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バレーボール学習開始の「適時期」の研究

タイトル バレーボール適時期
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「適時期」とは・・・

「人間の行動にも潮時がある。

 潮時に乗じて事を行えば、首尾よく運ぶ。」

・・・イギリスの劇作家・詩人シェイクスピアの作品「ジュリアス・シーザー」の中に出てくる言葉だそうです。何事にも時期があり、流れのままに乗ればうまくいくし、流れに逆らって進もうとすれば失敗することが多いものです。

適時期(optimum time)」とは、「学習ができるような状態にあることを準備性(readiness )があるといい,そのような状態になるまでの期間を準備期というのに対し,何らかの働きかけをしても学習の成立が困難になる時期を学習不適応期といい,『適時期』とは両者の間にあって,準備性のある期間の中でも学習やトレーニングの効果が最も大きく出現する時期をいう」と定義されています。 

例えば、自転車乗り(駒なし)を覚えるのに、2歳の子では早すぎて無理でしょう。しかし、中学生以上になると、今度は乗れるようになるまでに、大変な苦労を伴います。では、一体、自転車乗りはいつ覚えればいいのでしょうか?

いろいろな研究の結果、自転車乗りは、横のバランス感覚が発達し、かつ推進力をつけるためにペダルをこぐ脚部筋力がつく5歳の頃に覚えさせるのが、最も苦労なく、早く覚えられることが分かっています。

これまで、様々な研究によって、適時期が明らかにされています。

 ・自転車乗り:5歳

 ・竹馬乗り:9歳

 ・クラウチングスタート:中学2年生

 ・陸上運動としてのリレー学習:小学6年生

 ・ドッヂボールなどの攻防分離型のボールゲーム:小学2年生

 ・ポートボールなどの攻防相乱型のボールゲーム:小学4年生

 ・走り高跳び(背面跳び):小学6年生

 ・オーバーハンドスロー:男子=小学低学年,女子=小学低中学年

バレーボール学習はいつはじめればいいか?

スポーツによっては、幼児期からスタートしないと大成しないというものがありますが、バレーボールについてはどうでしょうか?

実は、戦後長きに渡って、「バレーボールの技術の習得は難しい」との理由から、小学校の体育授業ではバレーボールは実施されてこなかったのです。むしろ、「バレーボールは中学2年生から始めるべきた」という論文もありました。

しかし、現実的に、小学校でバレーボールを経験した生徒たちが、中学校や高校の部活動で活躍していましたし、一口にバレーボールといっても、6人制のバレーボールだけでなく、2人制のビーチバレーや4人制のトリムバレー、9人制のバレーボールも実施されていますし、ボールの大きさやコートの大きさ、ネットの高さも様々に設定されている中で、小学校体育でバレーボールができないというのはナンセンスだと思いました。

そこで、バレーボール学習開始の適時期の研究をスタートしたのです。

バレーボール学習の価値(レーゾンデートル)

バレーボールを体育授業で行なうためには、そのレーゾンデートル(存在価値)を明らかにし、バレーボール学習を楽しむための判断基準を明確にしなければなりません。

バレーボールには、

①用具や施設が簡単で経費があまりかからない,

②ネッを境に攻防が地理的に分離され,相手プレーヤーとの身体的接触がないので,危険性が少なく安全性に富んでいる,

③室内でも戸外でも,狭い場所で,年齢や性などに関係なく,多くの人たちが気軽に楽しむことができる,

等の利点があります。

バレーボールは,数多く実施されているスポーツの中で,最も大衆化のすすんだスポーツのひとつで,将来も継承・発展する可能性のある運動文化だといえます。

中学校のバレー部に所属しているある生徒に、なぜバレー部に入ったのかと聞くと、バレーボールはママさんバレーや職場のレクリエーションでなされることも多く、バレーボールが上手だと学校を出てからも得をすることが多いからと答えていました。でも、学校でバレーボールをやるのは、これだけではない理由があります。

まず、バレーボールは,空中でボールを落とさずに仲間でつなぎ合うという「ボレー操作」に大きな特徴があります。たとえば、バスケットボールでは、一人のスーパースターがいれば、ワンマンドリブルをしてシュートすれば試合に勝てるのですが、バレーボールでは、そういうわけにはいきません。ボレーによる操作は,バスケットボールのようにボールを保持できないので,必然的に仲間との協力が要求され,社会的態度の育成されやすいと考えられます。バレーボールは仲間の協力や連帯感を育てるのに、素晴らしいスポーツで、新入社員の歓迎スポーツ大会や自治会対抗の競技としてバレーボールが行われるのもそのためでしょう。

第2に、バレーボールのボレー操作という特性は,味方の動きからボールの飛ぶ方向を瞬時に必然的に予測して準備しなければならず,状況判断能力を養う可能性の高い教材と考えられます。バレーボールの相手コートはゴールとみなすことができ,バレーボールは,サッカーやバスケットボールと同様に,「シュート型」スポーツの特徴を持っています。そのシュートの機会はサッカーやバスケットボールよりも多く,技能の低いプレーヤーに自然にボールのいきやすい構造をもったゲームであるところにも特徴があります。また、ネットを境にした「地理的攻防分離型」スポーツであるので,自チームでの連携プレーは相手ディフェンスの影響をほとんど受けず,チームで立てた作戦を遂行しやすいという特徴をもっています。このことから,バレーボールは,「いかにパスをつないでシュート(攻撃)するか」ということが学習課題となるスポーツで,仲間と共に,状況判断能力を養うのに適切な教材であると考えられます。

