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あぁ~、バレーボール! <こぼれ話>

タイトル ああ、バレーオール
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「無知」が「偏見」を呼ぶ。

ビーチバレーは1996年に行われたアトランタオリンピックから正式種目になっているポピュラーなスポーツで、解放感もあり、やってみるとなかなか楽しいスポーツです。

私は、ビーチバレーが広まった当初、「ビーチバレーなんて単なるレクリエーションで、本気になってやるようなものじゃない」と思っていました。「ビーチバレーなんてスポーツじゃない!」と思っていたのです。

このビーチバレーが日本に入って来る前に、私はロサンゼルス校外のベニスビーチでビーチバレーを経験したことがあります。

最初、遠くから見ていると、スパイクもどかんと打たないし、動きもスローモーションのようだし、たいしたレベルじゃないなと思って見ていました。ところが、近くに行ってみてびっくり。ネットの高さは正式のネット高より高く、2m50㎝ほどあります。190㎝ほどのアメリカの大男たちがやっても、どかんとスパイクなど打てないのです。私は、当時、まだ大学を出たばかりで、現役プレーヤーのつもりだったのですが、アメリカ人との体格の違いに驚いていると、

“Hey,Jap!  Can you play volleyball?” と言ってくる黒人がいました。

「Japだと!(Japは日本人を軽蔑的に呼ぶ言葉)どうせ、この私をイエローモンキーかなんかのように思っているのだろう。このネグロめ!」と言い返して、ここは日本男子の凄さを見せつけないといけないと思い、その黒人と組んで、トーナメントに参加することにしました。

この大会は5連勝すると商品がもらえるというものでしたが、4連勝したところでその相棒がダウン。5試合目を棄権せざるを得なかったのですが、本当に楽しい思い出になりました。

私は日焼けすると色の黒くなる方ですが、黒人の肌の色とは全然違いました。最初は「このネグロめ!」と思っていたのですが、プレーを通して接してみると、「なかなかいい奴だな。」とも思いました。ビーチバレーもこんなに面白いスポーツだとは思いませんでした。この経験で感じたことは、

Ignorance makes prejudice.(無知が偏見を呼ぶ)ということでした。

「私はビーチバレーにも黒人にも偏見をもっていた。しかし、それは知らなかったからだということに今、気付いたよ。」と言うと、相棒も、

「Ignorance is bliss(知らぬが仏)という諺は間違っているね。」と言っていました。 

これ以来、私は、何事にでも、すぐに偏見をもたないようにし、ある程度そのことを知ってから意見を言うように努めています。

バレーボールは歴史的・社会的に今後も継承・発展できるか?

バレーボールは,1895年,アメリカのマサチューセッツ州ホーリヨーク市にあるYMCAの体育指導者ウィリアム・G・モルガン(William G.Morgan)によって考案されました。その動機は,ネイスミス(James A.Naismith)によって1891年に考案されたバスケットボールのように過激でなく温和で,しかも適度の運動量を持ち,老若男女が手軽に楽しめる室内でのレクリエーションスポーツを考案したいということであったとされています。すなわち,バレーボールは自然発生したスポーツではなく,社会の要請から,人為的に作られたスポーツであったといえます。

したがって、バレーボールには次のような利点があります。

①用具や施設が簡単で経費があまりかからない。

②ネッを境に攻防が地理的に分離され,相手プレーヤーとの身体的接触がないので,危険性が少なく安全性に富んでいる。

③室内でも戸外でも,狭い場所で,年齢や性などに関係なく,多くの人たちが気軽に楽しむことができる,等の利点があります。

わが国においては,このようなバレーボールの利点が大衆の欲求に合致していたことから広く普及し,幅広い年齢層の多くの人達に親しまれてきました。その一端は,バレーボールの観客動員数やテレビ視聴率からも伺われ,1990年代前半の観客動員数は30数万人,テレビ視聴率は5~7%で,15歳以上の約10%の人々がバレーボールを愛好していたと報告されています。また,小学校,中学校,高等学校,実業団,家庭婦人など種々の階層で,計42,002の多くのチームが協会に登録されています。(参考までに,バスケットボールは36,227,サッカーは28,862です。)

