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犬の「躾」(しつけ)から学ぶ子育てのこつ

タイトル 犬のしつけ
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今回は、「しつけ」の話です。

時々、教室の机に平気で座る生徒がいます。私は常にこう言って叱ります。

「学校の机は勉強するところでもあるが、昼食を食べる食卓(テーブル)でもあるのだ。あなたは、家でもテーブルの上に座るのですか?」

殆どの生徒は、「はっ」として、跳び上がります。

「しつけ」とは・・・

しつけは漢字で、身を美しく「」と書きますが、この字には音読みがありません。つまり、この漢字は、中国から渡ってきたものではなくて、和製語なのです。「身辺を美しく」という願いを込めて、「しつけ」と読ませたのです。古くは、「仕付け」と書いたそうです。稲の植付けとか、着物の仕立ての粗縫いなど、きちんと整った基本を大事にするということが、人間の成長の基本においても同じだということ意味で、幼いうちから、挨拶や生活習慣などの礼儀作法をしっかり身につけさせることを「仕付け」といったのです。

戦後、基本的人権としての自由と平等が叫ばれ、子どもの自主,自立,自発を重んじた成長が大切とされるようになりました。その中で、頭ごなしに幼い子どもに押しつける「しつけ」は、人権の無視で、しつけは無用という人が出てきました。「しつけ」は押しつけだと言って、しつけ教育に反対する人もいます。しかし、本当に不必要なものなのでしょうか。

子どもにしたい放題させ、しつけを一切しないと、普段の生活の中で、つまらない衝突や混乱を招くばかりです。大事な配慮を経験的に身につけていく前に、いたずらに精神的・肉体的なエネルギーのロスをすることが多いのです。その結果、疲れてしまって、やる気の出ない人間に育ってしまいがちだということが指摘されています。

食事,排泄,衣服の着脱,整理整頓,保健と清潔の基本(入浴,歯磨き,睡眠)などは、幼児期に身についたやり方が、一生の生活習慣の基本型になります。しつけというのは、子どもが将来、立派な社会人として生きるために必要な基本となるものであり、幸せに生きる社会人となるための生活行動基準だと思います。碁でいえば「定石」,柔道や剣道でいえば「」,スポーツでいえば「基本」にあたるものです。これらをしっかりマスターしない限り、人生に勝つことは出来ないと思います。

「人」という文字が二本の棒が支え合って出来ているように、人は一人では生きていけません。常に自分以外の人たちとの関わりの中で生きています。そこで、周りの人たちと、よい人間関係を作っていく必要があります。周りの人たちからバカにされたり、見放されたり、不当に扱われたりすれば、幸せな生活を送ることは出来ません。

頭の中の知識として覚えさせるだけでなく、無意識のうちに体が実践できるようになるまで、しつづけることが大切でしょう。

犬のしつけと子育て

犬のしつけは、6〜10カ月程度で終わります。しかし、人間の場合は、2〜3歳でスタートして第二次性徴期までと考えると、12〜13年ほどかかるのです。

飼い犬をしつけたことのある人はよく分かると思いますが、犬のしつけにはコツがあります。同じように、子育てにもコツがありますが、犬のしつけと子育てに、共通点がたくさんあるのです。そのいくつかについて、まとめてみましょう。

(1)広すぎる犬小屋

犬小屋が広すぎると、警戒せねばならない空間があるということで、犬は落ち着かないなくなります。

子育ての場合、選択肢をたくさん与えすぎるとよくありません。年齢相応に、能力に合わせて自由の幅を広げていってやらないと、不安の方が大きくなってしまうでしょう。

(2)アイコンタクト

犬を育てる場合、飼い主とアイコンタクトを取れるようにしなければなりません。飼い主を意識することで、無用なトラブルが回避できるのです。

子育ての場合も、親の目(顔の表情)でわからせる必要があります。「顔色を伺う」というと聞こえが悪いですが、場の雰囲気を読めるようにならないと、親の指導も入りにくいでしょう。

(3)言葉の理解

犬には、コマンドを短い言葉で統一して教えなければなりません。「おいでcome」「まてstay」「お座りsit」「ふせdown」「ハウスhouse」「よしOK・go」「ダメNO」「お手hand」「おかわりchange」などです。

子どもの言葉の発達には個人差が大きいのですが、基本的には、周りの話しかけが重要です。喃語0~1歳→一語文1~1.5歳→二語文1.5~2歳→三語文2~2.5歳→模倣2.5~3歳→複文3~4歳→コミュニケーション4~5歳→物語5~6歳と言葉が身につくことで、社会性も育ちます。

(4)人との接触

犬の場合、人に触られることに慣れさせなければなりません。首輪をつけたり、体のケアをしたりすることを嫌がらせないことです。

子育てでは、特に幼児までは親子のスキンシップが重要だと言われています。心の安心・安定や健全な成長に繋がるからです。

(5)トイレットトレーニング

犬の場合は、囲い場所でさせるのがよいでしょう。

子どもの場合も同じです。おむつが取れるようになったら、トイレやオマルでトイレをするということをきちんと教えなければなりません。トイレットトレーニングは、道徳心を育てる第一歩です。

