生徒指導にマニュアルはない。
生徒の問題行動には、大きく分けて、反社会的な行動と非社会的な行動があると思います。
反社会的な行動とは、対教師反抗,喧嘩・暴力,器物破損など、エネルギーが外に向く行動です。
一方、非社会的な行動とは、不登校,喫煙・飲酒,性的異常など、エネルギーが内に向く行動です。
いずれにしても、生徒が問題行動を起こした時、ケース・バイ・ケースに対応することが
大切だと思います。
生徒指導にはマニュアルはありません。
生徒一人ひとり、顔が違い、複雑な精神構造をもった人間なので、全く同じ方法で対応することはできないのです。
問題行動にどのように対応していくかは、時代に応じ,地域や学校事情に応じ,また、個々
の児童・生徒に応じ,常に柔軟な頭をもって対応していく姿勢が大切です。ちょうど、和食の料理人が、レシピに頼らず、自分の舌で味を覚えながら腕を磨くのと同じように、問題行動に対応するには教師としての経験や勘が必要なのです。
従って、問題行動に対応するコツというのも経験的につかまなければならないことなので
すが、いくつか生徒指導,特に問題行動に対応する心構えを7つ述べましょう。
問題行動対応の心構え7選
①罪を憎んで人を憎まず
生徒は問題行動を起こすものです。特に中学生は子どもから大人になる「中間人」で、精神的に不安定な時期です。問題行動があって当たり前と思っていて間違いないでしょう。その時、大切なことは、問題行動を起こした生徒を憎んではならないということです。生徒に好き嫌いの感情をもって接することは、教師として厳に謹まなければならないことです。
また、体罰については、法的に禁止されているだけでなく(学校教育法第11条,法務省通達「生徒に対する体罰禁止に関する教師の心得」)、教師として、絶対に許されるものではないことを自覚しなければならないでしょう。プロの教師として、体罰に寄らない指導を模索するべきです。今の時代、体罰が問題となった時の代償は図り知れません。「教師は時には生徒を本気で叱らなければならない。だから時には体罰も仕方ない。」という人がいますが、体罰は法治国家日本を破壊する行為でもあり、私は本気で叱ることを徹底的に演じることのできる教師になりたいと思います。
②1.5mのディフェンス
バスケットボールでディフェンスをする時、相手選手との距離をいかにとるかが重要だと言われています。あまりに近づき過ぎたタイトな関係では、穴が多くなり、抜かれてしまいます。反対に、3m以上も離れていては、ディフェンスの役を担っていません。バスケットボールのディフェンスは、1.5mが最も理想です。
問題行動を起こす生徒との人間(じんかん)距離をしっかりキープすることです。あまりに近づき過ぎてもダメだし、離れてしまっていても効果はありません。
特に、近年、セクハラの問題がクローズアップされてきており、男性教師が女子生徒を指導する際には、密室で二人きりにならないようにするなど、特に注意が必要です。
私は、生徒同士、お互いに身体に触れることを禁止します。お互いを尊重し合う関係を築くためにも、不必要に肩を組んだり、手を繋いで校内を歩いたりすることは、お互いの自立心を阻止する行為だという話をします。男子生徒が身体を押しつけ合っているところから、いじめや暴力が発生したり、女子生徒が手を繋いで歩くことから、自立心の育成が妨げられたりすることがあるように思います。人が人の身体に触れることのできるのは、①大人が子どもを躾る時,②スポーツでお互いの合意(挨拶)をした時,③愛情表現として,だけです。
教師が安易に中学生の生徒の身体に触れるのも、決してよくありません。幼い子どもなら抱っこし、頬ずりをし、抱きしめて育てればいいと思いますが、その感覚で自立を目指す生徒たちを指導するのはもってのほかでしょう。
③ほうれんそう
一般によくいわれる「報告」・「連絡」・「相談」のことです。学級の問題を一人で抱え込まないということが大切です。「一人の十歩より、十人の一歩」と言われるように、教師間の共通理解を図り、学年間・学級間で同一歩調の指導を心掛けるべきです。
教師集団は、教科指導の際にはそれぞれが特技とする技能をもって指導に当たる「桃太郎集団」でよいわけですが、生徒指導に関しては、誰に聞いても同じ答え,誰が言っても同じセリフが大切で、「金太郎飴」集団でなければなりません。
④「緊急」と「重要」
生徒指導には、「緊急でも重要でもない」ことや「緊急だけれど重要でない」ということは有り得ません。「緊急であり、かつ重要なこと」を最優先しなければなりませんが、これは見方を変えると、チャンスを生かすということです。視覚,聴覚,臭覚,味覚,触覚の五感と教師の第六感を働かせ、「速い反応」「広い視野」「鋭い感覚」が求められます。
しかし、最も力を注ぎたいのは、「緊急でないが重要なこと」です。これは、問題行動の予防に繋がります。問題が起きたから走り回るのではなく、普段いかに予防を重視しているかが大切です。