1995年1月17日に未曾有の被害をもたらせた兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、生活基盤が破壊された局限状態のなかで,現代スポーツの位置がはっきりと浮き彫りにされたといわれています。春の選抜野球大会の開催が議論をよび、1月21日に予定されていた競歩日本選手権大会(神戸大会)は中止されました。しかし,一方で,「このような時にこそ,スポーツによって元気を取りもどすべきだ」とする積極論も生まれ,1月29日には,避難所になっていた神戸市長田区の育英高校体育館で,住民の自治組織対抗バレーボール大会が開催されています。このバレーボール大会の様子は全国に伝えられ,避難所にいた多くの被災者たちにも勇気と希望を与えました。それと同時に,老若男女が楽しめるバレーボールの素晴らしさが再確認されたのです。

これまで,わが国では,競技的に6人制,レクリエーション的に9人制のバレーボールが,それぞれに発展してきましたが,近年,2人制のビーチバレーボールや4人制のトリムバレーボール(ソフトバレーボール)の各種大会も盛んに実施されるようになり,バレーボールの楽しみ方は,年々,益々,多様化し,発展する傾向にあります。

このように,バレーボールは,数多く実施されているスポーツの中で,最も大衆化のすすんだスポーツのひとつで,将来も継承・発展する可能性のある運動文化だといえます。

学校でなぜバレーボールを学ぶのか?

中学校のバレー部に所属しているある生徒に、なぜバレー部に入ったのかと聞くと、バレーボールはママさんバレーや職場のレクリエーションでなされることも多く、バレーボールが上手だと学校を出てからも得をすることが多いからと答えていました。でも、学校でバレーボールをやるのは、これだけではない理由があります。

まず、バレーボールは,空中でボールを落とさずに仲間でつなぎ合うという「ボレー操作」に大きな特徴があります。たとえば、バスケットボールでは、一人のスーパースターがいれば、ワンマンドリブルをしてシュートすれば試合に勝てるのですが、バレーボールでは、そういうわけにはいきません。ボレーによる操作は,バスケットボールのようにボールを保持できないので,必然的に仲間との協力が要求され,社会的態度の育成されやすいと考えられます。バレーボールは仲間の協力や連帯感を育てるのに、素晴らしいスポーツで、新入社員の歓迎スポーツ大会や自治会対抗の競技としてバレーボールが行われるのもそのためでしょう。

第2に、バレーボールのボレー操作という特性は,味方の動きからボールの飛ぶ方向を瞬時に必然的に予測して準備しなければならず,状況判断能力を養う可能性の高い教材と考えられます。バレーボールの相手コートはゴールとみなすことができ,バレーボールは,サッカーやバスケットボールと同様に,「シュート型」スポーツの特徴を持っています。そのシュートの機会はサッカーやバスケットボールよりも多く,技能の低いプレーヤーに自然にボールのいきやすい構造をもったゲームであるところにも特徴があります。また、ネットを境にした「地理的攻防分離型」スポーツであるので,自チームでの連携プレーは相手ディフェンスの影響をほとんど受けず,チームで立てた作戦を遂行しやすいという特徴をもっています。このことから,バレーボールは,「いかにパスをつないでシュート(攻撃)するか」ということが学習課題となるスポーツで,仲間と共に,状況判断能力を養うのに適切な教材であると考えられます。

第3に、バレーボールは,高いネットをはさんでラリーを楽しむスポーツであるので,目の位置より上方のボールを空中で扱うことが多くあります。上方から落ちてくるボールを目より高い位置で手で扱う際,頭部を後屈する必要があるので頸反射が誘発され,これに抗した型で四肢を動かす動作が要求されます。ここにバレーボールの技術習得の難しさがあると考えられますが,このような反射を抑制する身体操作(頸反射に抗した型での身体操作能力=目より高い位置における「空間領域でのボール操作」)は,神経系の発達の著しい時期に身につけておく必要があると考えられます。

これらの理由により、学校でバレーボールを学ぶ必要があるのです。

バレーボールは何人でできるか?

現在、バレーボールは6人制が主流です。しかし、我が国では、9人制も盛んに行われてきましたし、近年、2人制のビーチバレーや4人制のトリムバレー(ソフトバレー)など、様々な楽しみ方がなされています。一体、バレーボールは何人で行うのがいいのでしょうか?

