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スポーツ改革の学力を育てる体育授業実践

タイトル 有馬体育
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学校の「きまり」を変えることのできる主体性のある生徒の育成を目指して

もくじ

あらまし                              

1.はじめに                              

(1)スポーツのルールとは

(2)体育の学力

(3)学校のきまりと体育

2.バレーボールゲームを楽しくするためのルール              

3.男女共習によるハンドボールの授業実践                

4.ベースボール系球技の授業実践                    

5.成果

(1)アンケート調査の結果

(2)生徒の変容

6.おわりに

引用・参考文献 

あらまし

 学校にはそれぞれに「きまり」がある。きまりは、スポーツのルールと同じく、無用なトラブルをなくし、学校生活をみんながより楽しく快適にできるために設定されてきたものである。ところが、学校によっては、そのきまりの設定されてきた意思が尊重されず、ただ単に守ることだけが指導されているケースやきまりとして明記されているが長年に渡って見直しがなされず、形骸化しているケースがある。本校も例外ではなく、このような状態では、子どもの自主性や主体性は育たないと考えられる。

 ところで、スポーツのルールは、互いに規制をかけたり、罰則を与えたりするために存在するものではなく、「快(楽しさ・おもしろさ)の追求」を目的としている。すなわち、ゲームをする者にとっても、見る者にとっても、無用なトラブルをなくし、ゲームをより楽しむためにルールは設定されている。また、スポーツのルールは、これまで時代とともに改変されてきている。

 学校体育では、「スポーツをする力(スポーツ実践の学力)」,「スポーツを見る力(スポーツ批評の学力)」とともに、「スポーツを変える力(スポーツ改革の学力)」を育てなければならない。すなわち、既存のルールではなく、ルールを改変してゲームを楽しむことを経験させることが、自主性・主体性のある子どもを育てることに寄与できると考えた。そこで、1年生と3年生を対象に、ルールの改変をねらいとしたバレーボール,ハンドボール,ベースボール型ゲームの授業を実践し、生徒たちが学校のきまりを見直すなどして、より意欲的かつ主体的に学校生活を送れるようにできないかということを実証しようとした。

 まず、バレーボールでは、老若男女が一緒に楽しめるスポーツとして創作された当初の「モルガンルール」を紹介しながら、ルールを工夫すれば、バレーボールゲームを楽しむことができることを理解させた。

 次いで、ハンドボールでは、6mゴールラインの内側に4mラインを引いてシュート力の男女差・個人差を解消するコートを作り、ルールを様々に変化させながら、授業を進めた。生徒たちはお互いにルールを作ってゲームを楽しめるようになり、その中で、サッカーのオフサイドやバスケットボールの制限地域のルールの意義や歴史も同時に学ばせることができた。

 さらに、ベースボール型ゲームでは、ノーパンクボールを使用し、「ならベース」と「フォースアウトプレイ・ベースボール」というゲームを紹介しながら、①広い場所を必要とせず,②守備側も攻撃側も運動量の確保ができ,③グローブを必要とせず,④スピーディに,⑤安全に,⑤チームプレイや連携プレイが頻出し、全員が楽しめるゲームを考えさせた。

 これらの授業を経て、生徒たちは、ルールを工夫すれば、ゲームを「快」にすることができるということを学び、きまりを工夫すれば、自分たちの生活を「快」にすることを様々な場面で実践しつつある。今後さらに自主性・自発性を伸ばし、生徒手帳の改訂や制服の変更などにも影響する土壌ができればと期待している。

はじめに

(1)スポーツルールとは

 スポーツにはルールがある。本来、ルールというのは、互いに規制をかけたり、罰則を与えたりするために存在するものではなく、「快(楽しさ・おもしろさ)の追求」を目的としている。すなわち、ゲームをする者にとっても、ゲームを見る者にとっても、無用なトラブルをなくし、ゲームをより楽しむために、ルールは設定されている。

 また、スポーツのルールは、時代とともに改変されてきた。たとえば、バレーボールのネットの高さは、その歴史を振り返ると、ラリーを継続して楽しもうとしたのか,それともスパイクを打ちやすくし攻撃的なバレーボールを楽しもうとしたのかが決定してきている5)。すなわち、ラリーを継続して楽しもうとしたアメリカにおいては、当初6フィート6インチ (約198 ㎝)であったものが、1900年に7フィート6インチ (約228 ㎝),1916年には8フィート(約243 ㎝)と、次第にネットが高くなり、直線的なボールが相手コートに返されてゲームの中断するのを防止した。これに対して、攻撃的なバレーボールを楽しもうとした極東(東アジア)においては、伝来した当時の7フィート6インチ (約228 ㎝)から、1934年に230 ㎝と一時高くなったが、1941年には225 ㎝に下げられ、ネットを低く保つことによって、より攻撃的なバレーボールの展開されてきている。ルールを変えることによって、ゲームの質が異なり、その楽しみ方も変わる。

