4-1 学習指導のコツ
勉強法を教える。
オリンピックの100m走決勝を見るといつも思うこと・・・人がその能力を発揮するのは、素質によるものか、それとも環境によるものか、古今東西、見解の分かれてきたところですが、素質の占める割合は大変大きなものでしょう。勉強ができる、できないというのも、本当のところ、素因の占める割合が大きいのかもしれません。
・「瓦は磨いても玉にはならぬ」
・「梅は蕾より香あり」
・「漆は剥げても生地は剥げぬ」
・「啄木鳥の子は卵から頷く」
・「朽木はえる雕るべからず、糞土の牆は塗るべからず」
いずれも、素質が重要であるとする諺で、素質のない者はいくら教育してもダメであることの譬えですが、教育に携わる者である限り、努力が重要であるとする説を主張するべきでしょう。
・「瓦も磨けば玉となる」
・「十年一剣を磨く」
・「小水、石をも穿つ」
・「駑馬十駕」
・「人一たび之を能くせば、己れ之を百たびす」
特に、学業成績は、IQ(知能指数)などで測られる頭の良し悪しにだけ影響されものではありません。学業成績は『量』と『質』,それに意欲の三つの掛け算で決まるのです。
「学業成績=学習意欲×学習時間×能率(勉強法)」
これら三つのうち一つでも「0(ゼロ)」だと成果があがりません。『やる気』を起こさせ、十分な学習時間を確保し、勉強法について教えるようにしましょう。
「少年よ、大志を抱け」
『やる気』を起こすには、自己暗示が最も大切だといわれています。まず、生徒たちに、
「やれば出来る」ということを生徒たちに繰り返し繰り返し説き、プラスの自己暗示をかけてさせて、学習意欲を喚起することが大切です。
中国の歴史書「後漢書」の中に、「有志者事竟成也」(こころざしある者は事ついに成る)という言葉が出てきます。日本にも、「信念、岩をも通す。」という言葉がありますが、「志」を持ち、それを信念として持ち続けさせることで、学習効果は高まると思います。生徒一人ひとりに具体的な目標や課題を持たせるようにしましょう。そして、努力した過程に目を向け、褒めるようにしましょう。褒めるというのは、生徒たちにプラスの他者暗示をかけ、それが自己暗示に転化するのを待つということです。
担任が「このクラスはやればできる生徒たちばかりだ。」と1年間言い続ければ、ピグマリオン効果が発揮されて、本当に出来る生徒たちばかりになります。
量質転化
南郷継正という空手家が、「質的な変化を起こすには、量的な蓄積が必要だ」ということを述べています。学業成績は「学習意欲×学習時間(量)×勉強法(質)」のかけ算でほぼ決まりますが、なかでも、学習時間(量)が最も大切な要素です。量をこなすから、自分にあった勉強法も発見できるのです。
勉強が「わかる」ようになるのは、ある程度の時間(量)が必要です。勉強はじわじわとわかるようになるのではありません。わからないといってとどまらず、時間をかけて前に前に進んでいれば、ある瞬間に、電光石火の如く、ぱっとわかるようになるものです。何回も失敗を繰り返して練習しているうちに、ある日、鉄棒のさか上がりが出来るようになったり、自転車が乗れるようになったりするのと同じです。
私は生徒たちに「36回復習しよう」と言います。脳に36回の刺激を与えると、神経が結びつき、記憶として残るのだそうです。「机」や「椅子」という言葉をこれまでに36回以上インプットしてきたから忘れないのであって、”desk”やchair”という単語も36回書いて覚えなさいというわけです。
魚の取り方を教える。
ボランティア精神のルールに、こんな言葉があるそうです。
“Give a man a fish, and he’ll eat for a day.
Teach a man to fish, and he’ll eat forever.”
