リーダーは方向を示すだけでよい。
皆さん、おはようございます。
京都のお寺の天井には「龍」が描かれている所がたくさんあります。「龍」は水を司るので、お寺を火事から守るとされてきたのです。
中でも京都市右京区にある妙心寺の雲龍図は、「八方睨みの龍」として有名です。
この絵は、江戸時代初期の絵師、狩野 探幽が8年の歳月を要して描きあげもので、立つ位置、見る角度によって、龍の表情や動きが変化します。
東側から見ると昇り龍に、西側から見ると下り龍に見えます。
大本山妙心寺雲龍図 東~昇り龍
大本山妙心寺雲龍図 西~下り龍
1時間余り、八方睨みの龍と睨み合っていると、この龍が、ちょうど校長になったばかりの私に語りかけてきました。
「長たる者(リーダー)は方向を示すだけでよい。」
真のリーダーとは・・・
「鶏口となるも、牛後となるなかれ(鶏口牛後)」という諺があるよう、私たちは、望む、望まないにかかわらず、リーダーになる時があります。仕事の時だけでなく、家族を持てばリーダーにならざるを得ません。
理想のリーダーとは、どんな人なのでしょうか。
古今東西、様々なリーダー論が語られてきています。
山本五十六の
「ヤッテミセテ
イッテキカセテ
ヤラセテミテ
ホメテヤラネバ
人ハ動カジ」
は、今でもリーダー論の引き合いによく使われる言葉です。
リーダーシップ理論
リーダーには次のような資質・能力が要求されます。
1.コミュニケーションスキル
2.決断力・行動力
3.統率力
4.洞察力・観察力
5.誠実さ・粘り強さ(忍耐力)
6.チームメンバーの育成能力
7.ストレス耐性・プレッシャーへの対応力
8.学習能力・経験
リーダーとなる資質・能力を表す言葉が「リーダーシップ」です。
リーダーシップとは、組織をまとめ上げるために必要となる能力のことですが、これまでに公認されているリーダーシップ理論をいくつか紹介しましょう。
(1)クルト・レヴィンの3つのリーダーシップ
ドイツ出身の心理学者、クルト・レヴィンは、人がとる行動(B)とは人間の特性(P)と環境(E))が相互に作用して生じるものであり、B=f(P・E)という式で説明しました。これを「クルト・レヴィンの法則(場の理論)」といいます。レヴィンは、人の行動はその人を取り巻く環境、すなわち「場」の力によって影響を受けると述べ、リーダーシップを3つのタイプに分類しました。
専制型リーダーシップ
作業手順はすべてリーダーが指示し、仕事量が多く、高い生産性が得られる反面、長期的に見ると、メンバー相互に反感・不信感が生まれやすい。
民主型リーダーシップ
専制型リーダーシップより低い生産性となる反面、最終的にはリーダーが決定するが、メンバーで討議して方針を決定するため、有効的な関係が生まれ、長期的に見ると高い生産性が得られる。
放任型リーダーシップ
リーダーは関与せずメンバーで作業手順を決定するため、組織のまとまりもなく、仕事の量・質、メンバーの士気が低くなりやすい。ただし、メンバーの自由度が高く、専門家集団や研究開発部門などでは能力が発揮しやすく、高い生産性が期待できる。
(2)PM理論
日本の社会心理学者、三隅 二不二氏が、1966年にリーダーが取るべき行動に視点を置いて発表した行動理論の1つです。
リーダーシップ行動をP:目標達成機能(Performance)とM:集団維持機能(Maintenance)の2つの軸で定義し、PM、Pm、pM、pmの4つのパターンでリーダーシップの行動理論を分けて考えていきます。
「PM型」
成果を上げる能力も集団をまとめる能力も高く、理想的といえる。
「Pm型」
成果を上げる能力は高いが集団をまとめる能力が低いリーダーシップ像である。短期的には成果を上げられても、長期的にはメンバーのモチベーションの低下やパフォーマンスの低下をもたらす危険性がある。
「pM型」
成果を上げる能力は低いが、集団をまとめる能力が高いリーダーシップ像である。チームワークは保たれやすいかもしれないが、目標達成に向けてチームを引っ張るのは難しい。
「pm型」
成果を上げる能力も集団をまとめる能力も弱い。必ずしもリーダーシップが発揮できないということではないが、「目標や課題を解決する力」と「集団をまとめる力」を伸ばすための取組が必要となる。
(3)SL理論(Situational Leadership)
1977年、アメリカ・カリフォルニア大学の行動科学者、ポール・ハーシーとマサチューセッツ大学の組織心理学者、ケン・ブランチャードによって提唱されました。