その前に、球技の根元であるサッカーを例に考えてみましょう。

サッカーでは、ボール保持者に対して、まず、攻撃(縦パス)をしかけるために、ボール保持者の前方にahead of the manと呼ばれる突破の選手が必要です。次に、相手にゆさぶりをかけるために、ボール保持者から横パスを受けるサポート選手が必要です。さらに、ボールが相手に奪われてカウンターをくらった時に対処するために、ボール保持者の後方にカバーリングの選手が必要です。すなわち、サッカーでは4人の選手がいれば、パスの機能(ボールを運ぶ。ズレを作る。相手の裏をつく。)を生かして、ゲームを楽しめるわけです。従って、サッカーの最少人数は4人ということになります。

では、バレーボールについて考えてみましょう。バレーボールの場合、続けて同じ選手がボールを触れてはならないとされていますから、レシーブ・トス・スパイクの3段攻撃は2人でも成り立ちます。実際、ビーチバレーは2人で行われているので、最低人数は2人と思われるでしょう。

しかし、2人でやると、トスをあげた瞬間に打つ相手がわかってしまい、相手をゆさぶるという楽しさがうまれません。セッターがトスをあげた時、例えば、レフトとライトにアタッカーを配置することによって、相手をゆさぶることが出来ます。

ところで、バレーボールの面白さは、ラリーが続くことです。ラリーが継続しないと、やっている方も、見ている方も、楽しくありません。味方がスパイクを打った時、相手チームはブロックをしたり、レシーブをして、その攻撃を防ごうとします。よりボールをつなぐためには、スパイクを打ってすぐに返球されたボールをつなぐカバーリングの選手が必要でしょう。したがって、バレーボールに最低必要な人数も4人と考えられます。

サッカーのパスには3つの機能があると述べましたが、バレーボールの場合も、パスには3つの機能があります。すなわち、サーブカットやスパイクレシーブはボールを運ぶため,トスワークはズレを作るため,そしてスパイクやフェイントは相手の裏をつくためです。これらの機能を有効に使い、やっていても見ていても面白いバレーボールのゲームをするための最少人数は4人でしょう。

また、バレーボールはあまりに多い人数でやると、1回もボールに触れずに終わって選手もいます。バレーボール創設当時は、25人制で実施された記録も残っているそうですが、体育の授業なんかでは、できれば4人制でやってみたいですね。

奥歯を噛みしめて継続せよ。

1972年、ミュンヘンオリンピックで男子のバレーボールが金メダルをとったことがありました。「ミュンヘンへの道」がTVドラマ化されたので、ご存じの方も多いと思いますが、その時のエースアカッター大古選手には、こんなエピソードが残っています。

全日本の合宿では、斎藤コーチによる体力トレーニングがよくなされていました。なかでも、ボールに紐をつけ、コーチがそれを回して、その度にマット上で跳んだり、はねたり、場合によってはバク転をしたりするトレーニングが課されました。いわゆる、マット運動です。ところが、大男の大古選手にはそういうトレーニングについていけません。しかし、ある時、松平監督が、「倒立で9mも歩けないような選手は、全日本を去ってもらう。」と公言したのでした。

4年前のメキシコオリンピックで2位に甘んじたのは、決勝戦で自分が弱気になって根をあげたことを知っていた大古選手は、それから連日、歯を食いしばって倒立の練習に励みました。そして、とうとう全日本のメンバーの見ている前で、倒立9mを歩きました。9mラインに手が届いた瞬間、人目も気にせず、大古選手は大泣きしたそうです。何でもいい。一つのことをやり通して得た達成感は、その人の大きな自信に繋がるものです。ミュンヘンオリンピックの準決勝でブルガリアに先に2セットを先取され、絶対絶命のピンチになった時、大古選手の口から出た言葉は、「しんどいボールが俺にもってこい!」という自信に満ちた言葉でした。

最後に、カーター・ヘンダーソンの言葉を噛みしめてください。

  ねばり強さに代わりうるものはこの世の中に一つもない。

  才能があってもだめだ。

  才能がありながら成功しない者はごろごろいる。

  天才でもだめだ。

  「報われざる天才」という言い方は諺と言ってもいいほどだ。

  教育があってもだめだ。

  どっちを向いても教育のある落伍者だらけだ。

  成功の鍵をにぎっているもの、

  それは、ねばり強さと強い意志だけ。

バレーボールに学ぶ「人生の厳しさ」

球技のルーツはサッカーです。サッカーでは、ゲームが終わることを「ノーサイド」といいます。ゲームが終わったら、敵、味方なく仲良くしましょうということで、これはラグビーなんかでも一緒です。イギリスで発祥したスポーツの特徴は、ルールが少なく、メンバーチェンジもあまり行われません。これには、イギリス紳士たちのプライド精神が影響しています。

