体力テストにみる子供たちの状況
皆さん、おはようございます。
子供の体力低下の危機的状況
文部科学省は、2008(平成20)年度から、全国の小学5年生と中学2年生全員の体力・運動能力調査を義務付けてきました。
2022(令和4)年12月、スポーツ庁より公表された2022年度の全国体力・運動能力、運動習慣等調査(全国体力テスト)の結果をみると、体力合計点は小中学校の男女共に調査開始以来、過去最低を記録しました。
特に持久走は、2018(平成30)年度以降、大幅な低下が続いており、運動不足による心肺機能の低下が懸念されます。

「体力テスト」の実施
「スポーツテスト」
さて、1964年の東京オリンピックの開催を契機に、国民の体育への関心が高まる中、当時の文部省は競技スポーツの発展とともに、国民の体力増進策の一つとして、国民の体力に関する情報収集を実施することになりました。
この「スポーツテスト」には、総合的な運動能力を測定する「運動能力テスト」と、部分ごとの特定の運動能力を測定する「体力診断テスト」の2項目がありました。
10~29歳を対象にしたスポーツテストは次のようなものでした。
1.50m走(走力)
2.走り幅跳び(跳躍力)
3.ハンドボール投げ(10・11歳はソフトボール投げ)(投力)
4.懸垂腕屈伸(10・11歳および女子は斜懸垂腕屈伸)(筋持久力)
5.ジグザグドリブル(10・11歳のみ)(調整力)
6.連続逆上がり(10・11歳のみ)(調整力)
7.持久走(12歳以上)(全身持久力)【男子1500m・女子1000m】
1.反復横跳び(敏捷性)
2.垂直跳び(パワー)
3.握力(筋力)
4.背筋力(筋力)
5.伏臥上体反らし(柔軟性)
6.立位体前屈(柔軟性)
7.踏み台昇降運動(全身持久力)
また、6~9歳を対象とした「スポーツテスト」では、50m走、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、とび越しくぐり、持ち運び走の5種目、また、30~59歳を対象とした「スポーツテスト」には、握力、反復横跳び、急歩、ジグザグドリブル、垂直跳びの5種目が実施されていました。
「新体力テスト」の導入
1999(平成11)年、1964(昭和39)年から34年間実施されてきた「スポーツテスト」に代わって、「新体力テスト」が導入されました。
「新体力テスト」は「スポーツテスト」のアップデート版といえるでしょう。国民の体力・運動能力の現状把握するための体力・運動能力調査のために、「新体力テスト」が利用されています。
「新体力テスト」では「スポーツテスト」よりテスト項目が減り、対象年齢の増幅や細分化がなされました。テスト項目は、年齢区分により異なっています。ここでは12歳~19歳の項目を示しておきます。
1.50m走(走力)
2.立ち幅跳び(跳躍力)
3.ハンドボール投げ(投力)
4.握力(筋力)
5.反復横とび(敏捷性)
6.長座体前屈(柔軟性)
7.上体起こし(筋持久力)
8.持久走【男子1500m・女子1000m】又は20mシャトルラン(全身持久力)

なぜ? 「スポーツテスト」→「新体力テスト」
体力テストの種目が変化した主な理由は、以下の通りとされています。
①日本人の体格が変化により、従来のテスト項目では妥当性に欠けるため。
②実施の安全性を確保するため。
③行いやすさを重視し、データ獲得の継続性を担保するため。
④日本人の平均寿命の伸びや高齢化の進展に対応するため。
また、減少種目とその理由は、次の通りです。
●踏み台昇降運動
(1)児童生徒の身長が平均的に大きくなり、踏み台の高さが不適になった。
(2)測定時間に長くかかる。
(3)記録の誤差が発生しやすい。
●背筋力
(1)実施目的である背筋の測定が不十分
(2)姿勢や動作に怪我のリスクがある。
●伏臥上体そらし
(1)測定目的である柔軟性が背筋力に左右される。
(2)実施姿勢や動作に怪我のリスクがある。
●斜め懸垂腕屈伸
(1)難易度が高い。
(2)誤差が大きい。
●立位体前屈
(1)転倒事故が多い。
(2)腰痛などのリスクが高い。
しかし、実は、それだけではありません。
一番の要因は、運動能力の低下により、測定しても結果が出ないことでした。
例えば、ひと昔の子供たちは、雲梯(うんてい)で遊んだりしていましたので、懸垂腕屈伸をさせると、数回程度はやっていましたが、今の子供たちはぶら下がるという運動をすることが少ないので、クラスの平均値を取ると、なんと0点台なのです。