(2)体育の学力

 ところで、体育の学力を論じるときには、「スポーツの継承のための学力」と「スポーツの変革・創造のための学力」の2つの立場がある3)。さらに、変革・創造の学力は、①スポーツの技能習熟,②スポーツの技術的認識,③スポーツの文化的認識,の3つで構成されると考えられている。すなわち、体育の学力は、「スポーツをする力(スポーツ実践の学力)」,「スポーツを見る力(スポーツ批評の学力)」,「スポーツを変える力(スポーツ改革の学力)」,の3つの視点から捉えたい。

 義務教育段階で全ての子どもたちに保障しなければならないのは、このうち、「スポーツをする力」であろう。そして、技能の習熟は、「わかる」ことを土台にしてなされなければならない。確かな技能の習熟(できる)と技術認識(わかる)は、スポーツ文化継承の基本的な土台である。しかしながら、これだけでは不十分で、技術が「わかる」,「できる」に加えて、スポーツの文化的認識が欠かせない4)。なぜなら、教育は未来を作り変える仕事であり、子どもたちは現在の文化を発展させなければならないからである。

 昨今、大学での体育授業が必須でなくなるなど、体育教科のレーゾンデートル(存在基盤)が揺らぐ中、学校体育がスポーツの変化を無抵抗に受容するのではなく、スポーツを変革し創造する主体者を育成するという使命感に応えようとするならば、スポーツがこれまで継承・発展されてきた過程を学び、自らがその担い手としての自覚と力量を形成する機会を子どもたちに提供しなければならない13)。したがって、「スポーツを変える学力」は、体育科が最も大切にしなければならないと考えられる。

(3)学校のきまりと体育

 一方、学校にはそれぞれに「きまり」がある。きまりも、本来、スポーツのルールと同じく、無用なトラブルをなくし、学校生活をみんながより楽しく快適にできるために考え出されてきたものである。学校のきまりには、それが設定されてきた歴史があり、ある意味、その学校の文化ともいえよう。

 ところが、学校によっては、そのきまりが設定されてきた意思が尊重されず、ただ単に守ることだけが指導されているケースや生徒手帳には記載されているが長年に渡って見直しがなされず、形骸化しているケースがある。このような学校では、子どもの自主性や主体性は育たないであろう。

 学校の文化発展のためにも、学校のきまりは、「快の追求」、すなわち、「みんながより楽しく生活するために、話し合いで変える」という意識が必要であり、そのような姿勢や能力を育てるような体育授業を実践しなければならないと考える。

 幸い、本校では、生徒会が中心になって、2年前に通学鞄を自由化にした経緯がある。鞄の自由化によって、授業や部活動,学校行事に応じて、荷物が持ちやすくなり、そのきまりを逸脱しないようにしようという雰囲気が上級生を中心に生まれている。しかし、新しく入った1年生では、当初、その意思が理解されず、紙袋に荷物を入れてもってきたり、手ぶらの状態で登校したりするなどの問題が生じた。

 また、その他のきまりについては、多くの生徒(特に下級生)は理由も知らずに守っているにすぎず、教師の中には「それは生徒手帳に書いてあるから守れ。」とか「それは常識だ。」というだけの指導で終わっているケースもあった。ましてや、生徒たち自らがきまりを作り変えようというような意欲的な行動はみられなかった。

 そこで、「スポーツを変える力(スポーツ改革の学力)」を育てるような体育授業を意図的に実践し、生徒たちが学校のきまりを見直すなどして、より意欲的かつ主体的に学校生活を送れるようにできないかということを実証しようとした。

 本論文では、平成21年度に実施してきた1・3年生における3つの体育授業実践を報告する。

バレーボールゲームを楽しくするためのルール

 チャンピオンシップを目指す正規のバレーボールのルールで行うと、中学生の初心者にとっては、なかなかラリーを続けることができず、ゲームを楽しむことができない。本来、バレーボールは、1896年にネイ・スミスが考案したバスケットボールの反省から、W.G.モルガンが老若男女が一緒に楽しめるスポーツとして考案したものである8)。そこで、まず、生徒たちに、「モルガンルール」を紹介しながら、ルールを工夫すれば、バレーボールのゲームを楽しむことができることを理解させた。

