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特色ある教育活動の実践によって教育成果をあげた事例

タイトル 特色ある教育活動の実践によって教育成果をあげた事例
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-「希望と勇気と思いやり」を掲げた学校秩序回復からの取り組み-

論文要旨

 学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,創意工夫を活かし「特色ある教育活動」の展開が求められている(中学校学習指導要領第1条総則).そのためには,教える先生と学ぶ生徒が互いの信頼感で結ばれるように企図された具体的・有機的な教育の営みが必要である.

 ところで,チームスポーツの勝敗の結果は,①体力・体格,②技術,③戦術,④精神力,⑤チームワーク,⑥運,の6つの要素の掛け算で決定される.学校の教育成果もいくつかの要素の掛け算で成り立っており,それらのうち,ひとつでもゼロだと教育成果は上がらない.本論文では,学校の教育成果を左右する6要素を,①教師の力量,②教育スキル,③教育課程編成・時間割作成・学校行事計画の工夫と校務分掌,④教師のメンタル面,⑤組織の活性化,⑥教育環境整備・協働意識の向上,と捉え,阪神淡路大震災後に学校秩序の乱れた中学校が,短期間に秩序を回復した教育実践事例について,そのメカニズムを明らかにしようとした.

もくじ

1.はじめに                                          

2.教育成果を左右する6要素                          

3.本校の教育実践                                    

 (1)「教師の各自の力量」を高める.

 (2)「教師の教育スキル」を高める.

 (3)「教育課程編成・時間割作成・学校行事計画」の工夫と「校務分掌」

 (4)「教師のメンタル面」を高める.

 (5)「組織の活性化」をする.

 (6)「教育環境」の整備と「協働意識」の向上

4.教育成果                                          

 (1)生活指導面

 (2)学習面

 (3)進路面

 (4)部活動

5.おわりに                                         

はじめに

 「768件」,これは平成10年度,本校で発生した1年間の生徒指導上の問題件数である.この年,対教師暴力反抗だけでなく,教師による体罰事件も発生し,さらに,いじめ問題の指導がこじれ,訴訟問題となったケースも抱えていた.全日制高校進学率は88.3%,就職した生徒は10人を越えた.また,平成11年度の生徒指導上の問題件数は656件,対教師暴力反抗も19件発生した.平成12年度には,問題件数は368件と減少したものの,校内で暴れ狂った生徒が現行犯逮捕されるという事件も発生した.

 このように本校が荒れたのは,いくつかの要因が考えられる.その一番の要因は,阪神淡路大震災による人口移動である.本校の校区は,家屋の倒壊などの被害が少なかったため,震災後,心に傷を負った子どもたちが文化アパートや公営住宅を中心に多数入居してきた.このような「不幸少年少女」を「非行少年少女」にしないためには,学校・保護者・地域が一体となって手厚い手だてをする必要があると考えられるが,当時の本校には,イニシャティブをとってそのような手だてをすることが少なかったように思われる.

 しかし,平成13年度には,生徒指導上の問題行動は278件と激減し,全日制公立高校進学率は70%を越えた.対教師暴力は0となり,それ以降,生徒たちは落ち着いた状態で学校生活を送っている.

 平成11年4月,本校12代校長に植田秀幸が就任した.植田は,震災後,復興のために市内を歩き回った経験から,中学生に「希望」と「勇気」と「思いやり」を育むことが大切と考え,教育成果をあげた実績をもつ.本論文は,植田が中心となって本校で主体的に取り組んできた教育実践のうち,平成14年度から大きな教育成果をあげたと思われる本校の特色ある教育実践について,その因果関係やメカニズムを明らかにしようとするものである.

教育成果を左右する6要素

 京セラ会長の稲森和夫氏が,人生の結果は3つの掛け算であると述べている2).すなわち,人生の結果は,「考え方」と「熱意」と「能力」の掛け算で決まるという1)

  「人生の結果」=「考え方」×「熱意」×「能力」

「考え方」×「熱意」は「信念」という言葉に置き換えられ、物事は「信念」と「能力」の掛け算で成否が決定すると述べる人もいる6).掛け算というのは,ひとつの要素が「ゼロ」であると,いくら他の要素がよくても,全体として「ゼロ」になるという性質をもつ.