一方、アメリカで発祥したスポーツの特徴には、次の3点があげられます。

①ルールが非常に多いこと,

②反則をした時の罰則規定が多いこと,

③メンバーチェンジが頻繁に行われること,

要するに、勝ち負けにこだわってゲームがルールすれすれのところでなされるために反則が多いので、細かいルールを設けざるを得なくなっているのです。また、アメリカ合理主義に基づいて、常にベストメンバーでゲームをしようとします。怪我をした選手やミスのした選手を切って、頻繁にメンバーチェンジを行うのです。野球でも、ピンチヒッターやストッパーといえば、代わる方の立場で聞こえはいいですが、切られた選手は一体どんな思いをして引き下がっているのでしょうね?

さて、バレーボールはアメリカで生まれたスポーツで、引き分けのない過酷なスポーツです。サッカーやラグビーのように同点引き分けというゲームはありません。必ず、決着をつける,アメリカ合理主義から生まれたスポーツです。

ところで、日本の将棋も、面と向かい合って白黒はっきりつけるという点では、バレーボールと共通しています。バレーボールの指導者たちが口にすることと、将棋の名人が言うことと、共通することがたくさんあります。将棋の大山康晴十五世名人はたくさんの著書を残していますが、その中で、「勝負のこころ」(PHP文庫)に書かれていることを紹介しましょう。

 「いつも私は『忍』をモットーとし、『七転八起』を座右の銘として戦ってきた。

  その結果が、優勝百十回という記録を作ることとなった。記録は意識して作る

  ものではなく、一つ一つの積み重ねが、結果として大記録となったのだと私は

  思っている。勝負は日常心にあると私は思う。ふだんトレーニングを怠って、

  いざ勝負の場に臨んで力を出そうとしても成功するものではない。小さいこと

  の積み重ねが、その人の実力となってあらわれる。長い勝負の生活の体験から、

  私はそう信じている。」

世の中のことは、せんじつめると、全て勝負につながってきます。白黒はっきりつくものと、そうでないものとの違いはあっても、人生は勝つか負けるかの勝負の連続です。そして、勝負に勝つ秘訣は、日常心にあると言っています。

人生で成功をおさめる人とそうでない人の差は、紙一重でしょう。バレーボールで勝つ術は、人生の岐路で勝負しなければならない時にきっと役立つと思います。

ネットの高さはどれくらいに設定すべき?

中学校の球技大会で、男女に分かれてバレーボールの試合をすることになりました。中学1年生くらいだと男子よりも女子の方の背が高いことが多く、さほど問題にならないのですが、3年生にもなると、断然、男子の方が背が高いので、男子チームと女子チームが試合をするとなると、ネットの高さをめぐって有利だとか不利だとか問題が発生します。コートに段差を設けるわけにもいかず、これまで実践したケースでは、ネットの中央を低くM型にネットを張って、背の高い男子はネットの低い中央から攻撃してはいけないというルールを採用してうまくいった経験があります。

ところで、バレーボールは、ネットの高さによって、ゲームの質が変わってきます。バレーボールのネットの高さは、その歴史を振り返ると、ラリーを継続して楽しもうとしたのか,それともスパイクを打ちやすくし攻撃的なバレーボールを楽しもうとしたのかが決定してきました。

すなわち、ラリーを継続して楽しもうとしたバレーボールのゲームをアメリカにおいては、当初6フィート6インチ (約198 ㎝)であったものが、1900年に7フィート6インチ (約228 ㎝),1916年には8フィート(約243 ㎝)と、次第にネットが高くなり、直線的なボールが相手コートに返されてゲームの中断するのを防止しようとしました。

これに対し、攻撃的なバレーボールを楽しもうとした極東(東アジア)においては、伝来した当時の7フィート6インチ (約228 ㎝)から、1934年に230 ㎝と一時高くなりましたが、1941年には225 ㎝に下げられ、ネットを低く保つことによって、より攻撃的なバレーボールの展開がなされました.