 今回の授業で採用した主なルールは、次の通りである。

 これらのルールは、主に教師側からの提案であったが、生徒たちはこのバレーボールの授業を通して、ルールを工夫すれば、ゲームを楽しめることを学んだ。そして、「きまり」を工夫すれば、楽しい学校生活を送ることができる可能性のあることを生徒たちに説いた。

男女共習によるハンドボールの授業実践

体育の授業では、スポーツ文化をそのまま子どもたちに伝達するのではなく、そのスポーツ文化のもつ匂い(ハヴィトス)を子どもたちに味わわせることが重要である。そのためには、たとえば、球技では、既存のスポーツルールでゲームを行うのではなく、その球技の特性を失わない範囲で、ねらいに応じてルールを工夫する必要があろう。

ハンドボールを男女共習で行う場合、男女によるシュート力の差が大きいことが問題となる。試合中、女子がシュートしたボールは、男子のキーパーならほとんど得点にならない。反対に男子がシュートしたボールには、女子のキーパーはそのスピードに恐怖心をもってしまうことが多い。

そこで、2時間目の授業では、

「ハンドボールのシュートはゴールライン6mより遠くからすることになっているが、女子はゴールライン内側から2m入ったところ(すなわち4mライン)からシュートをしてもよい。」

というルールを採用して、ゲームを行った(写真1)。

写真1.男女差・個人差を解消するコートづくり 

 そうすると、女子生徒が意欲的にシュートをするようになり、男子生徒もアシストに回って、女子のシュート成功を援助するなどのアシストプレーが頻出した。

 ところが、4mラインからシュートのできる女子の中には、スピードのあるシュートを打てる者もおり、いくら男子のキーパーが努力してもなかなか止めることができなかったことから、やがて生徒の間から不満の声が出てきた。

そこで、5時間目の授業で、

「女子でもシュート力の優れた者は、6mラインからのシュートをすること」になり、

次いで、6時間の授業では、

「男子の中でもシュート力の劣る者は、4mラインからのシュートが可能」というふうにルールが改正されていった。生徒たちは男女差を個体差と捉えるようになってきたのである。

さらに、7~9時間目の授業では、

「4mラインからシュート可能な選手は、各チーム男女を問わず2名までとする。」

「4mラインに入ることができるのは3秒まで」となり、生徒たちはお互いにルールを作って、ゲームを楽しめるように変容していった。その中で、サッカーのオフサイドやバスケットボールの制限地域のルールの意義や歴史も同時に学ばせることができた。

ハンドボールの授業を終えた生徒たちの感想を以下にあげる。

ハンドボールをするのは今回が初めて。最初は「嫌やなあ。」と思っていたし、全然やる気もなかった。でも、やっているうちに、みんなもやる気になってきて楽しかったし、チームの人たちと喜んだり、悔しがったりして、「仲間っていいなあ。」と思った。

ハンドボールって、パスをつないでシュートするのに、チームワークがとても大事だということがわかった。また、仲間と協力して作戦をたてれば、成功するんだということを知った。

うまい人がたくさんいたので作戦なしにしていたら、とても弱かった。でも、男女一緒に作戦をたててやったら勝てるようになった。ハンドボールは作戦とチームワークがかなり影響するなと思った。

男子と女子の混合チームでやった方が、男子ばかりのチームよりもチームワークがよくなった。これからは、男子も女子も一緒にした方がいいのかなあと思った。今の女子の力の強さには驚いた。

ハンドボールをやってチームプレーの面白さがよくわかりました。ゾーンディフェンスをチームで破る作戦がとても楽しかったし、チームワークの大切さを学びました。

一人の力より団体でやることの大切さなど、たくさんのことを学んだと思います。また、ハンドボールのシュートって最高。特に男子がキーパーの時に決めたシュートは、踊り回りたい気持ちでした。体育の時間がとても楽しみでした。

男子と一緒になんてできないと思っていたけど、ルールを工夫すれば、運動能力が違ってもできるんだということがわかりました。ルールやきまりは、みんなが楽しめるためにあるんだということも、よくわかりました。

