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「いじめの土壌」を排除する道徳教育

画像 タイトル いじめ
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はじめに

平成 18 年 10 月以降、いじめにより児童生徒が自らその命を絶つという痛ましい事件が
相次ぎ、いじめは大きな社会問題となった。その後、文科省はいじめの定義の見直しを図り、「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント」を出している。


兵庫県青少年の心の問題ネットワーク推進会議は、神戸市,小野市,宍粟郡内の中学生1年生 535 人を対象にいじめのアンケートを行っている。それによると、「無視された」「使い走りをさせる」など、いじめの被害,加害体験の「ない」を0点,「今はない」を1点,「ある」を2点で数値化し、母親との関係をクロス分析した結果、幼少期に母親から「大事にされた」と感じている生徒はいじめの被害体験の平均点が 1.42 点だったのに対し、「大事にされなかった」と感じている生徒は 2.36 点と、大きな開きが出ていることを報告している。

また、いじめの加害体験でも、「大事にされた」生徒の 1.22 点に対し、「大事にされなかった」生徒は 1.50 点で、いじめに関与する割合も高く、さらに、日常生活の 20 項目のストレスでは、「とても大事にされた」生徒に比べ、「全く大事にされなかった」生徒はストレスを感じている割合が大きく上回っていた。これらのことから、「幼少期の子育てが不安定だと、子供がおどおどしたり、逆に攻撃的になったり、いじめに関連してくる」という分析がなされている。前出の文科省「いじめ問題と取組のポイント」の中で、「いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有している」と明記されている通りである。

しかし、家庭教育力が弱くなっている現在、いじめのない社会を形成するためには、家庭の深い愛情や精神的な支え,信頼に基づく厳しさ,親子の会話や触れ合いの確保などを、学校が主体性をもって指導していく視点が必要ではないだろうか。子供のいじめ未然防止のために最も大切なことは、いじめの土壌を排除し、いじめが発生しないような雰囲気を学校の内外に作ることだと考える。

「いじめ」問題の提起

T 中学校に転勤して数日がたち、休み時間の中学1年生の生徒たちの様子を見ていると、大変、気になることがあった。それは、すぐに周りの者に対してスキンシップをはかろうとすることであった。「スキンシップ」というと聞こえがよいが、意味もなく、友達の肩を突いてみたり、ヘッドロックをかけたり、足で背中を蹴って押したりするのである。

当人たちは単にじゃれ合っているつもりなのだろうが、私にはそうは見えなかった。まるで「壁」を叩くように手で触れ、「サッカーボール」を蹴るように足で触れているように感じられた。

いじめというのは、相手を「血の通った人間」として認めないことから起こる。友達を「壁」や「サッカーボール」のようにスキンシップをするところにもいじめの土壌があると考えられた。その後の学年集会で、「小学校時代にいじめを見た者,した者,された者は手を挙げてみなさい」と聞いたところ、実に7割を超える生徒たちが挙手していた。

そこで、早速、学年全体でいじめ問題を考える道徳授業を行った。いじめは他人の生き方を侵す悪であり、決して許されることではないこと,いじめを受けている人に「おまえも悪い」といって、いじめを正当化することはできないということ,さらに、「私は見ていただけ」とか「僕は関係ない」というのはいじめを助長することであり、誰にも言い訳することは出来ない,ということを確認し、いじめ問題に関する三原則として、①するを許さず,②されるを責めず,③第三者なし,としてまとめた。
それから、生徒全員に作文を書かせ、その作品を作文集にまとめた。本論文では、その作文集から見えてきたいじめの構造を明らかにし、「いじめの土壌」を排除するために行った実践についてまとめてみたい。

