皆さん、おはようございます。
1986(昭和61)年1月23日、女子バレーボール日本リーグ、首位を走る日立と打倒日立に燃えるダイエーの試合が松江市総合体育館で開催されました。ダイエーのエースアタッカーは、ロサンゼルスオリンピック(1984年)の銀メダリスト、アメリカのフローラ・ジーン・ハイマン選手でした。身長196cmもある長身の黒人選手で、ダイエーにバレーボールチームが発足した時から、裏エースのリタ・クロケット選手とともに来日し、活躍していました。性格も明るく、誰からも好かれるタイプの選手で、その当時、私は何回かバレーボール日本リーグの試合の審判(審判といっても、当時はラインズマンでしたが…)に行っていましたが、いつも私にもきさくに声をかけてくれるような選手でした。
試合の第3セット、ベンチに一時退いたハイマン選手は、崩れるように意識を失い、倒れました。試合は中断されることなく、ハイマン選手はタンカーで医務室に運ばれましたが、試合結果(フルセットでダイエーが勝ち、日立の89連勝を阻んだ)を知ることもなく、亡くなってしまったのです。
「なぜ、日本人は心肺蘇生をしないのか?」・・・ハイマン選手が試合中に倒れた時の様子は、全米のテレビで放映されました。肥満大国アメリカではすでに30年も前からハイスクールの保健体育の授業で、心肺蘇生法を教えていました。
ハイマン選手の死後、日本は大変非難され、このことにショックを受けられた河村 剛史先生が帰国後、兵庫県の高砂市民病院の松本 學先生とともに、「命の教育」の重要性を伝えるために、心肺蘇生法の普及を始められたのです。
私は公認水泳指導員であったこともあり、その第1期生として心肺蘇生を学び、毎年ずっと先生の講習を受けてきました。
AEDが広まったきっかけ
2002(平成14)年11月21日、皇室の高円宮さまが心臓突然死で亡くなられました。その後、福知山マラソンや名古屋マラソンで事故が相次いだことから、心臓突然死の原因である心室細動に対して、自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)を使用した早期除細動を行うことが必要であるとの社会的認識が高まりました。
2004年7月より、非医療従事者である一般市民が救命の現場でAEDを使用することは、 医師法第17条には違反しないとの通知が出て、今やAEDは、医療機関は勿論のこと、学校や役所、体育館、公民館、駅、スーパーマーケット、コンビニなど、多くの方が利用する場所で設置されるようになり、一般市民も使用できるようになりました。
AEDを用いて電気ショックが行われれば、約7倍の人の命が救えるそうです。しかし、「倒れた人がいたらなんでもAED」ではありません。「意識がある場合」「呼吸している場合」「脈拍が確認できる場合」、すなわち心停止に至っていない場合には使用してはならないことが明記されています。ただ、AEDはスイッチを入れてから録音機能も作動するので、症状や措置の経過が記録として残ります。必要もないのに使用してはいけませんが、心停止が定かでない場合は、すぐに使用する方がいいと思います。
AEDを使用した経験
忘れもしない平成19年11月21日、ちょうど、その5年前に高円宮さまが心臓突然死で亡くなられ日、私はグランドで体育の授業をしていました。男子数人が50mを走ったのを見届けた後、一度、笛を吹き、生徒たちを集合させました。ところが、50mを走ったばかりのY君が、集合せずに座り込んでいます。「おーい、Y君、集合だぞ。」と声をかけると、そのまま寝転がってしまったのです。
慌ててとんでいくと、Y君の意識がありませんでした。声をかけても反応もなく、脈をとっても脈を感じません。すぐさま、相棒の女性体育教師にAEDを持ってくるように指示し、心肺蘇生を開始しました。
これまで人形相手に、何度も心肺蘇生を練習してきましたが、生身の人間にするのは初めての経験でした。
心臓を圧迫するたびに、死人のように土色の顔色をしたY君の頬に赤みが出ます…「この死蔵マッサージは絶対やめられない」と思いました。
相棒の体育教師が職員室からAEDを持ってくるまでの長かったこと。時間にして3分程度だったでしょうが、私には20分くらいに感じました。
幸い、その年の夏の職員研修でAEDの取り扱いをやっていたこともあって、職員室から駆けつけた先生たちが機敏に動いていただきました。
すぐにAED を装着し、電気ショックを流しました。
しかし、何の反応もありません。
「死んだか?」と思いました。
それから心肺蘇生を続けたまま、再度AEDをかけたところ、Y君は急に泣き出し、意識を戻してくれました。
「ああ、生き返った。」・・・あの時の感動は忘れられません。まるで、子どもが生まれ出たような感動でした。
Y君は中学3年間、男子バレーボール部に所属し、エースアタッカーとして活躍してきました。それまで特に健康面に問題はなく、何の検診にもひっかかったこともなかったのですが、その後の検査でY君の心臓には先天的な奇形が見つかったのでした。
Y君は3か月ほど入院し、除細動器を体に埋め込んで戻ってきました。もう大丈夫だというので、体育の授業にも参加しました。ただ、近くで携帯を使ってはいけないというので、本人からも携帯電話を取り上げました。
それから、中学3年生最後の体育の授業のことでした。生徒たちを座らせ、「みんな、3年間よく頑張ったね」という話をしていた時、それまで少し下を向いて話を聞いていたY君が突然、顔を上げるのです。よっぽど、私の話に感動してくれたのかと思いきや、「先生、除細動器が動きました。」
・・・「おいおい、それって、今、心臓が止まっていたということ?」
すぐに救急車で搬送しました。幸い、何もなく戻ってきましたが、その後も、何度か、Y君の心臓は停止し、除細動器の作動によって、助かっているということです。
心肺蘇生法(心臓マッサージと人工呼吸)の手順
1.安全確認。
2.生命兆候=バイタルサイン(バイタル)を確認
※「どこかみていた」:瞳孔 呼吸 顔色 脈拍 手足 反応 意識 体温
※出血 血液量:体重1kgあたり80mℓ、1/3で生命危険
例:体重60kg×80÷3=1600cc
3.119番通報 + AED手配
4.呼吸確認.