Situational Leadership理論は、メンバーの成熟度に応じてリーダーシップのスタイルが異なるとの前提に立ち、4つに分けたそれぞれの状況におけるリーダーシップの有効性を高める方法を示しています。
教示的リーダーシップ
メンバーの成熟度が低い場合には、具体的な指示と細かい監督をする。
説得的リーダーシップ
メンバーの成熟度が高くなってきたら、説明と疑問に応える。
参加的リーダーシップ
メンバーの成熟度がさらに高くなったら、自ら決められるように仕向ける。
委任的リーダーシップ
メンバーが完全に自立するレベルになったら、業務遂行責任を委ねる。
(4)EQ型リーダーシップ(Emotional Intelligence Quotient)
アメリカの心理学者で科学ジャーナリストでもあるダニエル・ゴールマンが、1995年、「EQ」理論を提唱しました。「EQ」とは「Emotional Intelligence Quotient」を略したもので、「心の知能指数」などと呼ばれています。ゴールマンが提唱した「EQ型リーダーシップ」は、人間関係を重視、つまり、メンバーの感情への働きかけを重視したリーダーシップであり、部下の感情をコントロールすることで、チームをより良い方向へ導きます。このEQ型リーダーシップには6つの形があり、使い分けることが重要とされています。
ビジョン型
チームが目指すビジョンを明確にし、チームが進む方向を導く。
コーチ型
メンバーの能力を尊重し、対話を通じてサポートする。
関係重視型
メンバーの関係性を重視し、チーム内のコミュニケーションの円滑化を図る。
民主型
対話を通じてメンバーの提案を取り入れ、チームの方向性や活動計画をチーム全体で決めていくことでモチベーションの向上が図れる。
ペースセッター型
リーダーがメンバーに難しい課題を向き合わせ、実際にやってみせる。
強制型
強制的に指示することで、短期間で成果を出す。
(5)コンセプト理論
コンセプト理論は、ビジネス環境・組織・メンバーの状況から、条件適合理論を継承しつつ、さまざまなリーダーシップの取り方を「リーダー」と「リーダーをとりまく環境」の関係性に重点を置いて議論をしたものです。代表的なものに、以下の5つのリーダーシップのタイプがあります。
カリスマ型リーダーシップ
突出した行動力と発想でチームを牽引
変革型リーダーシップ
経営方針やチームの方針を抜本的に見直し、改革を推進する。
EQ型リーダーシップ
人間関係重視のリーダーシップで、職場環境改善やモチベーションに配慮する。
ファシリテーション型リーダーシップ
メンバーの自発性を尊重し、成長を促す。
サーバント型リーダーシップ
メンバーの業務をリーダーがサポートし、能力を引き出す。
人の上に立つ人とは・・・
あれこれと細かなことまで指示するリーダーは、面倒見がよく、優秀なリーダーではありますが、しばしば進むべき道を逸れ、時に進むべき道を見失うこともあるでしょう。
世界宗教の開祖たちや古代の偉大な哲学者たちに共通していることは、著書というものがなく、その教えを後に弟子たちが書きまとめ広めていったのです。
子育てにおいても、「子は親の背を見て育つ」と言われますが、親が子を教え導かんとするならば、口うるさく指示するのではなく、自らが日々実践精進する姿をおいて子どもに示す他はないのです。子どもたちは、いつしか親の背を見て、自発的に歩み始めるものです。
真のリーダーとは、常に過つことなく、正しい本筋だけを指し示す人なのです。
アメリカの小説家ヘンリー・ミラーも、
「本当のリーダーというものは、人をリードする必要はない。ただ道を示すだけでよい。」と述べています。
リーダーシップの神髄とは方向を示すこと、すなわち、理想・夢を掲げ、語ることだと思います。
東洋思想家で「昭和の時代の宰相の知恵袋」と言われる安岡 正篤氏は、
「真の指導者は必ず謙虚で、私が無く、自己の利害・欲望によって汚されない良心から起つべきものである。社会の善のため、人類の幸福と進歩のために指導し、私心を満たすためにするのではない。賢明な指導者は、何よりも、まず自分自身の指導者、模範となるよう心掛けるべきだ。」
と述べています。これぞ「人の上に立つ人」だと思います。
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