また、走り幅跳びをさせると、片足で踏み切り、両足で着地するという動作ができず、そのまま走り切って終わる子供が続出するので、記録が取れません。

つまり、「できないことをできるようにしよう」という発想ではなく、「できないから辞めよう」という意見によって、体力テストの種目は変化したのです。
30年余りも国民の体力テストを継続してデータを残している国なんて、日本でしかありません。当時、体力テストの変更に関して、現場の体育教師としての立場からも随分反対をしましたが、押し切られてしまいました。
子供の体力の推移
次のグラフは、「スポーツテスト」が開始された1964年から、1999年の「新体力テスト」を経て、持久走の大幅な低下が始まった2018年前年(2017年)までの50m走と持久走の年度推移を示したものです。
東京オリンピック後、1970年代は高水準を示し、2000年前後はオリンピック前の状態に戻ったものの、2017年では再び、1970年代の高水準になっていたことがわかります。


オリンピックでのメダル獲得
ところで、1964年の東京オリンピック開催後、スポーツテストを実施するようになったのは、開催国で355人もの当時としては大量の選手を送ったにもかかわらず、ソ連の96個、アメリカ合衆国の90個、ドイツの50個には遠く及ばず、日本は金16個、銀5個、銅8個の計29個のメダル数に終わったことの反省にありました。
しかし、1984年、ソ連など東側諸国が不参加だったロサンゼルス大会では、金10個、銀8個、銅14個の計32個と躍進しましたが、その後も、低迷が続きました。

オリンピックのメダル総数を見てみると、次のような傾向が見てとれます。
・1968年(メキシ)~1984年(ロサンゼルス):平均27個/4大会
・1988年(ソウル)~2000年(シドニー):平均17個/4大会
・2004年(アテネ)~2024年(パリ) 平均40個/6大会
特に2004年のアテネオリンピックでは、日本のメダル獲得数は、金16個、銀9個、銅12個の計37個と急増しました、その理由には以下の4つが考えられます。
1. 科学的トレーニングの導入と「チーム」によるサポート
それまでの根性論主体の指導から脱却し、専門家集団が結成され、科学的根拠に基づいた高度なトレーニングシステムが導入されるようになりました。
2001年にはJISS(国立スポーツ科学センター)が設立され、最先端の施設でのデータ分析や多角的なサポートが可能になり、世界のトップレベルと競う基盤が整いました。
たとえば、競泳の北島康介選手の「チーム北島」など、コーチだけでなく、映像分析、戦略分析、肉体強化、コンディショニング(マッサージ等)の専門家が連携して選手を支える体制が構築されました。
2.JOCによる戦略的な強化体制
日本オリンピック委員会(JOC)が主導し、国を挙げた選手強化策が実を結びました。指導者の育成や競技環境の整備、調査・情報収集など、選手が競技に専念できる多岐にわたる事業が展開されるようになりました。
そして、アテネ大会には、選手312人、役員201人の総勢513人と、史上最大規模で臨みました。
3. お家芸スポーツと女子競技の躍進
柔道や水泳といった伝統的な「お家芸」での圧倒的な強さに加え、女子競技での活躍がメダル数を押し上げました。
柔道では、谷亮子選手や野村忠宏選手(3連覇)らの活躍により、計8個の金メダルを獲得しました。
また、レスリングの吉田沙保里選手や伊調馨選手、マラソンの野口みずき選手、競泳の柴田亜衣選手など、多くの女子選手が金メダルを獲得し、メダルラッシュを牽引しました。
4.愛国心の復活
オリンピックのメダル数は、若者の愛国心の指標です。
1980年代初頭、歴史教科書問題や慰安婦問題が発生し、その後、蔓延した自虐史観教育により、国家は悪いものという通念が広められました。その頃に教育を受けた青年たちがオリンピックに参加する年頃になると、「国のために頑張る」とは言えなくなり、「オリンピックを楽しみたい」などという言い草が流行しました。
自分の楽しみのためにオリンピックに参加したのであれば、競技の苦しさに耐えきれずにメダルをとれなくとも「もういいや」と諦めてしまいます。
しかし、1999年に国旗国歌法も成立し、自虐教育も薄らぎ、愛国心の高まりとともに、国の代表として頑張ろうとする姿勢が復活しました。この姿勢が、2004年以降のメダル数の倍増に繋がったと考えられます。
子供の体力低下が招くことは
オリンピックメダル獲得数は増えたけれど・・・
1964年の東京オリンピックのメダル獲得が少なかったことから始まったらスポーツテストは、新体力テストに変わり、種目を変更しながらも継続されてきました。
そして、2004年のアテネオリンピック以降、日本のメダル獲得数は急増していますが、2018年以降、体力テストの結果の方は大幅なダウン状態が続いています。
特に持久走の低下が目立ちます。
持久力の低下
持久走の低下は、心肺機能の低下の懸念だけではありません。肥満や生活習慣病(糖尿病など)のリスク増加、疲れやすい体質、意欲や気力の低下を招くでしょう。また、ストレスに対する抵抗力の低下や精神的な未成熟、学力への悪影響もあると思います。将来の健康的な生活の質(QOL)を低下させる可能性もあるでしょう
●健康へのリスク:肥満、生活習慣病、体力低下による免疫力低下
●運動・精神面の課題:少しの運動で疲れる、根気不足、ストレス耐性の低下、意欲の低下
●社会性・学力の低下::コミュニケーション力の低下、学力や知的好奇心への悪影響
●将来の運動習慣への影響:運動嫌い、生涯体育・スポーツに消極的になる。