5.胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行う。
手掌基部で、胸骨の下半分を約5cm
(小児・乳児の場合は胸の厚みの約1/3)
1分間あたり100~120回のテンポで、続けて30回実施。
6.人工呼吸を行う。..
7.AED使用、心肺蘇生継続
バイタルサインとは
バイタルサイン(バイタル)とは、人間の生命活動における重要な指標で、生命兆候、すなわち、人間が「生きている」 ことを示す指標を意味します。
単にバイタルと呼ぶ場合は、「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の4つの項目を指し、数値を測定することで治療の効果や状態の変化、異常を早期に発見することを目的としています。救急医療現場や集中治療室などではさらに「意識レベル」「尿量」の2つを含めた6項目をバイタルサインと称することもあります。
バイタルサインの正常値(基準値)と測定方法
呼吸 呼吸回数 12~18回 / 分
※小児20~40回 / 分
※乳児30~60回 / 分
体温 36~37℃
血圧 130mmHg未満(収縮期) / 85mmHg未満(拡張期)
脈拍 65~85回 / 分
※小児80~120回 / 分
※乳児110~160回 / 分
意識レベル 意識清明(JCS=0、GCS=15)
尿量 1回排泄量:約200~400mL
1日総量:約1,000~2,000mL
呼吸
呼吸は「呼吸回数」と「呼吸の仕方」の2つを診る必要があります。
その他、酸素の循環における重要な指標として、「SpO2」もあげられます。これは「血中にどれだけ酸素が含まれているか」を示す数値です。この数値が95%を下まわると呼吸不全が疑われます。
体温
日本人の平常時の体温は、36.5℃(±0.5 ℃)とされています。
しかし体温は個人差も大きいうえ、早朝は比較的低く夕方になるにつれ高くなるという性質もあります。
そのため、検温する際は個々人の平熱をきちんと把握しておき、平熱からどの程度変化しているかという点に注意しましょう。
血圧
血圧とは、心臓から血液が巡る際に血管壁にかかる圧力を指し、収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)を測定します。
病室や診察室で測定する場合は、緊張などもあり普段より高めの数値が出てしまうことが多いため、高血圧の基準値は診察室で測る場合と家庭で測る場合とで差があります。
※高血圧の基準値(正常値は130 / 85 未満)
診察室血圧 140mmHg 以上/90mmHg 以上
家庭血圧 135mmHg 以上/85mmHg 以上
血圧に影響を与える要素は「心臓のポンプ機能の強さ」「心拍出量」「血管の硬化」などさまざまで、高齢者の場合は動脈硬化による高血圧が多く、血圧が変動しにくいという特徴があります。したがって、平常時の数値をしっかりと把握しておき、高血圧の方の血圧が急激に下がっていないかなど、変化の幅に注意しましょう。
脈拍
脈拍は血圧と同様に、血液循環を把握するための指標となります。
1分間に100回を超える場合は頻脈、50回未満を徐脈と呼びます。
意識レベル
意識の状態を評価する基準として「覚醒」と「認知(自分と外界の正確な認識)」の2つがあります。
しっかりと覚醒しており、認知もきちんとできている普段の状態が「意識清明」。
「覚醒」と「認知」の両方または、どちらかが阻害された状態を「意識障害」と呼びます。
日本においては、JCSまたはGCSのどちらかに基づいて意識レベルを評価します。
JCS(Japan Coma Scale / ジャパン・コーマ・スケール)
頭部外傷や脳血管障害の進行の評価に使われます。3-3-9度方式とも呼ばれ、意識レベルを9段階で表したもの。数字が大きいほど重症。
I. 刺激しないでも覚醒している状態
0. 意識清明
1. 見当識は保たれているが意識清明ではない
2. 見当識障害がある
3. 自分の名前・生年月日が言えない
II. 刺激すると覚醒する状態
10. 普通の呼びかけで容易に開眼する
20. 大きな声または身体を揺さぶることにより開眼する
30. 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する
III. 刺激をしても覚醒しない状態
100. 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200. 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる
300. 痛み刺激に全く反応しない
GCS(Glasgow Coma Scale / グラスゴー・コーマ・スケール)
外傷性脳障害による意識障害の評価に使われます。EVMの3項目を合計した点数(3?15点)でスコア化したもの。15点を正常とし、一般的には8点以下を重症とする。数字が小さいほど重症。例:GCS =8(E2 V3 M3)
E(開眼 / eye opening)
0. 意識清明
4. 自発的に開眼
3. 呼びかけにより開眼
2. 痛み刺激により開眼
1. 痛み刺激により開眼なし
V(言語反応 / verbal response)
5. 見当識あり
4. 混乱した会話(見当識障害あり)
3. 不適当な発語(単語)
2. 理解不明の音声(アーアーウーウー)
1. 発語みられず
M(運動反応 / motor response)
5. 見当識あり
4. 混乱した会話(見当識障害あり)
3. 不適当な発語(単語)
2. 理解不明の音声(アーアーウーウー)
1. 発語みられず
尿量
尿量は腎臓機能の評価に有効な指標となります。
ただ、尿量の評価は、1日に排泄される尿を正確に管理する必要があるため、膀胱留置カテーテルなどを使用できる病室や介護施設でないと難しいでしょう。
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