体育授業で行われるバレーボールでは,ラリーの継続が保障されるようにネットの高さを決定するべきと考えられますが、スパイクが全く打てない高さでは、バレーボールの技能的特性に触れさせることは困難であると思われます。また、経験的に、公式試合の高さ(小学生男女2m00㎝,中学生男子2m30㎝,中学生女子2m15㎝)は、やや高過ぎるように感じられます。

一般に、相手コートにスパイクを打つためには、ネットよりボール2個分(約40㎝)上の高さに手の届く必要があると考えられています。たとえば、最高到達点の平均が230 ㎝の小学5年生では、ネット高190 ㎝が適当であると考えられます。

以上のことから、ネットの高さは、ラリーの継続が保証され、かつ、スパイクを打つことも可能と考えられる高さとして、小学4年生:185 ㎝,5年生:190 ㎝,6年生:195 ㎝,中学1年生:200 ㎝,2年生:205 ㎝,3年生:210 ㎝が適切であろうと思われます。

バレーボールのゲームを楽しめるための技術

戦後、長い間、日本では、バレーボールはパスやスパイク,サーブなどの技術が難しく、小学生では無理だということで、小学校体育の授業には取り入れられていませんでした。(しかし、2002年からソフトバレーボールを用いて授業に取り入れてもよいことになっています。)

確かに、オーバーハンドパスも出来ない、サーブも入らないでは、ゲームにならず、バレーボールを楽しむことは出来ません。もちろん、サーブをネット近くから投げ入れるとか、ワンバウンドOKというようなルールを採用すれば、技術の低い者同志でも、バレーボールのゲームを楽しめることは可能ですが、ボレー技術を通してバレーボールを楽しむのであれば、ある程度の個人的技術・集団的技術を身につけておいた方がいいでしょう。

そこで、初めてバレーボールを学習した中学1年生を対象に、バレーボールゲームをたくさん行わせ、ゲーム終了後すぐに、そのゲームが楽しかったかを5段階で自己評価させ、技術と楽しさの関係を調べてみました。すると、ものの見事に、バレーボールのゲームで感じる楽しさとオーバーハンドパス回数(y=2.131x+2.663,r=0.410,p<0.001)やラリー回数(y=0.196x-0.027,r=0.584,p<0.001)等の個人的・集団的技術の間には、単元のいずれに時期においても、有意な直線回帰式が得られました。すなわち、ある程度の技術が身につかないと、バレーボールのゲームを楽しめるのは難しいというわけです。

そこで、「まあまあ楽しかった」と感じることのできる技術レベルを求めてみました。その結果、

  個人的技術として、

   ①オーバーハンドサークルパス回数 11.2回以上

   ②アンダーハンドサークルパス回数  9.8回以上

   ③オーバーハンドパス距離      7.5m以上

   ④サーブ成功率          76.7%以上

  集団的技術として、

   ⑤ラリー回数           0.76回以上

   ⑥サーブ得点率          29.9%以下

   ⑦サーブ継続率          47.2%以上

   ⑧平均触球回数          1.20回以上

   ⑨三段攻撃出現率          9.9%以上

等が算出されました。この中で最も楽しさとの相関関係が深かったのが、ラリー回数でした。すなわち、バレーボールのゲームでは、出来るだけラリーの続くゲームを行うとが、ゲームの楽しさともつながるわけです。

バレーボール学習開始の適時期は?

物事には何でも、それを行うのにふさわしい時期があります。私たちは、これを「適時期(optimum time)」と呼んでいます。「適時期」とは、「学習ができるような状態にあることを準備性(readiness )があるといい,そのような状態になるまでの期間を準備期というのに対し,何らかの働きかけをしても学習の成立が困難になる時期を学習不適応期といい,『適時期』とは両者の間にあって,準備性のある期間の中でも学習やトレーニングの効果が最も大きく出現する時期をいう」と定義しています。

例えば、自転車乗り(駒なし)を覚えるのに、2歳の子では早すぎて無理でしょう。しかし、中学生以上になると、今度は乗れるようになるまでに、大変な苦労を伴います。では、一体、自転車乗りはいつ覚えればいいのでしょうか?