 生徒たちの感想から、授業を終えて、生徒たちはハンドボール「」学んだのではなく、ハンドボール「」学んだということがよくわかる。すなわち、ハンドボールの特性に触れた喜びやルールを学んだだけでなく、「作戦」や「チームワーク」の大切さ,「ルール」を変えれば楽しめるということなどを学んだ様子が伺われた。

ベースボール型ゲームの授業実践

 平成24年度から実施される新中学校学習指導要領では、ベースボール型の球技が必修となった。その代表的な種目として、ソフトボールを取り入れることが推奨されている。ソフトボールは、走る・跳ぶ・投げる・捕る・打つといったヒトの基本動作を含み持ち、「腰の回転」という基本的な身体操作能力を習得することができ、また、一人ひとりが主役になれる可能性の高い集団的スポーツで、判断力や自発的な学習を創出させることのできることから、教材的価値の高いスポーツと考えられる7)

 我が国では、野球とともにソフトボールはポピュラーなスポーツでもある2)が、戦後これまで、中学校体育教材にベースボール型のスポーツは必修とされてこなかった。その理由としては、

①広い場所を必要とすること。

②運動量の確保が難しいこと。

③グローブやバットなどの用具を必要とし、費用がかかること。

④ゲームに時間がかかること。

⑤安全性の問題

⑥技能の個人差が顕在化しやすく、できる・できないによって好き嫌いがはっきりする。

などがあげられよう。

 そこで、これらのマイナスの要因を排除しつつ、ルールを工夫しながら、男女共習で行えるベースボール型ゲームを行った。

 まず、使用ボールは、グローブの必要としないノーパンクボール(MIKASA製)を使用した。このボールは、素手でキャッチでき、指のひっかかりもあるので、カーブ等を投げたりすることもできる。しかも、ソフトテニスボールよりも安全である。また、金属バットを使用したが、打った後のバットを投げることを禁止とし、バッターが右手に持ってファーストまで走ることとした。

 さて、ルールであるが、まず、「ならベース」(図1)というゲームを生徒たちに紹介した。

 このゲームの主なルールは、以下の通りである。

【攻撃側】

・バッティングサークルから自分でノックを行う。

・打ったら一塁方向に走り、コーンを回ってサークル内に帰ってくる。

・打順一巡・イニング交代制・1チーム5~6人。

【守備側】

・ボールを捕球した人の後ろに全員が一列に並んで、前の人の肩に手を置き、「ハイ」と返事をする。

【得 点】・守備側が一列に並び、「ハイ」という返事よりも早くサークル内に帰ってきたら、1~3点が入る。

                

 図1.ならベース 

次に、「フォースアウトプレイ・ベースボール」(図2)というゲームを生徒たちに紹介した。

 このゲームは、60°のフェアゾーンで、ダイヤモンド型に4つのベースを配置し、バウンドゾーンと エンタイトルツーベースゾーンを設置している。

主なルールは、以下の通りである。

【攻撃側】・打順一巡・イニング交代制・1チーム5~6人。

・イニング満塁スタート制

・味方が投げたボールをバウンドゾーンにバウンドさ

せて打つ。バウンドしなかったらファウルとなる。

・エンタイトルツーベースラインを越えたら二塁打。

・空振り・ファウルをストライクとし、ストライク

3つでアウト。見逃しも含め5球でアウト。

【守備側】・フォースプレイを意識して守る。

【得 点】・ホームに帰ってきた人数が得点となる。

図2.フォースアウトプレイベースボール

 これらのゲームは、①広い場所を必要とせず,②守備側も攻撃側も運動量の確保ができ,③グローブを必要とせず,④スピーディに,⑤安全に,⑥チームプレーや連携プレーが頻出し、全員がゲームを楽しむことができた。

 さらに、これらの学習を行った後、自分たちでどのようなルールを作れば、楽しいゲームができるかを話し合い、レポート課題を提出させた。

成果

(1)アンケート調査の結果

 体育の目標は、「スポーツに自立する人間」,あるいは「運動を主体的にできる人間」を育てることであり、そのためには、「運動の好きな子ども」を育てることが重要である1」

 目の前の子どもを体育の授業を通して「運動の好きな子」に変えるには、楽しい体育の授業が展開されなければならない。

 体育授業における楽しさには、次の4つの楽しさがあるとされている11) 12)

・「精一杯、全力を尽くして運動ができた」【活動欲求】
・「今までできなかったことができるようになった」【技術向上】
・「『あっ、わかった』とか『あっ、そうか』と思ったことがあった」【発見・工夫】
・「友だちと力をあわせて、仲良く学習することができた」【協力・連帯】