児童・生徒に直接勉強を教えることも大切ですが、それよりも学習意欲を喚起し、勉強法を教える方が効果的です。1日は24時間と限られていますので、効果的な勉強法を学ばせることは非常に重要な要素です。勉強法にも千差万別ありますが、自分にあった勉強法を見つけ出すことは、今後の人生においても、大きな影響を及ぼすと思います。
ポーランドのザメンホフという言語学者は、
「繰り返すことは最良の勉強法である。」
という言葉を残しています。復習の大切さを教えなければなりません。特に定期テストが終わった後、テスト直しをさせることは非常に大切です。テスト直しを提出させるクラスとそうでないクラスでは、3学期にもなると、平均で10点以上も差がつくことも希ではありません。
また、アメリカでは、心理学者たちが効果的な勉強法について専門家の意見を百以上集め、最重要の十項目を『勉強十教訓』として発表しています。
(1)決まった時間に決まった場所で決まった科目を勉強する。
(2)どんな時でも自分一人で勉強するという気持ちで勉強する。
(3)勉強したことは必ずノートにとっておく。
(4)勉強中、気が散らないようにする。
(5)学習のよい環境をつくる。
(6)本は詳しく読む前に、全体をさあと読む。
(7)本はできるだけ速く読む。
(8)勉強の後、すぐ暗唱する。
(9)いつも問題をもって学習する。
(10)勉強内容を人に教えるように声を出して説明してみる。
この他に、先輩たちから勉強法について話を聞いてみるとか、効果的な勉強法を紹介し合うというような機会を得るとよいでしょう。
勉強法に関する本もたくさん出ています。機会あるごとに、クラスで勉強法の紹介をするのも生徒たちが関心をもつ方策のひとつです。
教科指導を支えるために・・・
殆どの中学校は教科担任制を敷いています。学級担任と教科担任は相互に連絡を取り合い、同一歩調で指導にあたらないといけません。
ここでは、学級担任として日常生活の中で心掛けたいことについて三つあげましょう。
まず、「けじめのあるクラス作り」です。年度当初に授業時の学び方のルールをきちんと決め、折に触れ、指導していく必要があります。例えば、チャイム着席,授業始めと終わりの挨拶、礼儀正しい態度、正しい言葉遣い、「ハイ」という返事、私語・立ち歩きの禁止、発表方法、忘れ物、提出物、遅刻・欠課などについてのルール作りが必要でしょう。また、担任は、時々、教科の授業を観察するようにしましょう。私は、時々、自分の空き時間に、箒とちり取りを持って廊下を回るようにしています。窓越しに自分のクラスを見るだけで、教科の授業の様子がよくわかるものです。勿論、教科担任とよく話をするようにしています。そして、帰りの短学活では、日番からその日の授業の様子を報告させています。
次に、「仲間作りのできているクラス作り」です。仲間作りのできているクラスは、生徒間に心の触れ合いがあり、明るく伸び伸びとしていて話し合い活動も活発に行われます。
授業中に発言や意見が活発に行われているかどうか、担任は常にチェックしなければなりません。特に、クラスの仲間が発言している時に、冷やかしや嘲笑のあるクラスは要注意です。また、元気のいい特定の者だけしか発言しないクラスも、一方的な意見しか通らなくなり、注意しなければなりません。
そして、最後に、「教科担任に好かれるクラス作り」です。教科担任も人間ですから、授業をしやすいと思うクラスとそうでないクラスがあります。授業をしやすいと思うクラスでは、授業中の四大教師行動、マネージメント,巡視,相互作用,直接的指導のうち、相互作用が多くなり、授業にも熱が入ります。当然、クラスの成績も伸びてきます。教科担任に好意を抱いてもらうためには、学級担任と教科担任との人間関係も影響します。普段から教科担任に必要な情報を提供し、良好な人間関係を築いておくことが大切です。また、生徒たちには、授業以外の場面でもよく質問をするように働きかけ、各教科担任のよい個性や長所を話しておくようにした方がいいでしょう。生徒たちは教師を「良い」か「悪い」の二者択一で判断しようとする傾向があります。
私が以前勤めていた学校に、教師間で「悪い」と評価されているある美術教師がいました。教師としての仕事を嫌がり、共通理解したことを守らないので、教師間で浮いた存在でした。そうすると、独身で年齢以上に老けた風貌であったことも災いして、生徒たちもその先生を「悪い」と決めつけ、美術の授業が成り立たなくなり、空き時間の教師が監視にいかないといけないという状態になってしまいました。ところが、その教師は、大学院出で、美術教師として非常に高い知識と能力を持っていたのです。私のクラスでは、生徒たちに、その教師の美術教師としての能力の高さをよく話すようにしていました。そうすると、生徒たちはその美術教師を尊敬するようになり、その教師からも「先生のクラスは授業がしやすい」と言われ、他のクラスより数段高いレベルの授業をしてもらっていました。勿論、私も空き時間に監視など行く必要もありませんでした。