 ところで,バレーボールやサッカーなどチームスポーツの勝敗の結果は,①体力・体格,②技術(スキル),③戦術(作戦),④精神力,⑤チームワーク,⑥運,の6つの要素の掛け算で決まると考えられる.掛け算の性質上,これらの要素のうち,ひとつでも「ゼロ」だと全体としての成果が「ゼロ」になる.バレーボールで例をあげると,いかに個々の体力・体格に優れ,スパイクやサーブの技術が高く,戦術や精神力に問題がなくても,チームワークが「ゼロ」だと,ゲームで勝利をおさめることはできない4)

 学校は,教える先生と学ぶ生徒がいて成立する.学校教育は複数の教育者の営みであり,学校の教育成果もチームスポーツの勝敗と同じような性質をもつ.すなわち,学校の教育成果は,チームスポーツと同じようにいくつかの要素の掛け算で成り立っており,それらのうちひとつでも「ゼロ」だと教育成果が上がらないと考えられる.

 図1.は,チームスポーツの勝敗を決定すると考えられる6つの要素を,学校教育の成果を決定する要素に当てはめて考えたものである.

図1.チームスポーツの勝敗と学校教育成果を決定する6要素の関係

 すなわち,①体力・体格を高めることは「教師の各自の力量」を高めることと考えられる.同じように,②技術は「教師の教育スキル」,③戦術(作戦)は「教育課程編成・時間割作成・学校行事計画」の工夫や「校務分掌」,④精神力は「教師のメンタル面」,⑤チームワークは「組織の活性化」,⑥運は「教育環境整備」や「協働意識の向上」,のそれぞれの要素に相当すると考えられる.

 前述したように,これら6つの要素のうち,ひとつでも「ゼロ」であると,全体の成果はあがらない.各要素を高めるための具体的な本校の実践について,以下に述べる.

本校の教育実践

「教師の各自の力量」を高める

 スポーツの世界では,体格・体力差を配慮し,できるだけフェアな条件で勝敗を競おうとする競技がある.柔道やレスリングの体重別の試合や重量挙げなどである.しかし,殆どのスポーツ競技は,個々の選手のもつ体力・体格の要素が勝敗に大きく影響する.走り高跳びでは背の高い選手が有利であるのと同じで,教育成果も個々の教師の力量の高い方が上がる.偶然,力量の高い教師たちが集まる場合もあるが,やはり,教師の力量を高めるための営みを意図的に行うべきであろう.

 本校では,教師の研修を重視している.可能な範囲で教師に海外研修や内地留学の機会を与えると同時に,職員研修の充実にも取り組んできた.

 職員研修については,①学校要覧,②生徒指導共通理解,③生徒理解,④成績評価,⑤成績処理,⑥コンピュータの取扱い,⑦研究授業,⑧救急処置,⑨夏季一日研修,⑩総合的な学習の時間の取り組み,⑪道徳研究授業,⑫校務検討,⑬教育課程編成,を年間の決められた時期に行うことにしている.

 また,職員研修の内容については,職員の実態に即したタイムリーなものを取り上げるようにするべきであろう.本校では,対教師暴力・反抗の多い時期に,防犯指導のベテラン警察官を講師に招き,護身術を研修したこともあったが,当時は非常に好評であった.

「教師の教育スキル」を高める

 教師の仕事の大部分は教えることである.「わかる授業」「楽しい授業」を目指して,授業改善に取り組むことが大切であると考える.次に教師の教育スキルを高めるための本校の取り組みをあげる.

研究授業月間

6月を研究授業月間とし,教科ごとに研究授業を実施している.事前に指導案を全職員に配布し,担当教科の教師が批評し合うようにしている.

道徳授業研究

 11月を人権月間とし,学年ごとに1名,代表授業を行い,それを参考に,次の週に他のクラスでも同じ教材を使って人権に関する道徳授業を実施している.