第3に、バレーボールは,高いネットをはさんでラリーを楽しむスポーツであるので,目の位置より上方のボールを空中で扱うことが多くあります。上方から落ちてくるボールを目より高い位置で手で扱う際,頭部を後屈する必要があるので頸反射が誘発され,これに抗した型で四肢を動かす動作が要求されます。ここにバレーボールの技術習得の難しさがあると考えられますが,このような反射を抑制する身体操作(頸反射に抗した型での身体操作能力=目より高い位置における「空間領域でのボール操作」)は,神経系の発達の著しい時期に身につけておく必要があると考えられます。

これらの理由により、学校でバレーボールを学ぶ必要があるのです。

バレーボール学習の成果の判定基準

さて、バレーボールが戦後長らく小学校の体育授業に取り入れられてこなかった一番の理由は、小学生にとってバレーボールの技術習得が難しく、バレーボールのゲームをしても、「楽しむ」ことができないと思われていたと考えられます。

実際、大人にとっても、サーブが全く入らなかったり、ラリーが全く続かないようなゲームでは、バレーボールをしても「楽しい」と感じることがありません。

そこで、バレーボールのゲームを「楽しい」と感じるための技術レベルを明らかにする必要があると考え、初めてバレーボール学習を行う中学1年生男女生徒171名を対象に、12時間のバレーボール授業を行い、「はじめ」「なか」「まとめ」の時期にゲームを実施(62ゲーム)して、ゲームで感じる「楽しさ」を5段階で評価しました。

図1は、ゲームの楽しさの5段階自己評価とオーバーハンドパス技術を男女別に示したものです。男女間に有意差はなく、オーバーハンドパス技術とゲームの楽しさには、みごとに相関関係のあることが明らかになりました。また、この結果は、授業単元の「はじめ」「なか」「まとめ」のどの時期においても同じ傾向がみられ、バレーボールのゲームを楽しむためには、一定のレベルの技術をつけることが必要であることがわかりました。

さらに、特にバレーボールのゲームを楽しむことに影響度の高い、「サーブ継続率」「ラリー回数」「平均触球回数」の3つの集団的技術に注目し、便宜的に100を超えると技能的特性に触れてゲームを楽しめていると判定される「ゲーム発展指数」というものを考案しました。

ゲーム発展指数

ゲーム発展指数=(サーブ継続率/47.2+ラリー回数/0.76+平均触球回数/1.20)÷3×100

バレーボール学習成果の学年差の横断的検討

こうして、いよいよ、バレーボール学習開始の適時期の検討に入りました。

初めてバレーボール学習を行う小学4年生から中学3年生までの児童・生徒719名を対象に、公認4号球・軽量4号球・ミニソフト球の3種類のボールを用い、同一教師の指導のもと、同じ指導過程で、12時間のバレーボール授業を実施し、技能的・情意的・認識的側面の学習成果を比較検討しました。

個人的技術、集団的技術、情意的側面の量的・質的な変化、認識的側面の伸び率や、バレーボールのゲームを楽しめるための個人的技術、集団的技術、およびゲーム発展指数の通過率を検討した結果、バレーボールのゲームは小学4年生からでも楽しめることができますが、技能的特性に触れる楽しさを得ながらゲームができるのようになるのは小学6年生であることが判明しました。

バレーボール学習適時期の縦断的検証

さらに、バレーボール学習開始の適時期が小学6年生であることを確認するために、小学6年時に初めて12時間のバレーボール学習を経験した中学1年生男女74名(EJ群)と中学1年生で初めて12時間のバレーボール学習を経験した中学2年生男女171名(JJ群)を対象に、公認4号球を用い、同一教師の指導のもと、同じ指導過程で12時間のバレーボール授業を実施し、技能的・情意的・認識的側面の学習成果を比較検討しました。

その結果、小学6年時にバレーボール学習を経験したグループ(EJ群)は、中学1年生からバレーボール学習を経験したグループ(JJ群)よりも、学年は1年低かったにもかかわらず、ゲーム中のオーバーハンドパスの使用率や三段攻撃の出現率が高く、より技能的特性に触れた質の高いゲームを楽しむことが判明しました。すなわち、小学校でのバレーボール学習の経験は、中学校での学習成果を豊かにすることが検証されました。

使用ボールによる影響

ところで、これらの実験授業をする中で、バレーボール学習には使用ボールの影響が大きいことがわかりました。

小学生にミニソフト球、公認4号球、軽量4号球を使用してゲームをさせると、ミニソフト球を使用したグループの方がゲームを楽しみやすい傾向が認められましたが、ミニソフト球を使用させると、正しいオーバーハンドパスの技術が習得できにくいため、その後の学習に影響することが判明しました。

バレーボール学習のカリキュラム試案

以上のことから、バレーボール学習は、小学6年生において公認4号球を使用して開始すると、その後の学習成果を豊かにすることが示唆されました。

さらに、バレーボール学習のカリキュラム試案を作成したのが次の図です。

タイトル ああ、バレーオール
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タイトル バレーボールゲーム
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タイトル 何事も経験?
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