(6)食事トレーニング 

犬主導の食事にならないよう、指示がないと食べられないことを学習させなければいけません。

子どもの場合は、何でも口に入れて誤食することのないよう、目を離さないようにするとともに、食事時間を楽しいものにするような工夫が必要です。

(7)毎日の散歩

犬にとって散歩は、運動をさせて単にストレスを貯めないようにするだけではありません。社会性を身につける一番のトレーニングになります。

子育ての場合も同じで、外で遊ぶことが主たる目的ではなく、人と接する機会を多く持って、社会のルールを学ぶすことが大切です。

(8)いたずらを許さない。 

犬の場合は、甘噛みを許してはいけません。はっきりと意志を示す必要があります。

子どもの場合は、危険回避能力を身につけさせることを主眼において、叱る時はきちんと叱るようにしなければならいません。なお、「叱る」と「怒る」は違いますから、注意が必要です。

(9)主従関係を明確にする。

犬は、本能的に目線より上にいる人のいうことをきくのです。従って、日本のように畳の上で犬を育てると、飼い主と視線の高さが一緒になることが多いので、言うことを聞かないことがあるそうです。主従関係を明確にするためには、犬より目線を上にすることが重要です。

子どもの場合は、必然的に視線が上にあることが多いので、さほど視線の高さを意識する必要はありませんし、また、犬の本能と人間の子どもの本能を同じにするわけにもいかないので、主従関係を明確にするという意識は必要ないかもしれません。しかし、親の言うことに素直に対応することは教えるべきでしょう。

犬のトレーニングで大切なこと

犬のしつけのできない飼い主が増えてきたそうで、飼い主訓練士という職業が重宝されています。その飼い主訓練士の話を紹介しましょう。

次に、犬のしつけのポイントを4つあげておきましょう。

しつけの三原則

さて、ここからは、人間の子どものしつけのお話です。

「国民教育の師父」と仰せられた教育哲学者の森 信三先生が、家庭でのしつけに「しつけの三原則」というのを提唱されています。これは、「おはよう」,「ハイ」,「はきもの」の三つです。つまり、

この三つのしつけが身につくと、子どもの「我」がとれるそうです。「我」がとれるということは、素直な気持ちになるということであり、心の受入れ態勢が整うということです。こういう子どもは、何でも吸収し、伸びていくことができます。反対に、「エゴイストに成長なし」と言われるように、「我」の強い子は、心の窓が締め切った状態ですから、風通しが悪く、中の空気もどんどん悪くなっていきます。

しつけのきちんと出来ている子は、将来、必ず伸びます。無理に押しつける必要はありません。たった三つのことを自然に出来るようにさえすればいいのです。

では、もう少し、「しつけの三原則」のそれぞれについて、もう少し詳しく説明しましょう。

(1)あいさつ

あいさつは人間関係の潤滑油のようなものです。普段よくあいさつをする人でも、腹のたっている時や嫌な人には、なかなか気安くあいさつをできないものです。つまり、相手に対して素直でないと、なかなかあいさつはできないものです。あいさつができるというのは、相手を尊重する心があるからです。「笑う門には福来たる」といいますが、あいさつする門にも福がきます。

また、あいさつには、「おはよう」の他、「いただきます」,「ご馳走さま」,「行ってきます(行ってらっしゃい)」,「ただいま」,「ありがとう」,「すみません」,「失礼します」,「こんにちは」,「さようなら」,「どうぞ」,「どうも」,「お願いします」などがあります。なかでも、「ありがとう」は感謝の表現として大切です。家を出る時、「行ってきます」と言って出ていく子は、黙ったまま出て行く子どもよりも、外で事故に遭う確率が少ないそうです。出て行く時の心構えの違いでしょうか。

(2)「ハイ」という返事

次に、「ハイ」と返事の出来る子は、「イイエ」ともきっぱり言えるようになります。つまり、「ハイ」と返事が出来るというのは、自分の主体性をもち、相手の話をきちんと聞ける姿勢ができているということです。こういう子は将来、伸びます。

(3)はきものをそろえる。

最後のはきものについて、はきものを履くというのは、今から家を出て外の生活を始めるということであり、はきものを脱ぐというのは、戸外の生活を遮断し、今から家庭内の生活に切り替えるということを意味します。今まではきものを乱していた子が、はきものをきちんとそろえるようになると、生活そのものが変わります。だらだら生活していた子が、けじめのある,てきぱきとした行動をとるようになります。乱れた生活が引き締まってきます。勉強しなかった子が勉強をするようになり、親に口答えをしていた子が素直に耳を傾けるようになります。やる気のなかった子もやる気を出すようになるといいます。

はきものの締まりは、「生活のしまり」,「心の締まり」,「金の締まり」,「時の締まり」,「礼のしまり」,「性のしまり」,「美の締まり」,「物のしまり」,「場の締まり」につながるのだそうです。