授業研究会の受入れ

 全市あるいは地区での研修授業の受入れを積極的に行っている.平成14年度は体育科が全市発表を実施,平成15年度は理科,数学科,美術科,技術家庭科が地区の発表を行った.他の学校の先生に授業を見に来てもらうことで、生徒にとってもいい刺激になっており,何より,生徒たちが授業を大切にしようという雰囲気が生まれた.

教育実習生の受入れ

毎年1学期に,可能な限り多くの教育実習生を受け入れるようにしている.

 平成15年度は,5月から6月にかけての3週間,5名の学生を受け入れた。教育実習の受入れによって,指導教官(教科担任・学級担任)の研修にもなり,地域での学校協力者が養成できたと考える.また,生徒たちの教師の仕事への理解が高まり,将来,教職に就きたいという生徒が増えた.校内に新鮮な雰囲気が生まれ,学習面や部活動面に対する意欲も高まった.

総合的な学習の時間への取り組み

 本校では平成14年の新しい学習指導要領完全実施の前年から本格的な取り組みを始めている.平成13年に「神戸市とびっきりタイム」推進校の指定を受け,各学年にチーフとなる教師を決めて,「共生社会に主体的に生きる力を育む福祉学習」を学校テーマとして取り組んでいる.

「教育課程編成・時間割作成・学校行事計画」の工夫と「校務分掌」

 最も近代化されたスポーツといわれるアメリカンフットボールでは「作戦・戦術」の要素が試合の勝敗を左右するのと同じように,学校の教育成果は,カリキュラムと校務分掌をどのように編成するかが最も大きな要素だと考える.各学校に創意工夫が求められている時代でもあり,特に本校の基礎学力定着のための取り組みと学校行事への取り組みについて,実施していることを述べる.

基礎学力定着のための取り組み

ア.英語・数学での25分授業の実施

 英語・数学は積み重ねの学習が必要な教科である.本校の生徒たちは塾に通っている生徒が少なく注1,毎日,学習させる必要性を痛感してきた.そこで,全学年,50分授業の中で英語と数学をそれぞれ25分ずつ行う授業を取り入れた.これにより,週5日,毎日,英語と数学の授業を実施できるようになった.

イ.英語での少人数制別室授業

 3年生の英語の授業において,週に1回,少人数制別室授業を実施した.抽出生徒は各クラス6名とし,生徒の希望により決定しているが,希望生徒が多いので2ヵ月単位で交代するようにしている.

ウ.英語・数学でのTT授業

 全学年,英語か数学の授業で,外国人英語教師とは別に,複数教師によるTT授業を行っている.

エ.学力検定の実施

 学期に2~3回,裁量の時間を利用して,朝学習の定着,基礎学力向上を目指し,国語・数学・英語の基礎学力検定を実施している.事前に検定範囲を発表し,試験として取り組ませるとともに,一定基準に達しない生徒については,昼休みや放課後に再検定を行うなど,きめ細かい指導をしている.

オ.早朝自主学習会

 学力向上の鍵のひとつは,早起きを心掛け,朝学習の習慣を身につけさせることであると考える.本校では,授業開始前の朝学習への取り組みの他に,定期考査1週間前には部活動が休止となるので,朝7時30分より教室を開放し,学年単位で自主学習会を実施している.

 また,3年生では,11月頃から受験に向けて朝7時30分から早朝自主学習会を実施しているが,1,2年時に早起きの習慣のついた多くの生徒たちは,スムーズに移行している.

カ.放課後の質問教室

 テスト1週間前の放課後,質問教室日を設け,自由に質問できる場を設定している.

キ.長期休業中の補充授業

 夏季・冬季休業中には,全学年,補充学習を実施するようにしている.実施方法は各学年によって異なるが,学習を通して生徒たちと関わっていくことが大切であると考える.

ク.問題生徒に対する別室授業

 集団生活に馴染めず,問題行動のある生徒に対しては,補助教員の力も借りながら,別室で個別に基礎学力をつけるための授業を行っている.