生徒たちは好きな教科と嫌いな教科をあげますが、嫌いな教科を好きにし、得意にするコツは、その教科の教師を好きになることです。「100%いい人間がいないように、100%悪い人間もいない。その何%かでもいい所を見つけ、好きになりなさい。」と話すようにしています。
学習計画を立てさせる。
学校教育活動では、Plan【計画】→Do【実践】→Check(See)【評価】→Axtion【改善】のサイクルを確立することが大切だと言われます。これは、生徒たちが学習をする上でも同じです。
学習の効果を最大限にあげるには、「ムダ・ムリ・ムラ」のない計画を立て、実行し、それを反省して次に役立てるようにすることが大切です。
これらの中で、最も重視したいのが、学習計画Planです。私は、生徒たちに、「成功の鍵は、計画にあり。ムダ・ムリ・ムラのない計画を立てること。計画が8割、実行が2割」と話しています。テスト前に出題範囲が発表されたら、学習計画を立てさせ、点検するようにしましょう。長期休業前にも学習計画を立てることも重要です。
また、毎日の学習にも週単位で計画を立てて実行するというような習慣を身につけさせたいものです。「進度表」をつけさせることは、大変効果的です。
家庭学習の習慣作り
学習の定着には、家庭学習の習慣が欠かせません。家庭学習の実情は、実態調査や個別指導を通して、できる限り把握するとともに、家庭訪問や保護者会などの機会を生かして、家庭学習への助言を与えたり、保護者の協力を要請したりすることが大切です。生徒たちは、成績の善し悪しを頭の善し悪しと判断し、成績の悪い生徒は諦める傾向があります。しかし、実際、成績のいい生徒は家庭学習の時間も長いことを伝え、家庭学習の必要性を説く必要があるでしょう。
また、今の生徒たちは、塾や家庭教師で習っていることが当然のようになっています。その功罪について、担任としての意見を持っておくべきでしょう。そのためには、実際に、塾や家庭教師との情報交換や懇談も必要だと思います。経済的な理由などで、生徒全員が塾や家庭教師で習うことはできません。塾や家庭教師に行っていないと成績が上がらないと言って諦めてしまうことのないように、指導することが大切です。
最後に、読書指導を重視しましょう。『知は力なり』という言葉で有名なイギリスの思想家フランシス・ベーコンは、政治や哲学,宗教などあらゆるものをきちんと構造化し、明快な文章で表現しています。ベーコンが大の読書家であったそうですが、「読書は充実した人間を作り、書くことは正確な人間を作る。」と述べています。林 公という人が朝の10分一斉読書運動を提唱していますが、読書の習慣つけることは、考える生徒を育てることにも大きな効果があるようです。
質の高い授業を実現しよう。
1時間の授業は、1人で勉強するときの3倍~5倍の情報量を含んでいると言われます。毎日の授業を充実させ、質の高い授業(ハイクォーリティな授業)にすることが対策になります。質の高い授業とはどのようなものでしょうか。
私語のない授業
質の高い授業とは、静かな環境で行われる授業です。
教室がうるさく、教師の話が聞きづらく、教師の注意によって授業が中断される授業は最悪です。そのような中で行われる授業は、質の高い授業とはとうてい呼べません。教師の声が自然に耳に入ってくるような静かな環境が大切です。そこで、提案の一つは、「先生が説明するときは絶対に私語をしない」です。
かなり以前のことになりますが、奈良教育大学附属小学校で行われた土谷正規先生の体育授業の参観に行ったことがあります。小学5年生の器械運動の授業でしたが、本当にびっくりしました。1時間、誰一人として私語をすることなく、「しーん」とした雰囲気の中で、児童たちは様々なマット運動や跳び箱・平均台などの運動に取り組んでいるのです。
「忍者体育」と題して、小学1年生から継続的に器械運動をしてきたそうですが、殆どの児童たちはバク転をし、7段の跳び箱で前方前転跳びをこなしています。そのレベルの高さにも驚きましたが、静かな環境で授業が進んでいることに感動しました。土谷先生曰く、「子どもたちが集中して技に取り組む時は、体操競技の試合と同じように緊張感と集中力が必要なので、必然的に静寂の状態になる」のです。
一般に体育の授業というと、子どもたちがワイワイ言いながらやるべきものというイメージがありますが、子どもたちが本当に集中してプレーする時というのは、声は出ないものです。野球部やバレーボール部の指導者が、よく「声を出してプレーしろ!」と言いますが、実際、プレーしている瞬間は声が出ないものであり、もし声を出しながらプレーすると、ミスに繋がることが多いと思います。