学校の教室では、はきものを履いたりぬいだりする機会のない場合もありますので、「席を立つ時には、椅子をひこう」と言えばいいと思います。

全一学

さて、国民教育の友として多年に亘る献身を捧げ、その生涯から「人生二度なし」の真理を根本信条とし、東西文化の融合をめざして「全一学」いう学問を創唱された森 信三先生の功績についてお話します。

「全一学」とは、東西の世界観の切点を希求するもの,宇宙間に遍満する絶対的全一生命の自証の学,世界観と人生観との統一の学など12項目以上の定義にもとづくもので、要約すると「宇宙の哲理と人間の生き方を探求する学問」となります。
 これらの思想をもとに全国各地で講演を行なうとともに、超大な著書と全国の行脚を通して、「人間の生き方」を懇切・平易に説き、「しつけの三原則」,「学校職場の再建三原則」,主体的人間になるための 「立腰教育」など、その教えは、学校や企業での研修教育に採用されています。

森先生の教えは、つきるところ、人間としてのしつけ教育だといえます。

仕事への構え(型)

2020年の夏、TBS日曜劇場で「倍返し」で有名になった「半沢直樹」が7年ぶりに放映されました。2013年の夏に放送されたドラマの最終回では、42.2%の視聴率を弾き出した驚異のドラマですが、第4話の数々の名セリフが話題になりました。

東京中央銀行がスパイラル買収のために、電脳への500億円もの追加融資を進めようとする中、電脳の収益に不透明な部分があることに気づいた半沢直樹(堺雅人)は融資を食い止めるため、”宿敵”大和田暁(香川照之)と手を組もうとします。しかし、大和田の返事は、『死んでもやだね!』  

半沢が銀行に戻り、帝国航空の再建という難題を担当することになりますが、それを半沢にやらせるよう頭取に提案したのも大和田。大和田は半沢に言います。『施されたら、施し返す、恩返しだ。』

IT企業買収プロジェクトを巡る銀行との戦いに勝利し、出向先から銀行に復帰することになった半沢が、一緒に戦った部下たちに語った場面での言葉。『どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って、日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組というんじゃないかと、俺は思う。』

私は、東京セントラル証券に出向中の部長、半沢直樹(堺雅人)が、のプロパー社員、森山雅弘(賀来賢人)に「闘え」と説く場面でのセリフが一番、心に残っています。

しつけと体罰

フランス人のしつけ

かなり以前の話になりますが、知り合いのフランス人のお母さんが、自分の子どもに対して、私の目の前で非常に厳しいしつけ(体罰)をされるので、意見をしたことがあります。

そうしたら、逆に、

と言って、叱られました。

アメリカが独立を宣言したのが1776年,フランス人権宣言が出されたのが1789年,その後、ドイツのワイマール憲法,ソ連のスターリン憲法,アメリカのルーズベルトによる四つの自由など、各国の人権保障の動きを経て、世界人権宣言が採択されたのが1948年です。人類史上、人権が尊重されるようになったのは、それほど昔の話ではありません。しかし、子育てに体罰がいけないことは、今では周知の事実でしょう。

しつけの一環?

ある年に担任した中学校1年生のH君は、体がとても大きく、いつも周りの生徒に暴力をふるい、けがをさせるような生徒でした。周りの生徒たちからも敬遠され、嫌われていました。

ある時、ちょっとした口論から級友をグーで殴ってけがをさせるという、あまりにひどい暴力をしたものですから、当時、まだ若い教師であった私は、つい腹をたててしまい、「殴られた者の痛みがどれほどなのかわからないのか? グーで殴るのとパーで叩くのは違うだろ?」と言い、思わず手を上にあげました。

すると、彼はとても怯えるように「叩かないで」と泣き出したのです。私はその姿を見て、ハッとし、振り上げた手をおろしました。

その後、家庭訪問をし、ご両親に会って、こんな話をしました。

「お父さんやお母さんは、この子を一生懸命育ててきたと思いますが、これまで、この子に注意をしなければならない時に手を出したことが多いのではないですか。」

案の定、お父さんは小さい頃、自分の父親からよく叩かれたので、しつけの一環として、悪いことをしたら叩くということをして育ててきたと言われていました。

私は、今からでも遅くないので、体罰は絶対にしないようにして欲しいと訴えました。その傍で、お母さんが涙を流していたのが印象的でした。お母さんも、体罰はよくないと思っていたのですが、お父さんには直接言えなかったのでした。

それから、中学3年生になって再び担任をした時のH君は、穏やかな目をし、級友から頼もしいと信頼されていました。

お母さんは、「先生のお陰です。先生が家庭訪問して夫に話をしてくれた後、夫が変わってくれたので・・・。」と言って話してくれました。即座に私は、「それは私の力でなく、お父さんが偉かったからですよ。」という返事をしました。

子どもは親の鏡」と言われますが、親が変われば子どもが変わるのです。

子育ての終わった老夫婦が、初めて犬を飼うことになり、犬のしつけをする中で、子育てと共通点をみつけ、「あの頃にこういうしつけをしておいたらよかった」と感じることがよくあるそうです。

後悔先にたたず」とはこのことです。

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