いじめられる子供のタイプ

これまでいじめを受けてきたと思われる生徒たちが作文の中で自己を客観視している表現があった。これらをまとめてみると、次の4つに分類された。

目立つタイプ

リーダーシップを発揮するとか、成績が良いとか、運動能力が高いという目立ち方ではなく、なんとなく集団から浮くようなタイプで、「みんなと違う」と感じられている。

気の弱いタイプ


いじめられても反逆してこない子供である。おとなしすぎて無口な子供やへらへらと気弱に笑っている子供は、何をしても大丈夫だと思われ、いじめがエスカレートしやすい。

真面目すぎるタイプ

融通が利かない、冗談が通じない、空気が読めない、暗い、と思われる子供も、ターゲットになりやすい。

周りと同じことができないタイプ

周りと同じ事ができない子供である。集団の足を引っ張ってしまうことが多く、周囲に同調できないと、目をつけられやすく、いじめの対象になりやすい。

いじめる子供の理由

これまで「いじめをした」と素直に告白した生徒たちの作文から、いじめには、いじめる側の身勝手な理由があることが読み取れ、次の7つに分類された。


(1)自分と違う人を受け入れられない。
「みんな違って当たり前だ」という感覚が身についておらず、特に外見的に太った子や清潔感のない者、みんなと違う意見を持つ者を特異な者として排除してしまう。


(2)正義感
「この子は集団の和を乱した。私が正してやろう。」といった感覚で、正義感を振りかざし、いじめが始まっている。このケースでは、自分が悪いことをしているという自覚はほとんどなく、いじめがエスカレートしやすい。


(3)優越感(自分の心を守るため)

日常に不安を感じていたり、自分に劣等感を持っている場合、誰かをいじめることによって、優越感を得て心の安定を保とうとする。抑圧された精神のぶつける先を求める行動ともいえる。大変、自分本位な行動といえる。


(4)ストレス解消
過度なストレスを感じていて、誰かにその鬱憤をはらしたいとストレスのはけ口を探しているケースである。


(5)自分がいじめられないため

自分がいじめられないために人をいじめるというケースで、結果的に集団によるいじめになる危険性が高い。


(6)楽しさ

人をいじめことが遊びの一つになっており、快の追求になっている。


(7)家庭環境の問題
家庭で親がきつい言葉を使ったり、暴力をしたりするのが当たり前で、家庭の外で同じ環境を再現しているケースである。
また、一方、親が子供に無関心なケースや反対に干渉されすぎている子どももいじめっ子になりやすい。家ではいい子でいることで親に愛されようとし、ストレスをためている。

「いじめの土壌」排除への取組

次に、生徒の作文集をもとに、いじめの土壌を排除するための方策を練った。
(1)禁止事項・禁句の設定
①好きな者同士や出身小学校別のグループ化
②デジタル(両価性)思考
③他罰的思考
④生徒同士の身体接触
⑤あだ名や呼び捨て
⑥「3D言葉(でも、だって、どうせ)」


(2)日常生活での生徒指導
①言葉遣いの指導
②あいさつの指導


(3)共生意識を高め、豊かな人間関係を構築するために重視した具体的行動
①あいさつ運動の実施
②友達関係の意識改革
「友を持つ(to have)」ではなく、「友と共にある(to be)」の姿勢で友人関係を築く。
③礼儀作法の指導


(4)いじめ撲滅のためのキャンペーン
①いじめ防止スローガン募集
②人権作文集の作成
③夏休み課題「心のポスター」の作成
④保護司協会「社会を明るくする運動の作文コンテスト」への応募
⑤地域のボランティア活動への参加


(5)保護者の再教育と担任教師の研修
①親への教育
 家庭教育のパンフを配布したり、ホームページを利用し、保護者への啓蒙活動を行った。
②頻繁な家庭訪問
③授業参観や学級懇談会の機会の有効利用
④学級通信や学年だよりの定期的な発行義務
⑤通知表所見や個別保護者会での共通理解

まとめにかえて

親として、自分の子供がいじめられた時にできる対策は、①学校の先生とのカウンセリング、②クラスのキーマンのヘルプ、③転校、④随時の抵抗、である。
一方、教師は常に指導態勢を整え、共通理解を図って、いじめが発生しないような社会づくりに努めなければならない。これまでの取組の中で生まれたのが、「いじめ防止三原則」である。最後にこの三原則を紹介してこの原稿を終える。


(1)『いじめはストレス発散の一方法である。』

  だから、健全なストレス発散を考えよ。


(2)『いじめは伝染する。』

  だから、自分がいじめの伝染を断ち切れ。


(3)『いじめは太陽(公)を嫌う。』

  だから、いじめられたらいじめられたと何度も訴えよ。

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