 そこで、バレーボール,ハンドボール,ベースボール型ゲームの単元終了後に、全員にアンケート調査を行った。

 アンケートの項目は、高田・小林6)の「よい体育授業への到達度評価」の4項目に、「体育の授業は楽しかったですか」の1項目を加え、それぞれについて5段階で評価させるとともに、その理由を自由記述させるように改変したものである。

 いずれも、便宜的に、「大変(好き・楽しかった・できた)」を5点,「まあまあ(好き・楽しかった・できた)」を4点,「ふつう」を3点,「あまり(好きでない・楽しくなかった・できなかった)」を2点,「全く(好きでない・楽しくなかった・できなかった)」を1点の段階点で平均値を求めた。

 また、ルール改変を意識したこれらの3つの授業後のアンケート結果と体育大会後のアンケート調査を比較検討した。

①授業は楽しかったですか。

 大変楽しかった まあまあ ふつう つまらなかった 大変つまらなかった  平均値

バレーボール  25.9% 34.5% 25.9% 12.1%  1.7%  3.71点

ハンドボール  25.6% 39.3% 21.4%  9.4%  4.3%  3.73点

ベースボール  22.4% 47.4% 21.6%  7.8%   0.9%  3.83点

体 育 会   20.3% 43.0% 29.7%  5.5%   1.6%  3.75点

② 精一杯、全力を尽くして、運動することができましたか。【活動欲求】

 よくできた まあまあ ふつう あまりできなかった 全くできなかった  平均値

バレーボール  16.4% 30.3% 32.8% 12.3%  8.2%  3.34 点

ハンドボール  32.5% 39.0% 16.3%  8.1%  4.1%  3.88点

ベースボール  29.7% 35.6% 19.8%  9.9%  5.0%  3.75点         

体 育 会   27.5% 33.0% 18.3% 13.8%  7.3%  3.60点

③今までできなかったこと(運動や作戦)ができるようになりましたか。【技術向上】

 よくできた まあまあ ふつう あまりできなかった 全くできなかった  平均値

バレーボール  29.2% 58.4%  5.1%  4.4%  2.9%  4.07点

ハンドボール  31.7% 55.6%  5.6%  4.0%  3.2%  4.09点

ベースボール  24.2% 56.5% 12.1%  4.0%  3.2%  3.94点

体 育 会   25.9% 31.0% 17.2% 12.9% 12.9%  3.44点

④「あっ、わかった!」とか「あっ、そうか」と思ったことがありましたか。【発見・工夫】

 よくあった まあまあ ふつう あまりなかった 全くなかった  平均値

バレーボール  34.4% 39.1% 13.3%  5.5%  7.8%  3.87点

ハンドボール  36.9% 53.7%  4.7%  4.0%  0.7%  4.22点

ベースボール  41.8% 44.0%  5.2%  5.2%  3.7%  4.15点

体 育 会   16.7% 25.0% 25.0% 16.7% 16.7%  3.08点

⑤友だちと力を合わせて、仲よく学習することができましたか。【協力・連帯】

 よくできた まあまあ ふつう あまりできなかった 全くできなかった  平均値

バレーボール  31.3% 35.2% 23.4%  7.8%  2.3%  3.85点

ハンドボール  33.3% 33.3% 19.0%  6.7%  7.6%  3.78点

ベースボール  39.8% 36.1% 12.0%  9.6%  2.4%  4.01点

体 育 会   45.0% 43.2%  9.0%  2.7%  0.0%  4.31点

 生涯体育・スポーツにつながる「楽しさ」は、技能的特性に触れる「楽しさ体験」であり、「わかる」と「できる」が統一された貴重な運動体験が重要であることが指摘されている) 10)。すなわち、「わかってできる」ようにさせる体育授業の展開が重要であると考えられる。

 ルールの改変をねらいとした「バレーボール」「ハンドボール」「ベースボール型ゲーム」の授業終了後のアンケート結果と「体育会」終了後のアンケート結果を比較すると、ルールの改変をねらいとした授業では、『あっ、わかった!』とか『あっ、そうか!』という発見や『なるほど!』という感動体験がなされながら、技術の向上を目指す授業が展開されていたことが推察された。

(2)生徒の変容

 ルールを工夫すれば、ゲームを「快」にすることができるということを学んだ生徒たちは、きまりを工夫すれば、自分たちの生活を「快」にすることを様々な場面で実践しつつある。

