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3-7 初任者研修指導教員心得

タイトル 3-7
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はじめに

新任教員に対して、教育公務員特例法第23条の規定に基づき、現職研修の一環として、 1年間の研修を実施し、実践的指導力と使命感を養うとともに幅広い知見を習得させることを目的としています。

教育公務員特例法第23条
第23条 公立の小学校等の教諭等の任命権者は、当該教諭等(政令で指定する者を除く。) に対して、その採用の日から1年間の教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実践的な研修 (以下「初任者研修」という。) を実施しなければならない。

 初任者研修は平成元年度から学校種ごとに段階的に実施されており、元年度からは小学校、2年度からは中学校、3年度からは高等学校、4年度からは特殊教育諸学校の全新任教員を対象に順次本格実施され、初任者研修制度はすべての学校種で実施されています。

研修の内容

 自治体によって多少の違いがありますが、次のように、内容と時間が決められています。

校外研修 年間15時間

校内研修  年間150時間以上

(1)一般研修(G:General Training)年間30時間以上

【主な内容】

基礎的素養 学級経営 学習指導 道徳教育 特別活動 生徒指導 特別支援教育 人権教育 健康教育・防災教育 校種間・地域の連携 

(2)授業研修(T:Teaching training)年間120時間以上

・示範授業 (TC:Coaching)年間30時間以上

・初任者授業(TF:Fresh person)年間60時間以上

・授業研修 (TD:Discussion)年間30時間以上

指導教員の在り方

実は、初任者と初任者研修の指導教員とのトラブルは多いのです。

その原因のひとつは、「ゼネレーションギャップ」にあります。一般的に初任者は20代の若者であるのに対し、指導教員は50歳を過ぎたベテランです。育ってきた時代が違うので、ものの見方や考え方が違うのです。

たとえば、夕方遅くに教材研究や会議をしてきた指導教員にとって、就業時間の感覚が低いですから、放課後に初任者の指導をすることは当たり前だと思っていますが、初任者はそうではありません。勤務時間を過ぎてまで指導して欲しくないと思っています。

言葉遣いひとつ、態度ひとつとっても、「年長者のいうことは聞かなければならない」などと考えていないので、指導教員が時代に合わない発言や態度をとると、すぐにパワハラセクハラと受け止められてしまいます。

また、一般的に教師は、経験だけで話をすることが多く、ベテランの教師ほど、「私はこうしてきた」と自分の経験を押し付ける傾向にあります。しかし、時代はたえず変化しており、昔うまくいった指導が今の時代に通じることなど、ほとんどないのです。校内暴力が盛んだった時代の生徒指導法が、いじめや不登校の指導には何の役にも立ちません。

1.Z世代の理解

初任者の多くは、概ね1990年代後半から2000年代に生まれた世代、いわゆる「Z世代」とよばれる世代です。

ひと昔の「ゆとり世代」が安定した職場環境と長期的なキャリア形成を重視し、協調性を持ってチームでの協力を大切にしようとする傾向があるのに対し、「Z世代」は、デジタルネイティブとして育ち、最新の技術やトレンドに敏感で、自己実現や個性の表現を重視します。また、創造的なアイデアを職場に持ち込むことが得意で、柔軟な働き方やリアルタイムでのフィードバックを求め、仕事とプライベートを両立して効率よくワークライフバランスをより良く保とうという考えを持っています。

さらに、求人情報に触れる機会が多く、転職や副業に前向きです。教職と一般企業の仕事も同系列で考えており、教員採用試験に合格したからといって、内定のひとつにしか考えていない傾向がみられます。教師になったからといっても、すぐに辞める可能性があるということです。

2.教えない指導

このような「Z世代」の初任者の仕事のやる気を引き出し、主体性を伸ばすためには、指導教員は、単なる指導者ではなく、サポーター(支援者)としての立場が求められます。

初心者に「教えならない」と思って接すると、マイナスに働くことが多いように思います。

大山 康晴(将棋永世名人) 「勝負のこころ」より

「弟子には手をとって教えないが、疑問には答えてやる。自分で学ぼうとする姿勢には、師匠としては力を貸してやる。 褒め方は、非難することより難しい。褒めてやることが、その人の実力を過大評価するものなら、害こそあれ、益はない。その人は、力を過信して、いつかは化けの皮がはげる。そういう褒め方なら、褒めない方がその人のためになるだろう。」

3.「他人」と「過去」と「感情」は変えれない

昔から「他人と過去は変えれない」と言われますが、もう一つ、「感情」も変えることは非常に困難です。

大人(社会人)なのだから、好きや嫌いという感情で行動してはいけないと思いますが、実際、人は「好き」「嫌い」の感情で動いています。特に、初任者と指導教員が生理的に嫌いという関係になると、何の指導・助言も入らないでしょう。

「他人と過去と感情は変えれない」ということを肝に銘じ、その代わりに、「自分」と「未来」と「行動」を変える努力をしたいものです。

配慮しておきたいこと(10選)

勤務時間外での指導は厳禁です。

先ほど述べたように、指導教員の多くは就業時間の感覚が低いのです。就業時刻を過ぎて初任者の指導をすることは、初任者にとって一番の不満の原因になります。

今の若者たちは、親や教師に大きな反抗して育ってきていませんので、大人に対して、表面的に嫌な顔をしたり、露骨な表現で拒否したりすることはありません。従って、指導教員の前では、理解したふりをしたり、愛想よくしたりするのですが、それは表向きの顔であることを知っておかなければなりません。

就業時刻を過ぎて指導することの多い指導教員に対して、「私は(時間オーバーしても)大丈夫ですから」と笑顔で答えていた初任者が、陰では不満をもらしているということはよくあることです。