学校行事への取り組み

ア.宿泊体験学習

 教師と生徒との関わりを深め,生徒集団機能を高めるために,宿泊体験学習を重視している.3年生の修学旅行だけでなく,4~5月に1年生,2年生とも,2泊3日の宿泊体験学習を実施している.

イ.体育大会・文化祭

 生徒たちに達成感を感じさせ,生徒を褒める場を作るためにも,学校行事は成功裡に終えさせたい.特に,体育大会,文化祭には1学期から念入りな準備を進め,全職員が協力して取り組むようにしている.

ウ.長期休業中のお楽しみ行事

 夏季休業中のバーベキューパーティや冬季休業中の餅つき大会など,長期休業中に学年単位でお楽しみ行事を行っている.全員参加型の学校行事ではないが,3~4年前からの恒例行事として継続実施されている.

「教師のメンタル面」を高める

 ストレスの多い教育現場では,心因性の疾患に悩む教師も多いという注2).いくら職員研修を充実させ,教育課程編成に工夫を凝らしても,いわゆる教師の「やる気」がなければ,成果は期待できない.教師の意欲をかきたてるための手だてが必要である5)7)

 まず,本校では,教育活動評価を次のように実施している.すなわち,2学期末に全職員に教育活動評価アンケートを実施し,3学期最初の校務分掌部会・職員会議で検討する.アンケート項目については,(1)教育努力目標 (2)教務 (3)学習指導 (4)生徒指導 (5)管理 (6)全体を通して,の6項目について,文章表記により,感想・意見・提案に分類して提示し,教育成果がわかりやすいように工夫している.特に,意見については,提案(改善策)を提示してもらうようにし,次年度の教育目標やスローガンの設定にいかすようにしている.教育評価のねらいは,反省に終始するだけでなく,教師に達成感・有能感を抱かせることが大切である.すなわち,日々の教育実践によって成果の上がっていることを実感させることで,次なる意欲が沸くと考えられる.個人批判や苦情・文句の多い教育反省からは教師の意欲は生まれない.

 次に,月に2回程度,「職員リフレッシュデー」を設定し,この日は遅くとも19時30分には学校を閉めるようにしている.「教育は人なり」といわれる.神戸市の教育基本理念にも「人は人によって人になる」と謳われているが,生徒の育成に健全な教師の存在は欠かせない.教師が意欲的に教育活動を行えるような取り組みは欠かせないと考える.

「組織の活性化」をする

 学校組織は,校長・教頭の第一層,教務主任・学年主任・各部長のいる第二層,そして学級担任・教科担任・各分掌係の第三層に分かれている.組織の活性化を図り,チームワークを高めるには,コミュニケーション(報告・連絡・相談)が欠かせない3)

 コミュニケーションには,フォーマルなコミュニケーションとインフォーマルなコミュニケーションとがある.本校では,学年主任会や生徒指導担当者会などのフォーマルコミュニケーションの場を時間割に設定するとともに,職員スポーツや研修旅行など,インフォーマルなコミュニケーションの場を多くもつようにしている.

「教育環境」の整備と「協働意識」の向上

 「運も実力のうち」といわれる.スポーツの世界でも,勝つチームには「運」も味方しているように思う.しかし,よく観察してみると,「運」のいいチームには,いくつかの共通点がある.そのうちのひとつが,美意識の高さである.

 1980年代,年間に60万件以上の重要事件が発生していたニューヨーク市が,ジェームズ・Q・ウィルソンとジョージ・ケリングの提唱した「割れた窓理論」注3)を取り入れ,1990年以降,犯罪率を激減させたように,一見,取るに足らない些細な環境を正しくしていくことによって、劇的に全体効果をあげることがある.

 すなわち,教育環境の整備によって美意識を高めることが,落ち着いた学校の雰囲気作りに欠かせないと考える.本校の美意識向上のための実践を次にあげる.

①職員室の整理整頓

 スケルトンの喫煙室の設置をしたり,職員の机上整理の励行をしたりしている.

②掲示環境の向上(ポスター掲示)

 「心のポスター」と称して,生徒たちに清掃活動の活性化,生活改善のためのポスターを描いてもらい,ラミネートして校舎内外に掲示している.