走姿顕心(そうしけんしん)という言葉があります。「走る姿に心が顕れる」という意味ですが、スポーツ選手への戒めの言葉であり、東都大学の野球部もこの言葉を大切にしているそうです。
つい先日、市内の中学校体育授業を参観する機会がありました。中学2年生の持久走の授業で、2グループに分け、一方が200mトラック10周(2000m)を走り、ペアの生徒が周回タイムを記録するという内容の授業でしたが、本当に唖然としました。
2000mの距離なので、速歩のペースでも20分程度で全員走れるだろうと見ていたら、約半数の生徒たちが走り切れず、途中で平気で歩くのです。
少しばかり歯を食いしばって苦しさを乗り越えようとしない生徒たちの姿を見て、これでは、学力も伸びないだろうと感じました。


教養を身につける観点
ところで、今、泳げない人が増えています。

原因は、小中学校の体育授業では、泳ぎ方を教え込むという授業をされておらず、「水慣れしよう」など、水遊びが中心となっていること、課外でプール教室を行わうことがなくなったこと、プールの老朽化や指導力低下の問題から短時間、外部のスイミングスクールに依頼して授業を行うことが増えてきたことがあげられるでしょう。
最近は、もっとひどい話があって、中学・高校の体育の先生でも、泳げない人が増えているのです。教員になり手がないことから、採用試験での実技種目が精選され、水泳を実施しない自治体が増えてきたことも一因でしょう。
一体、泳げないという人が、生涯に渡って水泳を生涯スポーツとして楽しむようになるでしょうか?
「泳げる」というのは、教養を身につけているということだと思います。

同じように、体力テストの結果が優れているというのは、生涯スポーツを実施するための教養を身につけているということだと考えます。
子供たちの体力低下は、外遊びの減少、テレビやゲーム画面の視聴時間の増加、歩く機会の減少などが要因として挙げられるでしょう。
オリンピックのメダル獲得数よりも、子供たちの体力向上は、緊急の課題として国をあげて取り組まなければならないと思います。
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まとめ
1964年の東京オリンピック後に始まったらスポーツテストは、新体力テストに変わり、種目を変更しながらも継続されてきました。
2004年のアテネオリンピック以降、日本のメダル獲得数は急増していますが、2018年以降、体力テストの結果の方は大幅なダウン状態が続いています。特に持久走の低下が目立ちます。
持久走の低下は、心肺機能の低下の懸念だけではありません。肥満や生活習慣病のリスク増加、疲れやすい体質、意欲や気力の低下を招くでしょう。また、ストレスに対する抵抗力の低下や精神的な未成熟、学力への悪影響もあり、将来の健康的な生活の質(QOL)を低下させる可能性もあるでしょう
体力テストの結果が優れているというのは、生涯スポーツを実施するための教養を身につけているということだと考えられます。オリンピックのメダル獲得数よりも、子供たちの体力向上を緊急の課題として国をあげて取り組まなければならないと思います。