時間を守れない指導教員では、初任者から信頼されることもないでしょう。

朝、出会っても挨拶しない,書類を黙って机上に置く,敬語が使えない,指示したことをやらない,保守的でチャレンジ精神に乏しい,競争心に乏しく意欲が低い,個人主義で連携がとりにくい,仕事へのモチベーションや順位が低い,など、初任者の言動に腹をたてることが多々あるかもしれません。

しかし、たとえ、非常識だなと思うようなことがあっても、注意をしたからといって改善するわけではありません。本人が頭をうち、自覚して変わろうと思わない限り、変わらないでしょう。それを、ストレートに注意などすると、感情面でトラブルになるケースが多いと思います。

 初任者が1年だけ無事に過ごせばいいというわけではなりません。これから何十年も教師を続けていくわけですから、10年度、20年度の教師生活についても見通しをもって指導したいものです。

個人情報漏洩のため、最近は、教師のプライベートに関わる情報を知る機会が激減しました。しかし、初任者にとって人生の一大イベントでもある結婚や出産、また、介護問題や家庭事情について、指導教員が全く知らないでは駄目でしょう。

ただ、私生活を知ったからと言って、指導教員が具体的に何かできるかというと、それは大変難しいでしょう。「知らぬが仏」というケースもあります。深入りすることは控えましょう。

学校現場では、職員の数が足りません。また、体調不良により職員が欠勤するケースや生徒指導で応援を頼まれるケースも稀ではないでしょう。

しかし、初任研指導教員の立場を鑑みずに言動すると、思わぬトラブルになるケースがあります。

例えば・・・

・初任者が他の教師から厳しく指導されての様子を見て、「初任者を守らなければならない」という気持ちも働き、指導した教師を非難するような言葉を述べた。

・初任者と一緒に見学した授業を見て、「あの授業はよくない」などと、授業者を非難するような発言をした。

・生徒指導係や学年主任がした(している)指導方法が「まずい」と思い、その教師を指導した。

・暴れている生徒のヘルプを頼まれたので、生徒を押さえつけたが、生徒の手にあざが残り、保護者からクレームを受けた。また、その際、自分の眼鏡も壊れていた。

基本的に、初任者への指導・助言のみをするべきで、児童生徒や他の教師の指導はしない方がいいでしょう。特に、他の教師の非難や批判になるようなことは、絶対にしないようにしましょう。

また、いろんな意味で、欠勤教師の代役は極力しない方がいいと思います。

さらに、児童・生徒への直積的な指導も控えるべきです。例えば、担任の先生の指示を聞こうとしない児童を見つけた場面で、ベテランの指導教員なら、簡単に指示を聞かせることができるかもしれません。場合によっては、若い担任の先生の言うことが聞かないのに、ベテランの指導教員にはなついて、言うことを聞くようなこともあるでしょう。しかし、指導教員はその場限りの指導しかできないことを肝に銘じるべきで、その児童と長くつき合っていかなければならない担任の指導がはいらないといった状況を作ってはいけません。若い担任にとっても、指導教員の「出しゃばった指導」は。意欲をなくす要因にもなりかねません。

 くどいようですが、指導教員は初任者への指導・助言のみをすることに徹し、児童生徒や他の教師の指導はしないようにしましょう。但し、対教師暴力反抗や器物破損など、重大な事件が発生している、または発生する可能性がある場面では、当然、指導教員も指導・助言に入ることは当然です。

⑦ “正論”は可能性を潰す。教育者である限り、希望を語ろう。

「成功率1%」であっても、69回試行すれば、成功率は50%を超え、459回試行すれば、成功率は99%を超えるのです。まして、「成功率10%」ならば、44回の試行で,「成功率30%」ならば、20回の試行で、それぞれ成功率は99%を超えます。正論は可能性を潰すのです。無謀なことはしない方がいいでしょうが、教育者である限り、可能性を求め、希望を語るようにしましょう。

図表 正論(成功率)

⑧「百聞は一見にしかず」

教授の方法として、教師は話をすることが一番です。しかし、児童・生徒と同様、教師の指導の際にも、授業の様子を撮影し、その動画を見せるなど、視覚や聴覚に訴えて指導すると効果的です。

特に示範授業参観では、いい授業を見せたいものです。

ところが、周りに模範となるような授業にはなかなか出会うことができません。

そこで、優れた授業をビデオに撮影して見せるという方法を勧めたいと思います。

⑨ Input(自主的な研修)を積極的に行う。

教育には、不易と流行があります。教育現場にAIの導入も始まっています。ICT機器を使いこなすことは勿論、チャットGPTやデジタル教科書、NEXT GIGAが入っています。

また、STEAM教育、データサイエンス教育、アイトレプレナーシップ教育、ウェルビーング教育、デジタル・シティズンシップ教育、自由進度学習、AARサイクル、カリキュラム・デザイン、教師エージェンシー、教育DX、IR、個別最適化学習などについて、知識と理解を深めておかなかればなりません。

さらに、Z世代は、XやTikTokといったSNS・動画サービスをメインで活用して、情報収集を行っています。お店を調べる時は画像が多く載っているInstagram、何かについて学びたいときはYouTube、トレンドや時事ネタを知りたいときはX、暇つぶしにTikTokと、目的に合わせてさまざまなSNSを使い分けています。

指導教員も教える立場にある以上、流行に敏感になり、新しいものを先に吸収しておくという自主的な研修(Input)を積極的に行ってようにしましょう。

⑩ 何よりも、指導教員自身と家族の健康に留意

初任者が体調を崩して休むことはあっても、リカバリーは可能ですが、指導教員の欠勤は、

多方面に影響します。自分の家族も含め、自分自身の健康管理には十分に注意しましょう。