反応のある授業
質の高い授業とは、児童・生徒が教師の「発問」に「反応」する授業です。
「発問」とは、授業中に教師が児童・生徒に対して行う質問や指示のことです。
例えば、「(-5)×3は何ですか」は「発問」です。授業は、教師の発問に生徒が反応する(応える)ことによって成立します。実際、授業は「聞きなさい」「書きなさい」「発表しなさい」「話し合いなさい」などの教師の指示によって進められます。児童・生徒が教師の指示に従わず勝手なことをしていると授業は成立しません。
質の高い授業の条件とは、「聞きなさい」「書きなさい」「発表しなさい」「話し合いなさい」といった教師の指示に従って生徒がきちっと反応することです。
教師は計画的に発問をしなければなりません。例えば、「この説明をした後で、このような質問をすれば、説明のある部分がヒントになって、生徒は、ある考えに気づくだろう。」といったような予想をもって教師は発問をするわけです。
また、教師は、難しい問題を複数の易しい問題に分けて、複数の易しい問題に答えさせることによってもとの難しい問題に答えることができるように工夫して発問を行います。 このように発問には、生徒の考えることを助け、正しく導く機能があります。注意すべきことは、生徒が、教師の発問(助け)をかりて考えることを繰り返してくうちに、発問がなくても正しく考えることができるようになっていくことです。
あ・・・明るくあいさつ
い・・・一生懸命
う・・・うきうき
え・・・笑顔
お・・・おもしろい
児童・生徒への指導
質の高い授業は、児童・生徒の学力を大きく伸ばします。
質の高い授業を実現するには、教師と生徒の協力が不可欠です。授業は教師と生徒で創りあげるものです。質の高い授業にするために次のことを実践させましょう。
- 私語をせず、先生や友達が説明や発表をしているとき耳を傾ける。
- 先生の発問に一生懸命に反応するよう努める。
- 予習・復習をする。
授業改善;生徒指導の機能を生かす授業10箇条
「生徒指導の三機能」とは、『自己決定』『自己存在感』『共感的人間関係』の
ことです。
教師として、以下の10項目をチェックしてみましょう。
第1 私は,始業前に教室や廊下等で子どもと触れ合う時間を確保しています。
・一人一人に応じた話題がある。
・いつもと様子が違う子ども,孤立しがちな子どもには特に配慮する。
第2 私は,始業のチャイムとともに授業を始め,子どもの状況を確認しています。
・時間を守り,あいさつを大切にする。
・欠席や欠課の状況を確認し,遅れてきた子どもから理由を聞く。
第3 私は,学習用具や提出物を忘れた子どもへの指示や配慮を適切にしています。
・補充する手立てを講じるとともに,不利益となることに気付かせる。
・繰り返す時は保護者の協力を得る。
第4 私は,穏やかな表情や態度などで,温かい雰囲気づくりに努めています。
・表情豊かに子どもの心に届くように語りかけたり,子どもの目線でうなずきながら話を聞いたりする。
・すべての子どもが安心して学習に取り組めるような雰囲気づくりに努める。
第5 私は,「○○さん」「△△くん」のように,きちんと名前を呼んでいます。
・学びの場にふさわしい言葉遣いや丁寧な板書を心がける。
・子どもの自尊感情を尊重して話しかける。
第6 私は,興味・関心を把握して,子どもに合った活躍の場を用意しています。
・場面をとらえて活躍させるなど,どの子どもにも学習に参加している実感をもたせるようにする。
第7 私は,学習意欲が高まったり,継続したりするように励ましています。
・努力を称賛し,まちがった発言にも部分的に認めるなどしてフォローする。
・作文や作品,自己評価カード等にはコメントを入れ,努力を認め,励ます。
第8 私は,考えたり,活動したりする時間や場所を十分に保障しています。
・一人一人に応じて,じっくりと取り組むための時間や場所を確保する。
・悩んだり困ったりしている子ども,課題等が早く終わった子どもなどへの個別の支援や手立てを工夫する。
第9 私は,協力して活動するなど,他と積極的にかかわる場面を設けています。
・他とかかわることのよさを実感するとともに,他から刺激を受けることで変容
が促されるようにする。
第10 私は,自由に話し合ったり,積極的に発言したりできるよう配慮しています。
・相手の立場や意見を尊重すると共に,進んで発言したり意思表示したりすることができるようにする。
・ネームプレートの活用などにより,一人一人の考えや気持ち,その変化などについて伝え合うようにする。