③花一輪運動

 PTAの協力を得て,トイレや廊下に生け花を置いてもらっている。

④金魚の飼育

 ホームルーム教室や職員室前の廊下,校舎外の池に金魚等を飼うようにした.

⑤制服の改変

 詰め襟の制服は,長髪に似合わず,ホックを閉めさせる指導が大変であったので,平成12年入学生からネクタイを基本とする制服に改変した.生徒の服装意識が高まっただけでなく,ネクタイを着用して授業をする教師も増えた.制服一新により,異装の生徒が激減し,学校秩序の回復が早まったように感じた.

⑥教室環境の整備

 掲示コンクールの実施や新しいゴミ箱設置など,教室環境整備に力を入れた.

 以上のような取り組みの他に,生徒の実態把握のための生活アンケートや保護者や地域の協力も欠かせない.生徒の実態アンケートの結果は,学校だよりやPTAだよりなどに載せ,学校より主体的に情報発信をするようにしている.また,朝礼での学校長の話や保護者会での挨拶なども出来る限り文章化し,保護者や地域の協力も得るようにしている.

教育成果

生活指導面

 表1は,平成10年からの生徒指導上の問題発生件数及び,30日以上の長期欠席生徒数の推移を示したものである.

 平成11年度から学校秩序の回復を最重要課題として取り組んだ結果,平成13年度の問題件数は,平成10年度の約3分の1に減少した.特に,対教師暴力・反抗の件数が平成13年度は0になり,学校秩序は大幅に改善した.

 また、長欠生徒数においても、平成13年度以降、平成11~12年度と比較すると半減している.現在,教育実習生や外部コーチなど本校の教育活動に係わる多くの人が,本校の実態をみて,教師と生徒との信頼関係が厚いことを指摘している注4).夜遅く,教師が生徒の問題行動で走り回ることもなくなり,落ち着いた雰囲気で学校生活が営まれている.

表1.平成10~14年度の生徒指導上の問題行動発生件数と長欠生徒数

学習面

 現在,授業も非常に落ち着いた雰囲気の中で行われている.特に,朝学習の習慣が身につき,始業前の朝学習への取り組み姿勢が素晴らしい.朝、試験1週間前の早朝自主学習会への参加率も増加し,4分の3の生徒が,朝7時30分には登校して学習に取り組んでいる学年もある.必然的に,遅刻する生徒は激減しており,学力も向上している.

 特に,25分授業やTT授業,少人数制授業の成果は,英語の成績向上に顕著である.

 一般に,1年生の1学期の英語テストでは平均80点を超えることが多いが,1年生後半になると50~60点になってしまうことがある.しかし,本校,平成14年度の英語の定期テスト平均値は,2年生でも70点代をキープしている.また,英語検定にも積極的にチャレンジするように呼びかけているが,平成15年2学期の時点で,3年生は,3級取得者が41名,4級取得者が33名,5級取得者が12名と,全体で44.8%の生徒が英語検定試験に合格するなどしている.

進路面

 はじめに述べたように,平成10年度の全日制の高校進学率は88.3%で,就職生徒数が10人を越えていたが,平成13年度以降,全日制高校進学率は90%を優に越え,平成13年度の公立高校進学は70.3%を記録した.それ以降,全日制高校進学率や公立高校進学率は徐々に増加している.

部活動

 生徒数の減少に伴い,部活動運営が困難になってきたが,平成15年度の区の総体で総合優勝を果たすなど,成績は徐々にしている.

 また,神戸市上位に,柔道部・陸上競技部・卓球部・男子バレーボール部・ソフトボール部などが名をあげるようになり、吹奏楽部も兵庫県コンクールで金賞を受賞するなど、活躍した.

 さらに,柔道部・陸上競技部・卓球部は指導重点校にも指定されており,陸上部と柔道部は平成15年の全国大会に出場する選手を輩出した.

おわりに

 中学校学習指導要領第1条総則第1の1には,「学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において生徒に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を活かし特色ある教育活動を展開する中で自ら学び,自ら考える力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,個性を活かす教育の充実に努めなければならない.」と記されている(下線部筆者).