いろいろな研究の結果、自転車乗りは、横のバランス感覚が発達し、かつ推進力をつけるためにペダルをこぐ脚部筋力がつく5歳の頃に覚えさせるのが、最も苦労なく、早く覚えれることが分かっています。実際、私の長男も、5歳の誕生日に初めて自転車乗りを練習させたところ、ものの2,3分で乗れるようになってしまいました。すなわち、自転車乗りの適時期は5歳だということです。(勿論、若干の個人差はあるわけで、次男の場合は、5歳の誕生日にはまだ乗れませんでしたが…。)

このように、物事を覚えるには、何でも適時期があると思います。逆にいえば、その時期でしか出来ないこともあるということです。中学生には、中学生の今にしか出来ないこともあるわけです。

また、性格の形成にも適時期があると思います。「三つ子の魂、百まで」とも言いますが、人間の気性は3歳までで決まるそうです。

ところで、バレーボールはいつ頃から始めればいいのでしょうか。

そこで、まず、小学4年生から中学3年生までの児童・生徒を対象に、公認4号球・軽量4号球・ミニソフト球の3種類のボールを用いて12時間のバレーボール学習を行い、技能的・情意的・認識的側面の学習成果を比較検討してみました。

その結果、ミニソフト球を用いた場合、バレーボールは小学4年生でも楽しむことができるという結果が出ましたが、総合的に判定した結果、バレーボール学習開始の適時期は、小学6年生に存在すると考えられました。

次に、先行学習経験の年齢の相違による影響を調べるため、小学6年時にバレーボール学習を経験した中学1年生と,中学1年時から初めて学習した中学2年生の学習成果を比較したところ、明らかに小学6年生でバレーボール学習を経験したグループの方が、学年が1つ下であるにもかかわらず、高いレベルでバレーボールのゲームを楽しめることがわかりました。このような横断的・縦断的研究の結果、バレーボールは小学校6年生で始めるのがいいことがわかっています。

バレーボールではどんなボールを使うべき?

2002年からソフトバレーボールを用いて、小学校からバレーボールを授業に取り入れてもよいことになっています。

ところで、ソフトバレーボールを使うとどうでしょうか? 現在、4人制のトリムバレーが盛んに行われるようになり、この大会ではソフトバレーボールが使用されています。長いこと公認4号球や5号球に親しんできた者にとって、ソフトバレーボールを使ってバレーボールをすると、なんだか別のスポーツのようにも感じます。

そこで、まず、小学4年生・5年生・6年生を対象に、ミニソフト球,軽量4号球,公認4号球のそれぞれを用いて、指導過程を同一にした学級を実験的に設定し、使用ボールの相違による学習成果を比較してみることにしました。

技能的側面の学習成果では、公認4号球を用いて,①オーバーハンドサークルパス回数,②アンダーハンドサークルパス回数,③オーバーハンドパス距離を、単元「はじめ」「なか」「まとめ」の3回測定し、ゲームをVTRに収録して、①ラリー回数,②サーブ成功率,③サーブ得点率,④サーブ継続率,⑤触球回数を分析するとともに、パスソシオグラムやゲーム発展指数注)を用いて、集団的技能の学習成果も評価しました。

なお、ゲーム発展指数とは、(サーブ継続率/47.2×1.00+ラリー回数/0.76×2.27+平均  触球回数/1.20×1.17)/4.44×100で示される指数で,100を越えるとゲームを楽しめるようにゲーム様相(集団的技能)が発展していると考えられる指数として開発されたものです。

また、アンケート調査により情意的側面の学習成果を,認識度評価テストにより認識的側面の学習成果を把握しました。

これらの結果、いずれの学年においても、ミニソフト球を用いたクラスの方が、軽量4号球や公認4号球を用いたクラスよりも、ラリーが継続されやすく、ゲームを楽しみやすいが判明しました。

しかし、ここで大きな問題点が浮かびあがりました。

というのは、ミニソフト球を使用した場合、いずれの学年においても、単元前半に著しい向上がみられるものの、単元後半に記録が伸び悩む傾向がありました。

次に、オーバーハンドパスのフォームを分析したところ、ミニソフト球を使用したクラスでは、その扱い易さ故に、正しいフォームでのパス技術の習得が妨げられていることが示唆されました。

さらに、小学6年時にそれぞれのボールを用いて学習を行った児童が中学生に進級した後の追跡調査を行ったところ、最初に公認4号球を使用した生徒は、著しい記録の向上を示したのに対し、軽量4号球,特にミニソフト球を使用した生徒の記録は低調でした。このことから、安易にミニソフト球を用いるより、最初は扱いにくいかもしれませんが、正しいオーバーハンドパスを習熟させ、将来的にうまくさせるためには、小学6年生あたりでは公認4号球を用いる方が望ましいと考えられます。

ラリーポイント制になったのはなぜ?