校内巡視や朝の校門指導,週番活動などは、すぐに効果がみえないので、教師も忙しさを理由にサボりがちになりやすいのですが、問題行動が起きてから走り回ることを考えれば、小さな労力です。
⑤全体指導か個別指導か
生徒を指導する際、まず、全体に指導する必要があるのか、個別に指導するべきなのか、よく見極める必要があります。例えば、ある教室でガラスが割れたことに対して、クラスや学年全体に落ち着きがなく、休み時間に廊下を走り回っている生徒が多くて、そのためにガラスが割れたのでしたら、全体指導をしなければならないでしょう。しかし、ある生徒が万引きで補導されたことを学年集会や学級会ですぐに取り上げ、指導する必要はありません。
生徒は個々に様々な問題行動を起こします。それを一つひとつ取り上げ、全体指導を繰り返していると、集会や学級会が注意を受ける場になってしまいます。そうすると、学年集会や学級会を開いても、生徒がやる気をなくし、中には逃避する生徒が出て、逆効果になってしまいます。叱るのは個別指導で行い、全体指導では褒めることを多くする方が効果的だと思います。
また、個別指導では教師の私的な話があってもいいと思いますが、全体指導は公的な話をしなければなりません。全体指導の場や授業中、特定の生徒だけをニックネームやファーストネームで呼ぶ教師もいますが、ある生徒には「○○ちゃん、答えてごらん。」と言い、違う生徒に苗字で「□□、わかった?」と言うのは、差別的な行為です。生徒はそういうことに敏感で、いいニックネームをつけてもらえなかった生徒やファーストネームで呼んでもらえなかった生徒が、その教師の指導を感情的に受け入れることのできないことがあり、後々、指導に困ることがよくあります。
そもそも、ニックネームやファーストネームで呼ぶというのは、私的な場で、親密な関係にある者同士のすることであり、生徒の前で教師が教師をニックネームで呼ぶのも、決してよくありません。
しかし、生徒を個別に指導する時は、ニックネームやファーストネームで呼ぶことは非常に効果的です。例えば、家庭訪問をして、保護者の前で生徒を「○○ちゃん」と呼ぶことは生徒も親しみを感じ、心を開いてくれるでしょう。
教師が公的に話す時と私的に話す時のけじめをつけると、生徒たちも、時と場に応じて、きちんと敬語を使えるようになってきます。
⑥教育相談
担任が行う教育相談には、生徒のもつ問題そのものを話し合いによって解決する治療的な援助と、生徒自身が問題を解決していく能力を身につけるように援助していく開発的な援助があります。
また、相談の方法には、グループ相談,個別相談,日記・手紙相談,電話相談などがあり、相談の機会には、定期相談,呼びかけ相談,自主相談,チャンス相談などがあります。いずれの形態にせよ、カウンセリング・マインドを学び、生徒を正しく理解していくことが必要です。
特に家庭で家族との会話の少ない生徒や問題行動の多い生徒ほど、教育相談を望んでいる傾向があります。教育相談週間などを設けて、学期に1回は、クラスの生徒全員の教育相談を計画すべきでしょう。
⑦教師の力量を高める。
「教育は『人』なり」といわれます。教師の力量次第で、クラスは大きく変わります。そこで大切なことは、教師としての力量を高める努力を常に怠らないということです。教師も人間ですから、年齢を重ねます。年齢とともに、生徒や保護者の教師をみる目が変わってきます。20歳台の時の指導が40歳では通用しないこともしばしばあることです。
また、時代とともに、生徒や保護者の考え方も変わってきています。「十年一昔」といわれますが、最近の時代の変わり様の早さは、3年スパンで考えないといけないのではないでしょうか。パソコンは、Windows-95が出た時、画期的な進歩を遂げましたが、その後、2,3年ごとに、Windows-98 ,Windows-2000,Windows-Me,Windows-XPと大きく進化しています。進路指導にしても、3年前にやったことなど殆ど通じません。
様々な生徒に対応するためには、教師は、年齢に応じ、時代の変化に対応し、常に教師自身の人格的力量を高めるための努力をしなければなりません。「経験」を積むだけで教育者として一人前になれる時代ではありません。「理論」と「実践」を重ね、常に向上している教師こそ一人前の教育者になる資格を得るのです。
生徒を指導する際に・・・
生徒を指導する際の教師の立場には、大きく分けて2つあると思います。
生徒たちが井戸の中にいるという姿を思い浮かべてください。教師の立場には、教師が井戸の上から下を覗いて「ここまで上がっておいで。」という立場と、教師自らが井戸の中に入って「さあ、一緒に登ろう。」という立場があると思います。前者は引き上げる立場,後者は押し上げる立場になるでしょう。
このどちらの立場で指導するかは、ケース・バイ・ケースです。一番よくないのは、上から眺めて何もしない教師でしょう。しかし、下に一緒に入っても押し上げる力をもっていない教師であったら、それも上から眺めて何もしないのと同じことです。