立高校入試や公立一般入試でも、ここ数年の垂水中学校の卒業生の中で、最も多い合格者を出すことができた。2年間の英語学習への取り組みが、55回生の進路の結果に好影響を及ぼしたと考えられる。
5.おわりに
現行の学習指導要領では、外国語科の学習の目標を、外国語を通して、
(1)言語や文化に対する理解を深めること
(2)積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図ること
(3)聞くことや話すことなどの「実践的コミュニケーション能力」の基礎を養うこと
の3点をあげている。国際化の進展に対応し,国際社会の中で生きるために必要な資質を養う観点から、特に「実践的コミュニケーション能力」を育成することを重視する方向にある。しかし、それは、決して中学校の英語の授業でオーラルスピーキングにのみ力を入れ、英単語すらきちんと書けない生徒を育てることとは結びつかない。
平成10年12月に告示された学習指導要領において、外国語科は選択教科から必須教科となった。このことは、実社会における外国語の必要性以上に、外国語学習が生徒一人ひとりの人間形成に果たす役割が大きくなることを意味していると考えられる。すなわち、英語は単なるコミュニケーションのための道具ではなく、英語学習を通じて子どもたちの人間形成や心の育成を図り、学習に対する意欲や関心をも高めていく可能性の高い教科であると考えられる。
また、文化や言語,価値観等の異質なものに対する寛容性や協調性をもち、よりよい人間理解に生きるコミュニケーションの態度と能力を養うためにも、英語の学力向上は絶対必要条件である。そのために、「書く」ことを重視した反復練習は欠かせない。55回生の2年間の英語学習の取り組みにおいて、選択英語授業での英単語小テスト,「教え愛」学習,英単語級別テスト,雨天課題プリントなどは、いずれも、「書く」ことを重視した反復練習を、いかにあきらめさせず、また飽きずにさせるかがポイントであったと思う。
ところで、「英語を制する者は受験を制す」という言葉も、単に英語の受験学力を高めると受験に有利というように安易に捉えてしまいがちだが、実はそうではない。1年時に英語を「嫌い」と答えていた55回生の生徒たちが「好き」と答えるように変容していった過程で学んだことは、「やればできる」という自信と学習意欲であった。英語という教科は、さいわいにも、学習に取り組む質と量が多ければ、それに伴って成果の出やすい教科であり、「やればできる」という実感を得、学習意欲を高めることの容易な教科である。英語の学力を高めることを通じて、子どもたちの人間形成や心の育成を図り、全ての学習に対する意欲や関心を高めていくことは十分に可能であると考えられる。したがって、英語科教育の役割を重視することは、中学校における教育の今日的な最大課題のひとつであろう。
注釈
注1)1時間の授業中に英語と数学を25分ずつ実施するように時間割編成をした。本校では、平成14~15年度に実施したが、これにより、毎日、英語の授業が実施されることになり、忘れ物もなくなり、生徒たちの英語の学力が飛躍的に伸びた。
注2)2,3年生の週3時間の英語の授業のうち、1時間をT-T授業とした。特に支援の必要な生徒にとって効果があった。
注3)週1回の英語の授業で、6名だけに限定し、別室で少人数制授業を実施した。生徒たちのアンケートからも、少人数で授業を行った方が、①質問がしやすい,②一人ひとり丁寧にみてもらえる,③発音する機会が多い,などの理由により、好評であった。平成15年の1学期、3年生の5月に実施した実力テストの平均は52.9点で、7月に実施した期末考査の平均は66.9点と30.3%の伸びがみられたのに対し、別室で少人数制授業を行った30名の生徒たちの場合、38.1点から55.0点へと44.3%の伸びが認められた。
注4)たとえば、育英高校の入学試験では、英語検定4級を取得していると、当日の英語の試験に加算点のあることが、インターネットなどで公表されている。
引用・参考文献
1)三浦孝・弘山貞夫・中嶋洋一(編著)(2002)だから英語は教育なんだ-心を育てる英語授業のアプローチ-,研究社
2)望月昭彦(編),久保田章・磐崎弘貞・卯城祐司(著)(1999)新学習指導要領にもとづく英語科教育法,大修館書店
3)向山洋一(他)編(1990)教育技術の法則化93「中学英語・楽しい文型導入事例集」,明治図書出版
4)武藤たけ雄(2001)基本英単語連想記憶術―天才の記憶術, 青春新書 (新書) , 青春出版社
5)大田洋(2003)英語教育21世紀叢書10「英語力はどのように伸びてゆくか」-中学生の英語習得過程を追う-,大修館書店
6)塩田 芳久・梶田 稲司(1986/01) バズ学習の理論と実際,黎明書房
7)塩田 芳久(1989)教育新書〈75〉授業活性化の「バズ学習」入門 明治図書出版
8)瀧口優(2003)英語教育21世紀叢書アイディア集「苦手」を「好き」に変える英語授業
9)滝沢広人(2004)中学英語50点以下の生徒に挑む 英語の基礎・基本をからめて,明治図書出版
10)東京大学「学習効率研究会」(2006)新東大生100人が教える中学生の勉強法英語篇,二見書房