 その一例として、学年の生活面での問題を学級代表の生徒が話し合い、リーダーを中心として生活キャンペーンを行うようになった。休み時間、狭い廊下に仲のよい生徒たちが集まって話をしているため、通行に支障が生じていた。みんなが楽しいと思えるような学校づくりをしようということで、「たまり行為撲滅」キャンペーンが展開された。いつの間にか、廊下に啓発ポスターが貼られ、自分たちで監視・チェックをし、ペナルティが決められた。まもなく、休み時間、廊下で生徒たちが集まっている姿が見られなくなり、通行に支障がでることもなくなった。

 その他にも、「ベル席」キャンペーンや「心配り」キャンペーンなど、生徒自らがきまりを決定し、自分たちの学校生活をよいものにしていこうという取り組みが行われた。自らが学校の主人公として自覚するようになり、すすんで清掃やボランティア活動にも取り組むようになった。生徒会選挙にたくさんの立候補者が出て、活発な選挙運動が展開されたことも、成果のひとつであると考えられる。

 今後は、学校のきまりについても意識をもち、生徒手帳の改訂や制服の変更などにも影響する土壌ができればと期待している。

おわりに

 スポーツのルールは、ゲームをする側,見る側の「快」の追求にある。ルールを変更することで、ゲームを楽しむことができ、そのような体験をした生徒は、自分たちの学校生活のきまりをも変えながら、楽しい生活を設計する可能性のあることが、本研究の結果、示唆された。

 ところで、アメリカで発祥した野球・バスケットボール・バレーボールなどのスポーツの特徴は、①ルールが非常に多いこと,②反則をした時の罰則規定が多いこと,③メンバーチェンジが頻繁に行われること,があげられる。要するに、勝ち負けにこだわってゲームがルールすれすれのところでなされるために、反則が多いので、細かいルールを設けざるを得ないのである。また、アメリカ合理主義に基づいて、常にベストメンバーでゲームをしようとするので、けがをしたり、ミスをしたりした選手は、すぐにメンバーチェンジを行う。

 一方、イギリスで発祥したスポーツでは、ルールが少なく、メンバーチェンジはあまり行われない。これには、イギリス紳士のプライド精神が影響しているといわれている。すなわち、「スポーツをする限りはフェアプレイに徹するのは当然」という考えがある。

 このようなアメリカとイギリスのスポーツに対する考え方の違いは、学校のきまりや社会の在り方にもみられる。アメリカでは、細かいきまりが多く、罰則規定もたくさんあるが、イギリスでは、不文法が多く、いちいち細かいきまりを明文化しなくても、守るのが当たり前とされている。今後は、このようなアメリカとイギリスの違いを学ばせながら、どのようにすれば、自分たちの社会をよりよくしていくことができるのかを考え実践するような生徒を育てたい。

引用・参考文献

1)後藤幸弘(1988)新学習指導要領と体育科(中学校)の課題.体育と保健26:11-17.

2)廣瀬武史・北山雅央・藤井隆志・三好千春・後藤幸弘(2004)小学校体育におけるベースボール型ゲームカリキュラム作成の基礎的研究.大阪体育学研究:42,pp.31-46.

3)出原泰明(1998)体育の学力論.体育科教育11月臨時増刊号.

4)原泰明(2002)スポーツ教育で獲得されるべき学力とは何か.体育科教育50-1,pp.38-41.

5)岸野雄三(1984)体育史講義.大修館書店 pp.144-147.

6)小林篤(1978)体育の授業研究.大修館書店:東京,pp.233-239.

7)小林篤・前本浩子(1995)体育科教育9.大修館書店:東京,pp.76.

8)松平康隆・豊田博・大野武治・稲山壬子・島津大宣(1982)現代スポーツコーチ全集バレーボールのコーチング.大修館書店,pp.1.

9) 長井功・後藤幸弘(2002)小学校4年生から中学3年生の学習成果の学年差からみたバレーボール学習開始の適時期について.大阪体育学研究40巻,pp.1-15.

10)D.シーデントップ・高橋健夫訳(1981)楽しい体育の創造.大修館書店:東京,pp.300-310.

11)高田典衛(1976)体育授業入門.大修館書店:東京,pp.25-28.

12)高田典衛(1983)よい体育授業の構造.授業研究シリーズ(2).大修館書店:東京,pp.45-56.

13)吉田文久(2002)スポーツの歴史・文化・ルール-オフサイドはなぜでき、バレーボールはなぜラリーポイント制なのですか-.体育科教育50-15.pp.24-27.

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