 本校では, 平成11年度より,「希望」と「勇気」と「思いやり」をスローガンに,「個性を輝かせ、目標の実現をめざす生徒の育成」を教育努力目標に掲げ,1.豊かな心を育てる生徒指導とたくましい体力づくり,2.主体的な学習意欲と可能性を伸ばす学習指導法の工夫,3.校内環境の整備と安全教育の徹底,に取り組んできた. 

 プールの中に入っている者が一方向に回って歩き出すと,暫くすると渦ができる.そして一旦,渦ができると,それほど大きな労力を必要としないでも水が回り続けるのと同じで,特色ある教育活動を進めるためには,最初の舵取りが大切である.現在,本校は,いい状態の渦が回っていると考えられる.

 現在の生徒たちの実態では,明るく素直で学校行事等に積極的に取り組む生徒が多い,自分の意見をはっきり言える生徒が増えてきた,部活動が盛んで熱心に取り組んでいる,など好ましい側面をみることができる.しかし,まだ,人間関係の確立に不得手な生徒が増える傾向が見られるなど,今後,取り組まなければならない新たな課題もある.しかしながら,ここ数年の本校の変容は,神戸市の教育基本理念である「人は人によって人になる」をまさに肌で感じさせられた出来事であったように思われる.

 教師が「神格化」されていた時代が過ぎ去り,教師に対する批判の目は,年々厳しくなっている.しかし,目の前の生徒たちは,様々な問題を抱えており,教師に対して新たな期待が寄せられているのも事実である.私たち教師にできることは,生徒たちの世話をすることである.

 本校では,早朝学習会や別室学習,補充学習などを通して,勉強を教えることで一人ひとりの生徒たちと触れ合って,世話をし続けてきた.その結果,短期間の間に、学校秩序が回復し,教育成果が上がってきた. このような本校の学校秩序回復から現在に至るまでの取り組みが,今後の学校経営の指針の参考となることを願いたい.

注釈

注1)平成14年度の生活アンケート調査の結果によると,本校の塾通いの生徒は,1年生52.1%,2年生68.8%,3年生69.7%であった.

注2)学級崩壊,不登校,いじめなど多くの問題を抱える学校現場で心を病む教師が増加していることが報告されている.文部科学省の調査(1999)では,病休した教員は4,470人,そのうち精神疾患によるものは43%,実に在職者500人に一人の割合である8).本校も例外でなく,校内秩序が崩壊していた数年前には複数の教員が一ヶ月以上の病休をとっていた.秩序回復後の病欠は殆どない.

注3)割れたまま修理されていない窓があると、まもなく他の窓も割れる.そうすると,無法状態の雰囲気がたちまち広がり,都市においては落書きや風紀の乱れ,そして深刻な犯罪へとつながるとする理論で,ディヴィッド・ガンが落書き清掃作戦で,ニューヨークの地下鉄再建の支援をしたのは有名である.

注4)平成15年度受け入れた5名の教育実習生の感想の中に次のような記述がみられる.

「垂水中学校は学校の雰囲気が大変温かいと感じました.生徒の皆さんは先生方を誇りに思っているようで,先生と生徒が厚い信頼感で結ばれているという感じを受けました.この学校で教育実習を出来たことを本当に有難く思っています.」

引用・参考文献

1)池田光(1996)中村天風 自分に「奇跡」を起こせ!,三笠書房

2)稲森和夫(2001)成功への情熱,PHP研究所

3)川喜田二郎(1983)チームワーク,光文社

4)松平康隆(1978)チームワーク―組織における実践行動指針―,かんき出版

5)中島一憲(2000)教師のストレス総チェック・メンタルヘルス・ハンドブック,ぎょうせい

6)中村天風(1998)運命を拓く,講談社

7)岡東寿隆・鈴木連邦(1997)教師の勤務構造とメンタルヘルス,多賀出版

8)小川博久(1999)学校のストレス-教師のストレスから見る-,現代のエスプリ別冊・現代的ストレスの課題と対応