6人制バレーボールは、長い間、サイド・アウト制の15点マッチで行われていました。サーブ権のある時にポイントしないと点数にならないので、接戦しているように見えても、サーブ権をとるだけで点数が入らないなんてこともよくありました。

ところが、現在は、ラリー・ポイント制の25点マッチで行われています。長い間、サイド・アウト制で慣れ親しんできたものにとって、ラリー・ポイント制では、あっという間に試合が終わってしまい、逆転ゲームがなかなか起こらないので面白みに欠けるように思います。また、常にミスが許されないので、気が抜けず、いわゆる遊びのプレーがなかなか出来ません。なにか、別のスポーツをしている気もします。

さて、サイド・アウト制からラリー・ポイント制に変更した理由は何なのでしょうか?変更の理由としては、次の4つが考えられます。

 (1)従来のサイド・アウト制では、試合時間が長引き、連戦になると選手の疲れが激しく、健康管理上の問題がある。

 (2)試合時間の長短に幅がありすぎ、第2試合以降の開始時間が不明瞭になってしまって、試合の運営面で問題があった。

 (3)試合時間に長短の幅があると、テレビ放映上、放映枠が取りにくいため、90分から120分で1試合が終わるように工夫して欲しいとの強い要請が、マスコミ関係者からあった。

 (4)ルールを知らない人にとっては、サーブ権によって得点が入ったり、入らなかったりするのが分かりづらかった。

これらのうち、(3)(4)は、プレーヤーからの申し出による変更やプレーヤーのための変更ではなく、メディアや見る人の利益のために行われたもので、どちらかというと、(1)(2)より強かったと言われています。

もはや、スポーツを考える場合に、メディアの存在を無視しては考えられないのです。バレーボールのルール変更をバレーボール協会が率先して受け入れたとは思えません。しかしながら、メディアに乗っからなければ、人気を得ることが出来ないとあらば、不本意ながらも、メディアの求めるルール変更を受け入れざるを得なかったわけです。

しかし、メディアによってルール変更がなされたことが消して悪いというのではありません。かつて、大松監督率いる東洋の魔女が東京オリンピック(1964)で優勝し、松平監督率いる男子チームがミュンヘンオリンピック(1972)で優勝するなど、日本のバレーボール人気が沸騰していた時代は、「アタックナンバーワン」や「サインはV」,「ミュンヘンへの道」など、テレビ番組がその火付け役になっていたのでした。

先日のバレーボール学会で、「日本のバレーボールを世界トップレベルに戻すには・・・」という話題になった時、私はすかさず、「スラムダンクに変わるマンガを作ってみては?」と提案しておきました。そして、今、マンガ ハイキュー!!(排球)というマンガが流行しています。しばらく低迷していたバレーボールが強くなるのはこれからでしょう。

タイトル バレーボール適時期
バレーボール学習開始の「適時期」の研究バレーボール学習はいつから始めればいいのだろうか? 戦後、長らく、小学校の学習指導要領には「バレーボールは技術取得が困難」ということで体育の授業に取り入れられてこなかった。また、バレーボールは中学2年生から開始すべきという主張もあった。 しかし、実際には小学時代からバレーボールに親しんでいる児童が多数おり、バレーボールの教材価値を鑑みた時、バレーボールを小学校に取り入れるべきという意見も多かった。 そこで、筆者は、小学4年生から中学3年生の児童生徒を対象にバレーボール学習を行い、横断的・縦断的研究を重ね、バレーボール学習開始の「適時期」は小学6年生であることを導き出した。 大阪体育学会で奨励賞も得たこれらの研究の成果で、2002年の学習指導要領から小学校にバレーボール授業が取り入れられている。...
タイトル バレーボールゲーム
バレーボールのゲームを楽しくするための工夫バレーボールの指導は難しいという人がいますが、ルールを変えれば、バレーボールのゲームはいくらでも楽しむことができます。そういう経験を通じて、「『きまり』を工夫すれば、楽しい社会生活を送ることができる。」ということを学ばせることができたら正解です。...

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